今回の旅を計画した時、実は最初のランチは国立新美術館の近くにあるはずのデンマーク料理屋さんを予約しようと思っていた。
そこは日本で唯一のデンマーク料理屋さん。
もちろん大阪にはない。
私は取引先との懇親会などで年に1度程度訪れていたのだが、味も悪くないし雰囲気もよかった。
だからいつか家族で来てみたいと思っていたのだ。
ところが今回の旅の直前にいざ予約を入れておこうと思ってネット検索すると、なんと昨年に閉店していることを知った。
あー、なんてこった。
と思った。
せっかく楽しみにしていたのに。
と。
私はしばし愕然とした。
また辞めた会社で時たま訪れたスポットがなくなったことに、また寂しくも感じたのだった。
そんなデンマーク料理屋さんへ向かうのとほぼ同じ行程を歩いて行く。
カミさんと娘はあいかわらず好奇心旺盛になんじゃかんじゃ言いながら歩いている。
傍から見るとなんと思われるだろうか。
ふたりとも大阪弁丸出しで話しているので、昔なら大いに迷惑がられるところなのである。
そんなこんなしながら国立新美術館の表玄関に到着した。
ガラス張りで湾曲したデザインの建物。
私はこの姿を見て少しがっかりした。
いや、かなりがっかりした。
私には美術館や博物館のような文化施設にはある種の期待を持っているのだが、それが裏切られたような気分になったのだ。
美術館というものは伝統的なデザインであれば重厚であるべきだと私は思っていた。
また近代建築の流れであれば大胆であれとも思っていた。
ところがこの建物。
つまらいといったらありゃしない建物だったのだ。
美術館というよりもどこか田舎の地方都市が国から満額助成金をもらってので、思いっきり粋がって町長主導で地元の土建屋を動員して作った図書館のでかい奴、ぐらいにしか見えなかったのだ。
中に入ってみると、その詰まらなさはさらに膨らんだ。
まるで役所のようなロビー。
ガランとした吹き抜け。
似たような吹き抜けに有楽町の東京国際フォーラムのほうが遥かに美しい。
ここはカフェとレストランが円錐形を逆さまにしたような浮島上に作られているのが唯一のポイントか。
設計者は黒川紀章なんだという。
黒川紀章の最後の作品。
もしかするとかなりボケていたのかもわからない、と思った。
この美術館の無粋さ華のなさに現れていたのだと思う。
三階建て。
同じ形のギャラリースペースがアパートメントみたいに並んでいる。
まるでビッグサイトかインテックスという感じの間取りだった。
もしかすると美術館で経営が成り行きが立たなくなったときに展示会場にでもするのではないかとさえ思った。
この美術館は没個性の典型的な箱物としかいいようがなかった。
単純すぎて、かえって利用者にとってわかりにくいところがさらによろしくなかった。
まずアパートみたいな構造なので、チケットがどこで売られているのかよくわからない。
受付で、
「展覧会のチケットはどこで売っているんですか」
と聞くと無愛想に、
「各展示会場でお求めください」
と教えてくれるのだが、それ以前に訊きにくい雰囲気がただよっているために気の弱い人は訊くのをやめて自力で館内を探そうとするのではないかと思ったくらいだ。
美術館のチケットは美術館入口にあるというのが一般的だ。
ところがここは各アパートメントの入り口にあるのだという。
わかるかい、そんなの。
各アパートの入り口で受付テーブルを置いてチケットを販売、というなんとも無粋な方法なのだ。
美術館というのは映画館や劇場と同じで、チケットを買うところからアートな雰囲気を堪能できなければならない。
ワクワク感。
ドキドキ感。
そういうトキメキが必要ではないだろうか。
ここにはそういう要素が大きく欠けていたのだ。
それとエレベータやエスカレーターの配置も人のことをあまり考えていないらしく場所がわかりにくい上に使いにくい。
エレベータなんぞは規模の割に台数が少なくベビーカーを押した客がやってくると歩行者は利用を諦めなければならないような代物なのであった。
ここへきてこの建物。
もしかするとせんだいメディアテークのパクリではないかという印象が生まれた。
あっちは図書館とアートが融合した情報センターだが、ここと比べれば規模は遥かに小振りながら多目的ということであればデザインは遥かに整っているし、行きたい場所には迷わずたどり着けるようになっている。
メディアテークも著名な建築家伊東豊雄の作品だが、私は遥かにそっちのほうが好きだと思ったのであった。
この国立新美術館へ来た目的は「未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展」を見るためだった。
このDOMANIは1月に東京へ出張で来たときに日比谷文化館でその一部を展示していて、
「これはうちの娘に見せなければ」
と思った若手養成を目的とした文化庁のイベントであった。
優秀な若手に国から助成金を出して海外修行をしてもらうというような内容で、本展はその成果発表でもあるわけだ。
この美術展を知ったことが今回東京まで足を運ぶきっかけになった。
いわばメインのイベントでもあった。
つづく
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