ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

演劇の効果じんわり:英国王のスピーチ

2011-04-15 21:28:31 | 映画

   

演劇人にんまり!ってタイトルで書こうと思ったんだ。でも、待てよ、僕って演劇人?そりゃおこがましいでしょ。演劇どっぷり人間には違いないけど、演劇人てのは職業として演劇に携わってるって感じだから、まっ、無難に「演劇の効果じんわり」なんて薬にはおろか毒にもならないタイトルを考えた。 

 アカデミー賞を総なめにした映画だから今更説明の必要はないな。吃音症の英国国王の次男ヨーク公が言語障害療法士との交流を通して滑らかな言葉を取り戻し、王座を継承し歴史的な名演説に成功するというお話だ。何がにんまりかというと、この療法士というのが大の演劇好き、年甲斐もなくシェークスピア劇のオーディションを受けて主催者を辟易させたり、普段相手にしてくれない息子たちがたまに遊んでくれれば、シェークスピアごっこ?つまりシェークスピア劇の一部分を演じてそれを息子たちに当てさせるってものだったりする。もちろん、彼は正規のドクターではない。演劇から学んだものや戦争で得た体験を生かして、言葉を失った人たちの相談に乗ってきたもぐりの療法士なのだ。

 治療に行われる方法が演劇的で実に嬉しいってことなんだ。まず、音楽で耳をふさぎつつ音読をさせる。これって大勢で発声練習するのと似ている。自分の声は聞こえているようで聞こえない、微妙な開放感、これが気持ちを楽にさせる。そして、その時の声を音楽抜きで録音して聞かせる。自分が声が出せるという事実に自信を持たせる。でも、その程度で直ったりはしない。なにせ、ヨーク公の心は幼児の虐待体験や王族の伝統にへし曲げられているからなのだ。

 次の治療は、患者を挑発して本気の怒りを言葉、しかも卑猥な言葉、下品な言葉ではき出させるというもの。王族としての心の戒めを解き放つ作業だ。これも演劇の稽古の中でよくやる方法だ。もっとも、この程度で彼のがんじがらめの心は開かれはしない。次は歌に乗せて自分の気持ちを語らせる。これはリズムとメロディの持っている安らぎ効果だ。少しずつ吃音を克服していくヨーク公なのだが、さらに大きなストレスが襲いかかってくる。王位を継承した兄が恋を貫き王位が弟に回ってきてしまったのだ。国王となれば、スピーチをしないわけにはいかない。人々は国王の言葉を待っている。時はあたかもヒトラーがヨーロッパ侵略の野望を公然と表明した時。国民を一つにまとめ目前に迫った大戦への覚悟を促さなくてはならない。重大なスピーチを前にして、彼はためらい、おそれる。彼等が採った方法は、マイクの前に療法士が立ち国王は彼に向かって原稿を読み上げるというものだった。にこやかに励まされ、卑猥な言葉で叱咤されつつ国王は見事にその歴的なスピーチを成功させる。

それでは最後の秘策はなんだったのか、それは、信頼と友情だった。お互い対等な関係で相手を信頼し敬愛する、そんな関係を国王は初めて療法士と持つことができた。彼は心を解き放ち重荷を下ろすことができた。世界史的な重圧を押し返すことができた。

 それが何より大切だということを療法士は最初からわかっていた。だから、彼は断固として敬称ではなく名前で呼び合うことを要求し続けたのだ。国王といえどもいっさいへりくだることなく、かといって肩肘を張るわけでもなく、ごく自然に対等の間柄を求め続けた。そんな療法士の飾らぬ姿、信念に満ちた行いがこの映画のすがすがしさの大きな要因なんだと思う。もちろん、苦しみを克服して言葉を取り戻す国王ジョージ6世にも感動するわけだけれどもね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする