その人の存在を始めて知ったのは、もう随分前になる。
沖縄出身の5人兄弟でフィンガーファイブというグループがいた。子供心に歌って踊れてすごい、そう思った。アメリカにも似たようなグループがいて、実はそっちの方が有名らしいと言うことを知ったのは、しばらくしてからだった。そのグループこそがジャクソンファイブだった。リードボーカルのハイトーンのきれいな声。勿論英語は分からなかった。誰だかも知らなかった。けど、強烈な印象だった。TVで姿を見た記憶がある。
しばらくして、Benという歌を聞いた。映画のテーマソングだった。歌っていたのはジャクソンファイブのリードボーカル・マイケルだった。あの子おっきくなったんだな、そんな感想を持った。実はMJは僕よりちょっと年上である。
数年後MTVで、彼のPVに再会する。Beat It、Billy Jean、Thriller、どれもすごかった。特にスリラーには度肝を抜かれた。例のゾンビの先頭で踊っているマイケル。素人目に見ても、半端なものではないことはすぐに理解できた。唖然とした。番組名は定かではないが、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)でフルレングスのThrillerを見た記憶がある。最初から最後まで、それこそエンドロールまで、全部見た。彼よりも歌がうまかったり、ダンスがうまかったりする人間はたくさんいるかも知れないが、両方出来るのは彼だけだ。そんな評価があると知ったのは、この頃だったと思う。映画館からでて、恋人の周りをダンスしながら歌うマイケル。勿論できあがったビデオはリップシンクではあるものの、あれだけ動き、歌い、そしてお芝居をする。まさにスーパーパフォーマーである。いつの頃からか、彼はキングオブポップと呼ばれる存在になっていた。
今から30年ほど前、ロックの王様エルビス・プレスリーが亡くなった。最近はもうなさそうだが、死後随分長きにわたり、生存説があった。勿論ガセネタだが、それだけ彼の存在が大きく、失うことへの理屈抜きの拒否感がファンにはある。僕はそう理解していた。数ヶ月前、MJが突然この世を去ってしまった。僕は公開されたTHIS IS ITを、なかなか見に行く気分になれずにいた。見れば、どうにかなくなったことを認めたのに、いやいや亡くなったことを認めたのに、その気持ちが波立つ。僕は彼の熱狂的はファンではないが、MJがいないことを、まだまだ納得したくない。納得しているふりをしているだけだ。そんな自分に気がついていたからだと思う。
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金曜日、勤務後通勤経路にあるシネコンに行った。雨が降っていて、レイトショーの一回前(ちょうど夕食時)なのでまあまあすいていた。スクリーンの真ん前で見ることができた。
オープニング、コンサートのリハーサル風景、ほぼ完成されたパフォーマンス、エンドクレジット、そのあとのメッセージ。最初から最後まで目がはなせなかった。リハーサルとはいえ、ダンスもきちっと決まるし、普通に歌を歌っていた。すごいと思った。映画館は歓声を上げている外国人客、涙を流している日本人の初老のご婦人。あまり見かけない雰囲気だった。僕は泣くことはなかったが、感動した。でも、スクリーンの中のMJが、もうこの世の人ではないことは、悲しいことだけど認めなくてはいけないのだと思った。
映画館を出て思ったことがある。あの評価は誤りだと言うことだ。曰く、
『彼よりも歌がうまかったり、ダンスがうまかったりする人間はたくさんいるかも知れないが、両方出来るのは彼だけだ。
これはウソ、少なくとも事実誤認だと思った。映画の中のMJはどのバックダンサーよりも、踊りがキレていた。年齢ならどう見ても倍は違う若者よりも、すごかった。ムーンウオークにしても、重力を無視したような、例の傾斜パフォーマンスにしても、みんな彼が作り上げた世界である。その分野の創造主を、そもそも比較することは、失礼とは言わないが、むりがある。そう思った。歌だって、まさにステージの中心。彼をど真ん中にすべてが動いていた。彼よりダンスが上手なパフォーマー、いないんじゃないか。ココロを揺さぶるような歌い方のできるシンガー、いないんじゃなのか... 本当にそう思った。
自分が考えていたよりも、ず~っと僕はMJが好きだったことを思い知らされた。せつなく、寂しかった。
GOOD-BYE MJ.
R.I.P. MJ.
THANKS.