絵=入澤光世「ヤシャブシ」
昔流行った「木綿のハンカチーフ」の歌詞を調べたら、後半にこんなフレーズがあった。
恋人よ 君を忘れて
変わってく ぼくを許して
毎日愉快に 過ごす街角
ぼくは ぼくは帰れない 太田裕美「木綿のハンカチーフ」松本隆作詞 1976年
田舎から出てきた青年が、都会の風俗に楽しみを見出し、もはや田舎には帰ろうと思わなくなったのである。
年の瀬にこんな歌が思い出せるのだ。現在、私の田舎でも村の小学校が統廃合で廃校になる。子供がおらず、村は老いた人たちばかり。衰退の一途である。以前は、村の方から都会の物入りを心配してもらっていたのだが、今はまったく立場が逆転した。肩が触れ合うほどの新宿の雑踏、インターネットで注文すれば翌日には届き、道路で転んだといっては救急車が飛んでくる便利さが都会にあって、一方、ちょっとした買い物をするにも、車で出かけなければならない地方の生活がある。
故郷の、身体が不自由になった老人達のことを思うに、辛い想像だけが湧いてくるのである。 【彬】
*絵のヤシャブシは漢字では「夜叉五倍子」と書く。五倍子で「ブシ」である。フシというのは特定の木につく虫こぶのことで、ヤシャブシの実には虫こぶと同じタンニンが多く含まれることから、フシという名がついたものと思われる。春先には、藤のように花が枝にぶら下がる。面白い樹木である。