実は、正月に小臼歯の詰め物が取れてしまった。
かつて、虫歯治療の跡に金属の詰め物をしてもらったのだが、デンタルフロスに引っかかって取れてしまったのだ。
手で嵌め込んでみたものの、物を食べると外れてしまい、結局、いつの間にか、食べ物と一緒に体内に入ってしまった。
幸い、詰め物がなくてもその歯に痛みがないので、 勤務先の仕事が一段落する今まで待った。
仕事がほぼ終わったので帰京し、数年ぶりに近所の歯科医院の門をたたいた。
治療用の椅子に身を沈め、歯科医師の指示通り、手鏡で自分の口内の詰め物が取れた小臼歯を見ると、奥側が黒くなっている。
虫歯が進行していたのだ。
この虫歯のために詰め物がゆるくなり、デンタルフロスの力で取れてしまったのだという。
詰め物を入れ直してもらえばいいとばかり思っていたのだが、そうは問屋が卸さない事態だ。
当然、選択の余地を許されず虫歯の治療が開始される。
数年ぶりの虫歯治療だが、方法は当時のままなようで、あのチュイーンと鋭い音が鳴り続けるマシンが、わが虫歯部分に遠慮なく直撃を加える。
「痛かったら、左手を挙げてください」というので、左手をスタンバイ状態にする。
その独特な音と歯に響く感触は、かつて体験した、一瞬のけぞるような鋭い痛みを条件反射的に思い出させてしまい、
その感覚が到来するのを、しっかり待っている状態になってしまう。
これではその感覚により敏感になってかえって痛みが激しくなるようで、この待ちの状態から脱したいのだが、
あの音がこの状態から集中をそらすことを許してくれない。
一旦、口をゆすいで、再開される。
虫歯本体に接近しているので、毎回の直撃に痛みが伴い始める。
あまりに痛かったら、初めて麻酔をするらしい。
結局、私は左手を挙げる機会を逸し、一瞬顔を歪める程度であったので、のけぞる痛みに遭うことも、麻酔に頼ることもなく、虫歯部分は除去された。
その後、かつての銀色の金属ではなく、歯と同じ色の充填物で歯の凹み部分が塞がれ、治療が終わった。
歯科治療は一回で終わることはないと思っていたのだが、一回で終わった。
歯のトラブル(特に虫歯)はそれだけで日々持続するストレッサーになる。
それが解決したのだから、ストレスが1つ分軽くなったことになる。
ちなみに、デンタルフロスは上下ではなく、横から抜くようにと言われた。