草むらでたわわに実った、ワルナスビ
東京都の港区が児童相談所をはじめDV被害者を一時保護する母子生活支援施設などが入る「子ども家庭総合支援センターを総工費およそ100億円かけて建設することの地域説明会を開いたところ、これに反対する住民の荒だてた声がテレビで放映され、話題となっている。
番組の様子を伝えるネットニュースの「しらべぇ」によると、住民の声は
「こういう子供の施設を造ろうとしていることに関しては賛成です。ただ表参道の超一等地に、あそこは完全な商業地なわけですよ。そこにそういうものを持ってきたとき「港区としての価値が下がるんじゃないかと思うんですね」
「全然青山じゃなくていいんじゃないですか?」
「田町とか広いところいっぱいあるじゃない」
とされる。
私も偶然その番組を見ていたものだから、住民の苛立った怒号のような反対意見がちょっと異様に思えた。このテレビ放映への反響は、ほとんどが、住民の特権意識に対する揶揄であったり皮肉だったりで、当然かと思う。(ネット上では近くの不動産会社のやらせではないか、と噂されている)
しかしながら、こういう説明会でなぜこのような反論や強い不満がでるのだろうか。説明会というのは本来決まったことを円滑に進めるために、近隣の要望などを聴くという会合のはずである。だから、こうした不満が出るというのは、建設に至るまでの議論の経緯がまったく住民に届いていないことを表している。
該当する土地には、知り合いの画廊や、美術館などがあり、私は何回か行ったことがある。国道の青山通りから分岐する裏通りといった雰囲気で、いつの頃から骨董通りと命名され、小さなファッション店などが並ぶようになった、比較的新しい街路である。そのためか、歩道が狭く、散策するにはお勧めできない通りではある。
テレビで紹介された住民の声を鵜呑みにすれば、確かに子どもの施設を作るのにはふさわしいとは言えない場所である。商業地だからではなく、また高級住宅街だからというわけではなく、なんというか、若者の街であり、子どもにとってはよそよそしい場所に思えるのである。交通は地下鉄の「表参道」を利用することになるだろうから、この混雑する場所を通って、この場所を利用するとなると、子どもにとっても親にとっても、好適地とは言えないだろうと思う。
では、だれがこの地に建設の計画を立て予算措置をして承認されたのだろうか。提案したのは区長か、あるいは議員団か。が、いずれにせよ、この事案を議決したのは議会以外にない。
今回のような紛糾の予想される事案であるならば、議決に至っ経緯を十分説明し、そのうえで説明をおこなうのが筋であろう。ひょっとすると議会で十分な議論のないままに行政的な見地から推進してしまったものなのか。
私がもし青山の近隣住民であるとしたなら、おそらく苦情の先頭にたって同じようにまくし立てただろう。私自身、区内の小学校廃校をめぐり、その施設の後使用についての行政の措置に対し、強く反対した体験があるからである。後使用について議会でどんな議論があって、どう進行したのか。私の場合は、議員に直接尋ねもし、また行政不備についての説明を該当機関に問い合わせもした。しかし区からの回答は瑕疵はないとけんもほろろだった。
今回の港区の問題、子ども事案だからとして、十分な議論が行われなかったのではないのか。
こうした場所に巨額の費用をかけ、先進的な建物を建てるというからには、当然のことながら議会の議決を経ているはずである。議会ではどんな議論がなされてのであろうか。もし議会が問題視するようなことがあったならば、事前に関係者へのヒアリングが行われるはずだ。議会で十分な議論がされていれば、地域の説明会がこんなに混乱することはない。そんな疑念を持つ。
地方自治については、議会の議論が伝わってこない。自治体広報が配られてくるが、これは議会の議論には一切触れず、予算やイベントなどを淡々と伝えるだけである。
地方議会といえども議員は政治家である。議員は地方の利害の調整役でもある。こうした混乱が起こるのであれば、議員は全く政治をしていないことになる。そして、その分、執行者としての行政が住民の矢面に立つことになる。
だが逆もある。行政が事業を進めるにあたって、政治を飛び越えているのではないか、という疑問。行政の役割は、条例や法令を遵守し、滞りなく実施することである。今回、行政が政治的な勇み足をしていることはなかったのか。
政治の不備を行政が積極的に先取りし、差配する。そんな傾向が、昨今の文部省や財務省の不祥事などに見て取れる。行政の勇み足が、政治を歪めることなることを、私は心配している。【彬】