山深き森

2014-09-24 23:47:50 |  南アルプスのおはな・し
南アルプスのお話(八)

翌日も霧の中の道を下る。
昨晩降った雨は夜半には上がり、朝、山小屋を出発する時にはガスの向こうに朝焼けが見えた。
上空は晴れているようだ。
が、私の居るのは山の中腹。
今日は昨日まで稜線で見降ろした雲海の中を歩く事になるようだ。

<道標>


山小屋辺りから下は森の様相が変わる。
さらに深くなる森。
樹高がグンと上がり、生い茂る葉が空を覆い隠す。
昨晩の雨の名残りが雫となって落ちてくる。
道はこれら樹々の落ち葉が堆積し、柔らかな土に変わり歩きやすくなった。

<樹々の天蓋>


沢は近づいたり遠ざかったり。
沢音が遠ざかると静かである。
自分の鳴らすクマ脅しの鈴の音は、森に吸い込まれていく。
クマさんに届いているだろうか。
心配になる。

<白き沢>


白く霞んだ空間の向こう、樹々の重なりは延々と続く。
なんとも幽玄だ。
道の傾斜は緩く、昨日苦労した急傾斜の下り坂はほとんど無くなり楽になった。
広々とした林床をぽくぽく歩く。
山里近くの山だと下山時はつまらぬ植林帯を歩かねばならないが、ここの森は手付かずに見える。
このような下山道なら移り行くガスと森の作る眺めに飽きることはない。

<森に染まる>


そして足元には様々なキノコがひょうきんな姿を見せる。
目立たぬ色形をしてるので、見落とさぬよう登山道周辺に視線を落とし歩く。
むほほ。
キノコを見つけると花を見つけるよりうれしいのはなぜだろう。

<キノコ一輪>


当初、大門沢下降点からは下山するためにひたすら歩くだけの行程と考えていたが、標高を下げてから思いもよらずとても楽しめた。
懐深き南アルプスである。
奈良田まで4時間半も使って下った。