来年のNHK大河が「家康」と聞いて司馬遼太郎『城塞』を再読し始めて中巻に進んだときに、家康の若い頃のドラマだという情報が入りました。
『城塞』は大阪の陣前夜の話だから、それ以前を書いた火坂雅志『天下 家康伝』上・下巻を購入しました。

これは9年前の日経の連載されましたが、新鮮で面白かったという記憶だけしか残らず、歴史小説は「本」で一気に読むべきだと再読しました。
家康は『自分は人より取り立ててすぐれた能力があったわけではない。武田信玄、上杉謙信のような神がかった軍略の才も、信長のような既成社会のしがらみを打ち破っていく突破力も、豊臣秀吉のごとき人間的魅力も持ち合わせてはいない』ということをよく自覚していました。
『戦国大名の戦いは、それぞれの人生哲学の戦いでもある』ようにこの4人は哲学を持っていましたが、家康の哲学は最初から確定したものではなかったのです。
この本の最初から最後まで家康に影のごとくつき従う腹心の本多正信も、初めは敵として戦ったアクの強い人物だったのです。しかし敵対していた人物も、忘れて許して自分の中に組み込んでどんどん強い集団にしていく・・・、家康の哲学形成がよく表れているところだと思います。
家康が哲学なき者は破れ去ると考えあぐねたその部分が、人に学び、耐えていく展開になっています。
人質に取られたり、移送中に織田方に売られたりと子供の頃から数奇な運命を受け入れてきたことも人間形成に大きく影響しているでしょう。
戦いのない世を夢見ていたことも確かです。
その夢の為に戦う・・・。物事を多方面から冷静に見て、決して焦らず、意見を聞いて話し合い、確実に実行していくという哲学形成過程が見事に書き込まれた小説です。
今は司馬遼太郎『関ヶ原』を読んでいます。歴史の流れと登場人物は似たようなものですが、司馬さんのリズミカルな文章に楽しく乗ってしまいます。
上中下巻と長い話だけに、普通はなかなか出てこない武士もそれぞれのエピソードを持って登場し、資料の読み込みの丁寧さはさすがだと感じ入って居ます。時代は『城塞』以前です。