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嘘つき姫 坂崎かおる

初めて読む作家の短編集。日常のありふれた話の対極にあるような違和感満載の世界や、現実世界と少しだけ違う要素が物語の経過とともに大きく膨らんでいく世界を描いた短編が並んでいて、この作家の想像力の凄さに圧倒された。電気椅子によるショーで死を求めるニューヨークの魔女、アメリカの農村で雇われ農夫として働く異形の存在など、とにかく不思議な話があるかと思えば、戦場で戦闘ロボットを庇って死んだ若者、試作品の育児体験キットに翻弄される女性2人、古くなった電信柱を切る作業に従事する女性の話など現実世界からごく近い物語まで色々だが、いずれも著者独特の世界が繰り広げられる。一番衝撃だったのは、育児お試しセットのお話で、冒頭の初期設定の説明のくだりとラストの衝撃は、これまでに読んだ小説の中でも圧倒的に凄かった。(「嘘つき姫」 坂崎かおる、河出書房新社)

所用のため1週間ほど更新をお休みします。
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大ピンチずかん2 鈴木のりたけ

大ヒットしている絵本。子ども目線で色々なピンチの場面を数字化していて、見ているだけで楽しい。それと、これは子どもの頃にそうだったなぁとか、大人になった今でもこうなると結構ピンチだなぁとか、大人になってピンチではなくなったけど高齢になってまたピンチと感じるようになったなぁとか、色々考えながら読むのがこれまた楽しい。最後の泥だらけのページのところのオチがまた大変素晴らしい。本書と同じコンセプトで「老人ピンチずかん」というのがあっても面白い気がするが、少しブラック過ぎるかもしれない。(「大ピンチずかん2」 鈴木憲武、小学館)
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ゴッホは星空に何を見たのか 谷口義明

天文学の研究者が、ゴッホに関する先行の研究書、大量に残されたゴッホ本人の手紙、著者自身の科学に関する知見を使ってゴッホの絵に描かれた星空についての謎の解明を試みる一冊。絵が描かれた場所とおおよその日時、画家の目線の方角などから、描かれているのが何の星を確定したり、配置の不自然さ、遠近法の歪みなどから、画家の心情や意図を読み取っていく。最初は素人目には少し考えすぎというかゴッホ自身そこまで考えていたのかなぁと思う部分もあったが、読み進めていくと、ゴッホ自身が星に対して並々ならぬ関心を寄せていたことを知り、著者の分析の正しさのようなものがじわじわと伝わってきた。(「ゴッホは星空に何を見たのか」 谷口義明、光文社新書)
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赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う 青柳碧人

「赤ずきんちゃん」シリーズの最新刊。著者の「昔話シリーズ」が終了したと告知されていたので、赤ずきんちゃんを主人公にした話ももう出ないのかと思っていたら、別のシリーズという扱いだったようだ。内容は、アラビアンナイトの世界に迷い込んだ赤ずきんちゃんが遭遇する事件を解決し、自らのピンチを乗り越えていくという、これまで通りのもの。一応謎解きの要素のあるミステリー小説ではあるのだが、舞台がアラビアンナイトの世界なので、ランプの魔人、空飛ぶ絨毯、触れるものを石に変えてしまう泉など不思議アイテムだらけ、それらのアイテムの魔力が発揮される条件も色々、さらにそれらが後から判明する場合もあって、真面目に謎解きを楽しむのはほぼ不可能だ。「何だこれは?」と思いつつ「面白いからまあいいや」という感じで楽しく読み終えた。(「赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う」 青柳碧人、双葉社)
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転売ヤー闇の経済学 奥窪優木

「転売ヤー」と呼ばれる人たちへの取材を通じて、どのような品物が転売の対象になり、彼らがどのような手順で利益を出そうとしているのかを綴った一冊。本書で取り上げられている転売の対象となる品物は、ポケモンカード、PS5、羽生結弦グッズ、ディズニーグッズ、格安スマホ、高級酒などだが、これらには流行り廃りがあり刻一刻と変化しているとのこと。販売者側も転売をさせないように色々手段を講じるのだが、転売する側もその裏をかくように新たな方策を考えるようになり、イタチごっこなのだそうだ。一方、彼らの手口として紹介されているのが、クリスマス前のおもちゃ買い占め、デパート外商を利用した高級品購入、中国人によるライブコマース、各地のチャリティバザー行脚など。クリスマス直前のおもちゃ買い占めでは、5000〜7000円、バリエーションが少ない、知育玩具ではないという特徴の商品が買い占め対象として狙われるというのがなるほどと感心した。こうした手口を少しでも知っていれば、やたら高いものを買わざるを得ないという状況を回避できるので知っていて損はないだろう。(「転売ヤー闇の経済学」 奥窪優木、新潮新書)
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ラグビー 横浜キャノンイーグルスvs静岡ブルーレヴス

ラグビーの観戦は3回目。個人的には横浜のデクラーク選手の大ファンで、試合中も彼の動きをずっと追いかける形で観戦。試合は、開始早々から横浜が立て続けにトライを決め、田村選手も難しい位置からの好キックを連発。後半途中まで少し点差を詰められる場面もあったが、終わってみれば合計8トライの圧勝。たくさん点を取り合う素人には楽しい一戦だった。お目当てのデクラーク選手も相変わらずボールの近くに必ずいるし、キックも冴えていて嬉しかった。なお、一昨年の12月に同じスタジアムで観戦した時は日陰の席であまりの寒さにホッカイロを握って震えたのを記憶していたので、今回はひなたの席を選択。そのため今回はポカポカ気持ちよく観戦できたが、その代わり日光が眩しくてスタジアムの大型スクリーンがほとんど見えず苦慮した。
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ヘビ学 ジャパンスネークセンター

ヘビに関するびっくりするようなことを教えてくれる解説書。ジャパンスネークセンターという研究機関の研究員4名による共著で、ヘビの生態、ヘビ毒、ヘビの行動学などの専門家として最新の研究成果を教えてくれる。ヘビは世界に約4100種いるが、そのうち日本に生息しているのは43種だけでその大半が日本の固有種だそうだ。ヘビの特徴は、脚がない、瞼がない、耳孔がない、下顎が左右独立していて上顎との間に関節が複数あるなど。また地中棲、地上棲、水中棲、樹上棲など生息場所が多様、10数cmから10mと大きさも様々、卵生も胎生もあるとのこと。この辺りまでは、「へぇそうなのか」という程度だが、読み進めていくと、ヘビには聴覚がない、舌で嗅覚を感じている、脊椎が150〜350ある、0.003°Cの温度差を感知する、食事は週1回でOKなどなど、びっくりする記述の連続だ。インドのコブラ使いが笛を吹いているが、音を聴いてクネクネしているのではないというのが笑える。一方、ヘビ毒については、血液を凝固させて血管を破壊し出血をもたらす出血毒、神経の刺激伝達を阻害する神経毒など沢山の種類があり、それがヘビの種類によって違ったり、複数の毒が混ざっていたりしているとのこと。ヘビに噛まれた時の対処には、どういうヘビに噛まれたかを特定することが困難、山奥なので病院が遠い、薬の常備が困難、症例が少ないので医師も判断できず「虫刺され」と診断しがち、といった問題があるとのこと。「おわりに」を読むと、編集者から2024年10月までに書き終えるようにとの依頼があった書かれていて、今年がヘビ年だったと思い出した。とにかく面白いトリビア満載の一冊だった。(「ヘビ学」 ジャパンスネークセンター、小学館新書)
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イランの地下世界 若宮總

イランに長く滞在しイラン人との様々な交流を持ってきたという著者によるイランについての解説書。題名の「地下世界」は、アウトローとか闇世界とかの意味ではなく、メディアでは語られないプライベートの空間や外国人に見せるイラン人の本音という意味で、書かれている内容は一般的なイラン人が何を考え、どのように日々を過ごしているかを教えてくれるものだ。但し、激しい政権批判が赤裸々に記述されているので、イランの警察などにマークされないように著者名は本名ではなく匿名のペンネームとのことで、著者の職業や詳しい滞在歴などは不明だ。現在のイランは、良く知られているように、ホメイニ師、ハメネイ師といったイスラム法学者を最高指導者とするイスラム原理主義の政権だが、実際に現政権を支持しているイラン人は著者のまわりにはほとんど皆無らしく、更に2022年の女性の衣装を巡る反体制デモ以降少しずつ変化を見せているとのこと。具体的には、イスラム教徒としての細かい服装に関する決まり、断食、毎日2度の礼拝、豚肉食禁止、飲酒禁止といった宗教的タブーなどは、イラン人の誰もが大昔に作られたほとんど意味のないものだと感じていて、自宅などのプライベートの空間では全く別の論理で生活しているし、宗教的決め事を忠実に実践しているのは出世や保身のための欺瞞に過ぎないとのこと。その一方で、現在のイラン人の多くが関心を持っているのは、キリスト教、禅、神道、共産主義、神秘主義、古代ペルシャへの憧憬などで、それらに共通するのはイスラム教への反発や支持疲れだと言う。また会話重視、見栄っ張りといったイラン人特有の人間性についても色々書かれていて、それらはイランという国の交通の要所という地理的要因、様々な民族との軋轢の歴史といったことなどが背景にあると教えてくれる。今まで全く知らなかったイランという国の実情が良く分かる充実した一冊だ。(「イランの地下世界」 若宮總、角川新書)
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多元宇宙論集中講義 野村泰紀

宇宙論の最先端のトピックである「マルチバース」について初心者用に書かれた啓蒙書。初心者向けと言っても、分かりやすいとかシンプルとかいうことではなく、「理論を理解できなくてもそれなりに楽しみ方はあるよ」といった感じで書かれている。自分の理解としては、量子力学と一般相対性理論の矛盾を解消する超弦理論と、宇宙の始まりを研究していてたどり着いたインフレーション理論の2つがマルチバースの考え方を予言。インフレーション理論については、宇宙論が素粒子の質量や種類が人間にとって都合が良すぎる謎、真空のエネルギーが小さすぎる謎、初期宇宙が均一すぎる謎などの解明が課題だった時に、宇宙の加速膨張という現象が観測結果から導かれ、それが今の永久インフレーション理論に繋がり、マルチバースという考え方に行き着いたとのこと。要は、これらの謎は宇宙が1つと考えるから謎に見えるだけで、無数にある宇宙で我々の宇宙がたまたまそうだったと考えれば謎ではなくなる、そう考えた方が自然ということだ。この理論によれば、インフレーション時に小さな泡のような宇宙が10の500乗のスケールで誕生、その中の一つが我々の宇宙で、「宇宙とは、宇宙の中から見ると無限、外から見ると有限」と言うことらしい。どこで分からなくなったのかも分からないほど難しかったが、何となく宇宙科学の楽しさは感じられた。(「多元宇宙論集中講義」 野村泰紀、扶桑社新書)
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2024年のベスト10

今年は、読んだ冊数はとても少なかったが、松崎有理、金子玲介、藤の木優など新しい作家に沢山出会えた良い1年だった。
最近の傾向としては、SFや時代小説などこれまであまり読まなかったジャンルで面白い作品に出会えた一方、長編よりも細切れの時間で読める短編、名前の覚えにくい翻訳本よりも日本の作品、という感じがますます強くなり、未読の本がものすごく増えてしまった。
なお、今年も、ノンフィクションの面白い作品が色々あった。

(フィクション部門 ベスト10)
①バリ山行 松永K三蔵
 純文学とエンターテイメントの融合のような作品。
 書評誌で芥川賞直木賞同時受賞級と絶賛された一冊。
②死んだ山田と教室 金子玲介
 バカな高校生、男子校あるあるがとにかく可笑しかった。
 著者の第2作も面白かった。 
③惣十郎浮世始末 木内昇
 読んだ後、これまでで一番面白い時代小説だと思った。
④実は、拙者は 白蔵盈太
 登場人物を巡る意外性の連続、さらに意外な結末、
 最後のハッピーエンド、三拍子揃っていて楽しかった。
⑤成瀬は信じた道をいく 宮島未奈
前作同様、話題を独占した作品。
⑥山手線が転生して加速器になりました 松崎有理
 奇想天外なSF作品。著者の作品を読めたのは今年1番の収穫。
⑦化学の授業を始めます ボニーガルマス
⑧あしたの名医(1,2)藤の木優
 医療関係者の成長物語、現代医療行政の課題、
 伊豆のグルメなど、どれもが興味深かった。 
⑨山ぎは少し明かりて 辻堂ゆめ
 著者の新しい一面にびっくりした一冊。
⑩存在のすべてを 塩田武士
 とにかく重厚な作品。

(ノンフィクション部門 ベスト5)
①しっぽ学 東島沙耶佳
②原爆裁判 山我浩
③超人ナイチンゲール 栗原康
④ドーナツを穴だけ残して食べる方法 大阪大学ショセキカプロジェクト
⑤なぜ働いていると本が読めなくなるのか 三宅香帆

(年間冊数)
2010年132,2011年189,2012年209,2013年198,2014年205,2015年177,2016年218,2017年225、2018年211、2019年155、2020年128、2021年163、2022年158、2023年151、2024年120

(ジャンル別記事数 2024/12/31)
読んだ本 2920
観劇など 253
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