<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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チェックインを済ませて晩御飯を食べに行くことになった。
大阪を出てから東京までドライブしてそのまま六本木の美術館へ行っていたので、連続16時間ほど動きっぱなしになっていた。
なのに疲れは少なかった。
普段と違うことをすることがいかに重要なのか。
疲れを知らないこの一日に私は非常に驚いていたのだ。

滞在場所が日暮里だったということもあり、家族での夕食は最も東京らしい場所を選ぶことにした。
つまり「浅草」に行くことにしたのだ。
これは予定通りの計画で浅草は私の出張時のホームグラウンドでもあり最も東京らしい香りがする、私の好きな場所でもある。
だからそもそも家族で夕食は浅草がいいかもと思っていたのだ。

宿の近くにはバス停がありそこを浅草寿町行きのバスが通っていた。
しかしそれには乗らず「台東区北めぐりん」というコミュニティバスに乗ることにした。
普通の都バスはよく利用するのだが、コミュニティバスなどめったに利用することはない。
なのでこの際、家族でミニバスも悪くないと思ったのだ。

やってきたバスは乗客1人のガラガラ状態。
私達は一番後の席に陣取り、じっくりと北めぐりんの旅を楽しむことにした。

乗る前にバスの経路のチェックなどまったくしなかった。
このためにバスがどこを走り、どこに向かっているのか皆目わからない事態に陥ってしまったのだ。
はじめバスは入谷方面から東に向かって言問通りを進むかに見えた。
だがすぐになにやら狭い道に入って私は現在地がわかななくなった。
ローカルな食品スーパーがある。
蕎麦屋がある。
怪しげな薬局がある。
バスは右に曲がり左に曲がり。
東京下町の景色が展開されるもののいつ浅草に着くのやら、少々不安になってきた。
もしかすると浅草に向かっているとこっちが思い込んでいただけなのかも知れないとさえ思った。
これはまるで海外で路線バスに乗っている感覚だ。

外は暗く店の看板なども見るのだが、知らないところばかりで迷子になってしまったのは間違いない。
いやいや。
路線バスに乗っているのだから正確には迷子ではない。
バスがどこかに連れて行ってくれる。
そのうちバスが停車して、

「ここで運転手が交代します」

などという。

途中でバスの運転手が交代するのを見るのは高速バスに乗ったときかタイのチョンブリからバンコクへ帰るときに利用した各駅停車の路線バス以来の出来事だ。

時刻も午後7時を過ぎ8時に迫ってきている。
かなり腹が減ってきた。

ここで一つ心配が浮上してきた。
浅草の夜は早い。
もし八時を過ぎると開店している店が激減する恐れがある。

私は数年前に浅草の町おこしコーディネートをしている人と交流会で話をしたことがあるのだが、ここは世界的観光地にも関わらず個人商店が多く、しかも生一本な江戸っ子気質のため、

「お客の都合なんて考えてらんねえよ」

とばかりに夜はさっさと店じまいしてしまうのだという。

「遅なりそうやな」

と腹をすかせていると思われるカミさんと娘に言ったところ、

「東京の街を見物できて、なかなかええよ」
「いろんな店があるな」

という返事が帰ってきた。
予想に反して二人はコミュニティバスから眺める東京の下町の風景を楽しんでいたのだった。

東武浅草駅で下車した時、すでにバスに乗ってから40分ほど経過していた。
時間がもったいないような気がまだしていたのだが、ともかくまずは雷門で記念撮影をすることにした。
雷門。
赤い提灯。
ここへは何度も来たことがあるが、その都度、

「記念写真なんか撮らんでもええやん」

と観光客の姿を見ては思っていたものだ。
でも自分自身が家族で来てみると、やっぱりここで撮影することになったわけで少し新鮮な感じがした。
その後仲見世を歩き、浅草的な何軒かの古びたレストランを覗きながら六区へ歩いた。
でもなかなか好みのレストランが見つからない。
方向は違うが駒形どじょうなんかも良かったかも知れないと思ったところ、

「神谷バーへ行こうか」

とカミさんが提案してきた。

前回カミさんと二人で浅草に来たときに神谷バーへ入って「電気ブラン」を飲んだことがあり、それを鮮明に記憶していたのだ。
あの時カミさんは電気ブランに「プチ」と口を付けただけで、

「これは……….あかん」

と言い、残りのすべてを私に飲ませたのであった。
そもそも下戸なのに電気ブランなんて頼むな、と私は言いたい。
仕方がないので私はビールをチェイサーに電気ブランを飲み干したのだったが、できれば二度と飲みたくない冒険のように思えたのは記憶にまだまだ新しいのだ。
東京発祥の飲み物。
電気ブランとホッピーは、すくなくとも関西人の飲むアルコール飲料ではないことは間違いない。

もっとも娘はまだ二十歳前なので酒を飲ますわけにはいかないが、浅草を代表するお店の一つを体験させるのもいいのではないかということこで、観光客とわけの分からないビジネスマンでごった返す神谷バーに突入。
食券を買うシステムに物珍しさを感じていた娘なのであったが電気ブランは飲まなかったのは言うまでもない。

つづく

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