アマゾンが発表したネット販売の配達方法が注目を集めている。無人輸送機としてのドローン。模型のヘリコプターのようなもので、配達先の玄関に着陸する。これにより同社商品の約86%をこの空飛ぶ輸送機で運べるというのである。まだ行政が許可していないために実現されていないが、おそらく数年のうちに配達は、このドローンによるようになるであろう。
日本だと注文者の方でまともな玄関をもっている家が少ないから、この配送の着想は変更されることになるだろうが、多かれ少なかれ人の手を介する物のやり取りは縮減することになる。まったくのSF的世界である。
で、思い出されるのが、村上龍の「歌うクジラ」である。
この作品では極小のヘリが蚊トンボのような飛行物体として群れをなし、辺りを徘徊。不振な動きを監視し不審者にはIDを求める。つまり平面はもとより全空間が管理の対象となるのである。ドローンの発表を見るに、「歌うクジラ」の世界は目の前にあるようにも思う。我々の住む社会は既にSF化しているのだ。
最近、行き過ぎた科学文明に対するアンチテーゼとして、科学万能を懐疑する自然回帰の思想が幅をきかせているが、科学的な知見の行きつく先はどこなのか、反原発のようなジャーナリスチックな論評としてではなく、現実社会の変容についてまともな検討が必要ではないかとつくづく思うのである。【彬】