水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

新体制

2021年04月17日 | 日々のあれこれ
 月曜~木曜、部活見学・体験日が続く。放課後になると、チラシを持った部員たちが廊下や昇降口にちらばる。
 そもそも吹奏楽のことを考えていない大多数に、いかに目を向けさせるか。
 きびしい戦いが続く。運動部の体験にいってもどってきた風の1年生にも声をかける。
 金曜、17名の新入部員を迎えることができた。経験者も含めてすべてのパートを一通り体験してもらった。
 土曜、楽器決め。なかなか難航したが、第一、第二希望ではない楽器にまわった子も心良くひきうけてくれた。
 何を選ぶかよりも、選んだあとどうするかが大事なのは、人生何事にもあてはまる。
 楽器が決まったあと、みんなで自己紹介。顧問としても節目の年にこのメンバーと一緒に部活がやれることを感謝したいとあいさつさせてもらった。願わくはこの後もぽろぽろと吹部に移ってくる子がいるなら、なおいい。
 課題曲も自由曲も決まった。けっこうわくわくしてしまう。
 ようこそ、吹奏楽部へ!
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アオのハコ

2021年04月15日 | 日々のあれこれ
 小説や映画の舞台が、土地勘のある場所だと、親近感がわく。
 たとえばミステリー系の作品の舞台が六本木なのか川越なのかで、犯罪の質が違う感じがする。
 高村薫の『冷血』だったかな、国道16号線沿いを舞台にした犯罪が描かれてた。物流の中心としての16号、都会と田舎の微妙なはざまに位置するいくつかの町での光景。
 実家暮らしの人生だったらおそらく感じられなかったあろう作品の機微を読めた気がした。
 映画「あのこは貴族」では、主人公の水原希子さんは富山出身の設定だった。慶應に受かって上京して目にする東京の町並み……という画が、彼女の視点か自分の視点かわからないように感じられ、しみじみした。
 逆にいうと、外国作品ではそういうのがわからないのが辛い。
 主人公の住む町や村がどの程度田舎なのかの都会なのか、どういう階層の人が住んでそうな町なのか、邦画ならざっくり感じられる情報を持てないのだ。
 センター試験の小説で微妙に古い作品が出題されたときに、出題者と高校生の間に大きなギャップがあって解きにくいのも同じ感覚かもしれない。

 さて、土地勘ばりばりで驚いたのが、「少年ジャンプ」新連載の「アオのハコ」。
 三浦糀さんという新進の漫画家さんが描く、青春部活ラブストーリー。
 本校にばかでかい体育館があることを知り、以前取材にこられたそうだ。
 でもラブストーリー? うちが舞台で?
 まあ、ないことはないのかもしれないけど……。
 スポーツ強豪校で、共学の中高一貫「私立栄明中学高等学校」が舞台と設定されている。
 うちが背景で名前が栄? えいめい? いろいろぶちこんできたなあ。

 取材がどのくらい反映されるのかと思って見てみると、めちゃくちゃそのまんまだった。
 100%本校の体育館や校舎の外形であるとわかる背景が描かれている。
 とくに体育館内部など、移動用ステージが保管されている状況まで「完コピ」されてる。
 ネット上では、気づいた本校OBたちの間で騒然となっている。
 「この学校川東じゃねぇか!」「でもなんで女いるんだ?」「きらきらした青春なんてなかったぞ!」……
 さもありなん。
 でも、青春てキラキラする? 
 この物語にしても、バドミントン部の猪俣くんと、彼が憧れるひとつ上の千夏先輩が登場する。
 ほのかな思いを伝えたいと思いながら、父親の海外転勤で彼女は転校してしまうという情報を耳にする。
 と思いきや、なんと先輩が……。千夏先輩、なんでここに!
 と大展開を見せ、第一回は終わる。
 さて、どうなっていくのかな。キラキラより悶々としないか? その方が正しい青春のような気がするのだが。
 いまの「ジャンプ」はこういう感じの、むしろ少女漫画雑誌に載るぽいのが連載されるんだと驚いた。
 「アストロ球団」や「男一匹ガキ大将」の時代じゃないんだね。
 「はだしのゲン」「庖丁人味平」「プレイボール」……とか読んだなあ。
 でも、毎週チェックせざるを得ないではないか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新年度

2021年04月05日 | 日々のあれこれ
 4月1日。練習はoff。新学校長の就任、新任の先生が10人来られるという、本校としてはかなり大きな変化があった年度替わり。今までどおりだったら、歓迎会が盛大に行われただろうに。いつになったら宴会ができるのだろう。娘たちの会社でも、ここ1年以上会社関係の飲み会は規模を問わず一切ないという。民間はそうじゃないかな。宴会をしたい人は、国会議員とか公務員にならないといけないのか。
 4月2日。入学式が講堂ではなく体育館で実施されることになり、その準備。体育館の運動部がレンタルのイスを並べ、吹奏楽部は音響機器搬入の手伝い。校歌や君が代の演奏はない。いつも文化祭の音響をお願いしている業者さんが、文化祭とは異なり小型のスピーカーをいくつも配置し、体育館全体にやまびこが起こらない完璧な調整をしてくれる。
 4月3日。入学式。卒業式もそうだったが、来賓祝辞やら祝電披露やらを省略したシンプルバージョン実施は、かえっていいのかなと感じる。でも歓迎演奏会はあった方がいいな。式後、1年担当教員の紹介。学年主任として接する最後の生徒達がいとしくなってきた。機材片付けを手伝い、新入生獲得作戦のミーティングなど。
 4月4日。ミニコンの曲、コンクールの候補曲を想定し、午前練習。1年生オリエンテーションで急遽変更になったパーツの日程直しなどをして、「キンキーブーツ」を観に出かける。部員みんなにも観てほしい作品だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

定演前後

2021年03月30日 | 日々のあれこれ
 3月26日。午前中荷造りとパンフレットを折る作業。積み込みして移動し、午後ウエスタ入り。楽器を入れ、山台を組んで、まずは二部の練習。流れを追いながら、役者の立ち位置や着替えのだんどりを確認し、担当者が音響と照明の扱い方を習う。お芝居のストーリーにあわせてJポップを演奏するという二部が定番になってしまったので、やはり前日のリハーサルが必要だ。本番当日は、いろんなものがセット出来てる状態からスタートできるのもありがたい。
 27日。午前中は二部の練習。音響と照明の卓の担当者二人が有能なので、操作のコツをつかんでいるようだが、ピンマイクとワイヤレスの使い分けの調整に苦労していた。保護者会から差し入れていただいたお弁当をいただき、午後のリハーサル。一部、三部の曲は部分的に少しだけ。拍子の変わる「ポップコピー」で一番不安なのは指揮者なのだが、部員もそれを理解しながら対応してくれている。アンコール「ヘアスプレー」に新しい動きを足してみたが、直前の集中力からか、すぐ身に付いた。
 そして本番。思いのほか多くのお客さまにお越しいただいた。例年にはない受付での記名や検温はすべて保護者会の方がやってくださった。手伝いに来てくれたOBは舞台まわりに専念してもらえる。おかげでいろんなことがスムーズに進行でき、本番がはじまったら余裕を感じたくらいだった。
 本番を終えて、ミーティングして、撤収。1・2年生で学校にもどり片付けをし、部員を駅まで送る。16時開演だと、その日のうちに片付けまでできる。
 28日、29日はオフ。いただいたアンケートを読んだり、ウエスタの使用料を振り込みにいったり。時間を気にせずお昼をたべられた。「ノマドランド」も観れた。
 30日。まずはそうじ。基礎合奏、曲合奏。課題曲1をもう一回やり直してみる。あと「夜に駆ける」。音が少ししっかりしている気がする。「こんなに盛りだくさんで大丈夫?」というぐらいの負荷は、若者には必要なのだろう。やってみて駄目なら修正すればいいだけだから、最初から無理と決めつけずいろいろやろうとするのはプラス、というのが今年の教訓だった。
 「延期や中止にした学校さんも多いこの時期に開催出来るだけでもありがたいことだな。ここまでできるって見せてみようぜ」と練習再開時に話したことを思い出す。3週間弱で、しかも1、2年ともに初の演奏会で、よくがんばった。かりに単なる思い込みであっても、「やればできるかも」と内面にあることが「体力」になる。こんな経験ができる環境を用意してもらえていることに感謝したい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

定期演奏会

2021年03月27日 | 日々のあれこれ
 たくさんのご来場、ほんとうにありがとうございました!!

  川越東高校吹奏楽部 第28回定期演奏会

 日  時 3月27日(土) 15:15開場(15分はやめます)入場無料
               受付で検温・消毒・ご記名にご協力ください
               16:00開演 18:30終演予定

 会  場 ウエスタ川越 大ホール(JR・東武東上線川越駅西口より徒歩5分)

 演 奏 曲 1部 「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲
          ポップ・コピー
          ミュージカル「レ・ミゼラブル」より

       2部 「嵐メドレー」
         ~ フレフレ龍馬!2020 あふれ出す思いをあなたに伝えたい ~

       3部 君の瞳に恋してる
          セプテンバー 
          ボレロ(in Pops)
                       ご来場お待ちしてます!!

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2部紹介(3)

2021年03月24日 | 日々のあれこれ
 「嵐」は新しい時代の誕生を見届け、言祝ぎ、そして自らは活動を休止していく道を選びました。
 「嵐」というグループとしての活躍を目にすることはなくなりましたが、彼らが残してくれたものは失われません。私たちの心に植え付けてくれたものは、いろんな形で育ち続けます。
 人と人との関係も同じような気がします。
 人は出会い、必ず別れを迎えます。ずっと一緒にいようと誓い合い生涯をともにすることができても、どちらかの死という形での別れを免れることはできません。
 でも、別れが「無」でないことを私たちは知っています。
 直接会えない時間がほんの少しでも、心がつながっている感覚を経験しています。
 高校三年間をともに過ごし、その後ずっと会えなくても、何年かぶりに再会して昔と同じように話が出来るのは、別れていても一緒にいたからです。
 何かの拍子にふと「嵐」の曲を口ずさめるのは、一緒に生きているからです。
 物理的に一緒にいるかどうかなんて、ささいなことではありませんか。
 部活動は、そういう形でともに生きる仲間をつくる場であるともいえます。「不要」なはずはないですよね。
 今日こうして、あなたと出会い、ともに過ごせた時間に感謝します。
 演奏会が終わり別れても、一緒に生きていけることに感謝します。
 なんとかセミナーの勧誘みたいな文章になってしまいました……。
 二部の「嵐メドレー」に登場する人物達も、私たちと同じように「嵐」が隣にいた時代を生きて、物理的にそばにいなくても、心の中にいる人への思いを抱きながら毎日を過ごしています。最後までお楽しみください(前置き、長っ!)。

 ~ 夏疾風(2018年)~ Happiness(2007年)~ A・RA・SHI(1999年)
    愛を叫べ(2015年)~ 君のうた(2019年)~ カイト(2020年)~
     Journey to Harmony(2019年)~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2部紹介(2)

2021年03月23日 | 日々のあれこれ
 今の高校生がまだ生まれていない「嵐」デビューの年、あなたは何歳でしたか?
 「花より男子」が大ブレークした2007年、あなたは何歳でしたか? 
 「OneLove」「明日の記憶」「マイガール」……すべてが大ヒットし、初めて「紅白」に出たとき、あなたは何をしていましたか? 誰と紅白歌合戦を見ましたか?
 「紅白」初出場のとき、結成から10年も経っていたんですね。
 あなたが初めて好きな人ができたとき、聞こえてきた嵐の曲はなんですか?
 赤ちゃんをあやしながら聞いていた曲は何ですか?
 カーステレオからはどんな曲が流れてきましたか?
 ちょうど嵐さんが生まれた頃に出会い、恋をして、家庭を築き、生まれたお子さんが今ちょうど高校生……、そんなご家族もあるのではないでしょうか。
 とりたててファンではなくても、この20年の間、いろんな形で彼らの音楽に触れ、ドラマや映画を見、バラエティ番組での楽しい様子、震災のあと被災地はもとより私たちの心によりそい続けてくれたふるまい……。
 これほど老若男女を問わず広く愛されたグループはなかなかありません。
 平成から令和に変わるときの、新しい天皇陛下を祝賀するために捧げられた「Journey to Harmony」も感動的でした。
 岡田恵和さんの作詞、菅野よう子さんの作曲、嵐さんの歌唱。
 円熟した作り手、成熟した歌い手が、たまたま時代の変わり目に存在するという奇跡によって生まれた作品ではないでしょうか。日本の、音楽だけでなく文化全体の伝統と未来が象徴されていると感じました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2部紹介(1)

2021年03月22日 | 日々のあれこれ
嵐メドレー「フレフレ!龍馬2020」~ あふれだす思いをあの人に届けたい ~

 2020年12月31日をもって活動休止……。
 嵐ファンのみなさんは、この事実をどんなふうに受け止めたのでしょうか。
 ファンでなくても、自分の人生の中に自然に存在し、いつもそばにあると疑わなかったものを失うことへの寂しさを感じ、時代の区切りを意識した方は多いと思います。
 喪失感の大きさは、裏返せば、いかに彼らが私たちを支えてくれていたかということです。 ほんとに長い間ありがとう、おつかれさまという思いしかありません。
 それにしても、結成から20年……。
 現役の高校生達が生まれる前から、「嵐」は、歌い踊り演じ語り、私たちを笑わせたり泣かせたり勇気づけたりしてくれました。
 「嵐」が結成されたのは1999年。1900年代の最後の年です。
 wikipediaで調べてみるとこんな事件があった年です。
 1月:欧州連合でユーロが導入される、3月:日産自動車がルノーと提携、4月:コロンバイン高校銃乱射事件、7月:ノストラダムスの大予言あたらず、12月:パイオニアからDVD発売。ベストセラーは『五体不満足』、大ヒットした曲は「Loveマシーン」「Automatic」「だんご3兄弟」……。ぴんときましたか?
 音楽業界でいえば、浜崎あゆみ、Gray、ドリカム、Kinki kids、槇原敬之、ゆずといったそうそうたる方々が全盛期を誇り、宇多田ヒカルさんがデビューした年に、ジャニーズからは嵐が「A・RA・SHI」で打って出たわけですね。
 ちなみに、年が明けて2000年の3月19日に、本吹奏楽は第9回の定期演奏会を「やまぶき会館(川越市民会館中ホール)」で開催しています。一部「仮面幻想」「プスタ」、二部「ザ・ヒットパレード」「美女と野獣」といった、二部構成のプログラムで行いました。このあたりから徐々に、少しでも楽しい演奏会を作ろう、川東の色を出そうと模索しはじめた時期のような記憶があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さて

2021年03月05日 | 日々のあれこれ
 3月2日。卒業式の予行は、わりとすぐ終わる。2年続けて校歌指導できなかった。このままでは歌詞を忘れてしまうかもしれない。
 そして予餞会。教員がもちよったプレゼントの抽選会からの、3年教員チームの歌は「3月9日」。みんなで大合唱できないのは、やはりさびしい。自分のプレゼントは、レトルトの「ゴーゴーカレー」と文庫本『夏への扉』。もらった子は、たいしたもんじゃなかったと思ったかもしれないが、自分の人生における、ベスト級に好きな食べ物と本の組み合わせだ。次回(次回があるなら)、ベストCD「氷の世界」もつけよう。ベストDVD「ローマの休日」も。べっこうのピック、曲げわっぱの弁当箱、デンハムのジーンズ……予算オーバーか。
 3月3日。卒業式。呼名からの卒業証書授与、褒賞授与、校長式辞、送辞、答辞で30分強。昨年に続いて教員と卒業生のみシンプルな形だった。保護者の方には入っていただきたいが、式次第そのものは今後もシンプルなままでいいんじゃないかな。祝電とか形だけになってるし。
 とはいえ、ここで終わったのでは私学年の名折れだ。前日3年生だけで仕込んだサプライズを用意させてもらった。
 今年度で勇退される学校長への卒業証書授与だ。12月にサプライズをしかけられたラグビー部部長にその重責をになってもらった。
 「卒業証書 あなたは、長らく川越東高等学校の発展に寄与し、私たち川東生が、のびのび過ごすことができる学校をつくってくださいました。本年度をもって学校長職を卒業することをここに証明するとともに、その努力と愛情に感謝の意を表します。長い間おつかれさまでした。川越東高等学校35期卒業生一同」
 いい仕事したなと思えた。
 3月4日。入試で卒業式に出られなかった子に、職員室で授与式をする。少し運動して、映画へ。
 3月5日。学年末考査初日。試験監督が一つ。来年度の授業へのアイデアが山ほど降ってきた。
 卒業関係も一段落したかな。
 さて、定期演奏会をどうしてくれようか。先日、会場の人と打ち合わせした時とは様子がちがってきてしまったが、いいアイデアがふってくるような気もする。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ふっきれたから

2021年03月04日 | 日々のあれこれ
 先日、朝のナックファイブで、アロハ太朗さんが高校入試について話していた。
 一番の小説問題は、一色さゆり『ピカソになれない私たち』からの出題。
 美大に通う学生が、自分の絵について悩む場面だった。漫画家の太朗さんは、身につまされるものがあったという。
 そうだろうなあ。こういう分野で生きていこうとする人で、本当に食っていけるのか、そもそも自分に才能があるのかと思い悩んだ経験は、けっこうな人が抱くのではないだろうか。
 太朗さんは言う
 最後の問題は、自分が正解を言いますね。
 そんな何十字も書かせなくていいよ、正解はね「ふっきれたから」、これでいいんですよと。
 たしかに、先日問題を見たとき、そんな印象があった。ちゃんと読み直してみた。


~ 望音さ、と太郎は天を仰いだ。
「へこんでる場合じゃないよ。目の前に広がってる可能性に比べたら、どれもちっぽけなことじじゃん。望音が本当にいいと思う絵を描いていれば、望音が望音じゃなくなるわけないよ。だって望音には、才能があるもん。」
 太郎は自分の言葉に納得したようにつづける。
「うん、才能だよ。運や努力も関係するんだろうけど、生まれつき途方もない才能があるやつって世の中にはごく稀にいると思うんだ。そういうやつは放っておいても、回り道しても、いつか絶対に花ひらく。まわりには想像もつかなかったような、大輪の花を咲かせるんだよ。」
 才能という、実体のない言葉が望音にはずっと苦手だった。
 母をはじめ周囲の口から出るたび、ぴんと来なくて信じられなかった。
 自分に才能があるのかどうかは分からない。でもこうして誰かに才能があると信じてもらうことが、こんなにも勇気になるのだと望音ははじめて知った。太郎の言葉が、強力なおまじないのように望音に勇気を与える。その勇気が指先に伝わり、絵を描きたいという気持ちが広がっていく。
「俺さ、望音が咲かせるその花を、いつか見られるのを今から楽しみにしてるんだ。だってその花は本人への贈り物なだけじゃなくて、結果的にはまわりへの贈り物でもあって、他の大勢の人の心に必ず残るものだから。」
 太郎は絵画棟を見上げながら言った。
「〈 ④太郎さん、ありがと。 〉」
 太郎と別れたあとアトリエに戻りながら、望音は不思議と痛みと耳鳴りが消えたような気がした。

問4 ④「太郎さん、ありがと。」とありますが、このとき望音が太郎に感謝をしている理由を、次のようにまとめました。空欄にあてはまる内容を、卒業制作、未知の二つの言葉を使って、四十字以上、五十字以内で書きなさい。ただし、二つの言葉を使う順序は問いません。(7点)

 太郎が、自分の才能を信じてくれて勇気が出たということだけでなく、〈     〉と思わせてくれたから。 ~


 選択肢の問題でも、選択肢を読む前に自分で答えを作ってみる作業が大事なので、まずは解答の条件を無視して考えてみる。
 太郎は言う。


~ 「へこんでる場合じゃないよ。目の前に広がってる可能性に比べたら、どれもちっぽけなことじじゃん。望音が本当にいいと思う絵を描いていれば、望音が望音じゃなくなるわけないよ。だって望音には、才能があるもん。」 ~


 出題された部分以外にも、望音の悩みはいろいろ書かれているのだろう。
 一番大事なのは、望音自身の回想部分にあることは間違いない。


~ 望音はロンドンの喧騒を行き先も決めずに彷徨った。明るい未来がこの街に広がっているはずなのに、頭のなかを不安が塗りつぶす。離島出身で美術のことも日本のこともなにも知らなくて、東京でだって精一杯なのに、さまざまな人種や言語の行き交う、当たり前に自己主張を求められる大都会で、本当に自分はやっていけるのか。 ~


 ほんとに自分は留学できるのか。どんな絵を描きたいのか、自分の将来をどうしたいのか。
 ただ絵が描きたいだけと思ったり、口に出したりするのは、もしかしたら逃げかもしれない。
 そんな悩みが、今の自分を束縛し、絵を描き始めたころの感覚を失わせている。
 そんな望音を太郎は一喝する。
 おまえ、ふざけんなよと。
 ニュアンスとしては、「ロイアカに誘われて悩むなんてばかじゃねーのか?」という思いだろう。
 そして太郎は続ける。


~ 「うん、才能だよ。運や努力も関係するんだろうけど、生まれつき途方もない才能があるやつって世の中にはごく稀にいると思うんだ。そういうやつは放っておいても、回り道しても、いつか絶対に花ひらく。まわりには想像もつかなかったような、大輪の花を咲かせるんだよ。」 ~


 望音は才能という言葉が苦手だった。「あなたは才能がある」とずっと言われて育ってきたのだろう。
 母親や田舎の人に言われてぴんとこなかった言葉だが、太郎に言われて心がわきたってくる。
 ここには書いてないけど、太郎への友情以上の思いが加わっているのではないだろうか。


~ 自分に才能があるのかどうかは分からない。でもこうして誰かに才能があると信じてもらうことが、こんなにも勇気になるのだと望音ははじめて知った。太郎の言葉が、強力なおまじないのように望音に勇気を与える。その勇気が指先に伝わり、絵を描きたいという気持ちが広がっていく。
「俺さ、望音が咲かせるその花を、いつか見られるのを今から楽しみにしてるんだ。だってその花は本人への贈り物なだけじゃなくて、結果的にはまわりへの贈り物でもあって、他の大勢の人の心に必ず残るものだから。」
 太郎は絵画棟を見上げながら言った。
「〈 ④太郎さん、ありがと。 〉」
 太郎と別れたあとアトリエに戻りながら、望音は不思議と痛みと耳鳴りが消えたような気がした。 ~


「太郎さん、ありがと。」の心情は、どう書けばいいだろう。

 自分が絵を続けることの意味に思い悩んでいたが、
 才能を自分のためだけでなく他人のためにも発揮すべきだと勇気づけてくれる太郎の言葉を聞き、
 いろんな迷いが消え、絵を描きたい気持ちがあふれてきた状態。

 これで百字くらい。
 うん、アロハ太朗さんの答えと同じだ。
 埼玉県の正解例をみてみた。


~ 太郎が、自分の才能を信じてくれて勇気が出たということだけでなく、
  〈 自分の卒業制作のプランは自己模倣でしかなく、もっと広くて未知の世界に足を踏み入れる必要がある 〉
  と思わせてくれたから。 ~


 そっか、卒業制作とか入れないといけなかった。
 でも、それが一番なの? センターの選択肢でこういうのがあると、「セマい」とか「ズレてる」扱いされそうだけど。
 ちょっと出題者と意見がずれてしまった。だから私立高校で働いてるのか。
 この試験で思うように点がとれなくて本校にくることになった新入生の方がいるなら、がっつり指導させていただきたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする