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静かな木 藤沢周平

ごく短い短編が3つ収録されていて、30分で読み終わってしまうような本だが、その満足度は何とも言えないほど大きい。特に最後の1編は、著者の最後の小説ということで、この作品が全ての作品の到達点だと言われると、その感慨はとてつもなく大きく感じられるのだ。その1編は、ものすごく短いが、人物造形に過不足なく、数名の登場人物への共感も只者ではない気がする。その他の2編は、いずれも子どもに家禄を譲り、隠居生活をしている下級武士の家の老人が主人公で、彼らが悠々とした生活の中である種の気概をみせるという話。その一蹴に見せる強さが心を打つ。これも多くの傑作をものにしてきた著者が行き着いた境地だと思うと感銘の度合いが100倍くらいに増す。この本を読んでしまうと、後は振り返るだけかと思うと何だか非常に寂しい気がしてしまった。(「静かな木」 藤沢周平、新潮文庫)

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