シリーズで紹介している『アンチエイジング医学の基礎と臨床』は、さまざまな領域が扱われていて、日常生活上のヒントが多い。
たとえば皮膚科の領域では、健康だけでなく美容の視点から論じられている。
皮膚老化(しみ、しわ、たるみ)は、内的要因より、外的要因の方が強いかもしれない。
太陽光による「光老化」である。
光老化の主犯は紫外線(赤外線A波もしわの原因になるという)。
紫外線(A,B)はまずは糖化ストレスをもたらし、皮膚の粘弾性を低下させる。
そして B波はしわ、しみ、皮膚ガンの原因になり、有害度が高い。
ただ生体の紫外線防御システムであるメラニン色素が少ない白人はことさら紫外線に弱く
、われわれ日本人は、彼らに比べて皮膚ガンのリスクは少ない。
また A波は、真皮にまで達し、そこで炎症反応を起こして、しわを作る。
紫外線は広義の”放射線”である(γ線、X線より波長が長い)。
ということは、一定以上の曝露は害の増大になるものの、一定未満の少量であるなら、
無曝よりもプラスの効果がある「ホルミシス効果」が期待できる。
すなわち、紫外線とは、うまくつきあえば健康を増進できる。
それは、ビタミンDの合成効果(その他に、殺菌効果)。
ビタミンDは抗酸化(=アンチエンジング)効果があり、骨の合成にも必要。
もちろん食物からも摂取できるが、日本人の食生活では不足気味であり、特に高齢者は体内での合成能力が落ちる。
問題は、その曝露時間。
アメリカの研究では、顔・首・手・腕(全体の25%)の露出で10分間で1000IU/日のビタミンD生成されたという。
ただしこれは白人(スキンタイプ II)のデータで、日本人はメラニン色素がより多い(スキンタイプ III)からもう少し長くないと効果が出ない。
日本の環境省では、 「両手の甲くらいの面積が15分間日光にあたる程度、または日陰で30分間くらいすごす程度で、
食品から平均的に摂取されるビタミンDと合わせて十分なビタミンDが供給されるものと思われる」という。
実はUVindexで算出される(有害)紫外線量は、緯度・季節・時刻・天気で異なる。
なので適量は、紫外線量の実測を無視した”時間”だけでは表現できない。
紫外線の皮膚に対する影響度を正しく評価するには、紫外線強度とスキンタイプの兼ね合いによって計算させる MEDsという単位(最小紅斑量)を出して、その 1MEDsに達する紫外線量(UVDoes)を使用すべきである。
読者には聞いたことない単位で面食らうかもしれないが、 実は我が「日進気象台」では紫外線量のUVindexとUVDoesの両方の実測値をネット配信しているのだ。
上述したアメリカの研究では、ビタミンDの1000IUの合成に必要な UVDoesは 0.24(スキンタイプII)、
すなわち最小紅斑(日焼け)に到る1/4の累積量(曝露時間)で済むというわけだ。
それを当てはめると、 本日13時現在で、日進気象台(愛知県日進市)の10分間の UVDoesは0.35に達しているから(黄色人種のスキンタイプIIIによる算出)、今なら10分間外に出るだけで、食事摂取をも前提とした必要量は得られることになる。
ただし今の季節は、皮膚の曝露部分は全身の10%以下なので、30分くらいは必要か(私の顔は帽子の下)。
いうなれば、ただ外出するだけで、短時間でビタミンDが合成されるのだから、
こんな効率的なことはない(含有量の多い食物を選んだり、サプリを飲んだりするのは面倒でしょ)。
ちなみに、紫外線は、大気圏で散乱しているから、太陽直射以外の青空の部分からもある程度降り注いでいる。
なので、日陰にいても、効率は落ちるものの、いいかえればそれだけ長時間安心して、
紫外線を受けることができる(その他、壁面や道路からの反射量はほとんど無視してよいといえるのは、私が紫外線計で実測しているから)。
紫外線の美容的な害(しかも紫外線に弱い欧米人の例)だけが喧伝された結果、時折、完全防御のご婦人をおみかけするが、
せっかくのビタミンD合成を拒否することで、むしろ骨粗鬆症を招来しているようで心配になる
(盛夏の日中ならその防御は有益だが、紫外線量が不足気味の曇天や冬期では逆効果)。
防御態勢のためのもっともよい判断基準は、UVDoseのリアルタイムの実測値なのだが、
日進気象台のある愛知県以外の人は、残念ながら緯度も天気も違うので参考にはできない。
UVDoseはUVindexとは理論的には完全相関だから、入手可能なUV計(数値で表示されるもの)を使って、そこから推定値を出せる。
日進気象台のデータによると、スキンタイプIIIにおける10分当たりの近似式は、UVDose=UVindex×0.07。