和田 誠、村上 春樹 著、新潮文庫
ハードカバーで読んだのはもう10年位前になるだろうか。数年をまたいだ分冊だった。
和田誠氏のイラストと語り口が好きで、映画の中の粋な台詞をピクアップしてまとめた彼の著作『お楽しみはこれからだ』シリーズの6冊はいつも傍に置いていた。イラストと飾らない自在な文章を愛好してきた。その同感覚としてこの本はある。
和田 誠 氏
ジャズは独断と偏見で聴く。にもかかわらず、誰がどんな聴き方をしていてどういう感想を持ったかは結構気になる。評論家の批評などにも目を通す。だから村上春樹氏が曲とアーティストについて書いているとなれば、何はともあれ頁を捲ることになる。
さきのブログで、村上氏がバイトをしていたトラッド・ジャズの店に私も同じ時期に通い詰めていたことに触れたが、そのタイミングの差が1年だったことが、この本で改めて判った。どうりでジャズ感が共通しているわけだ。
料理の味を文章で他者に伝えるのは至難の技だが、勝るとも劣らないのが、音楽を活字で理解して貰うことだろう。自分の感動をどう伝えるか。豊富な語彙と巧みな比喩を駆使しても、聴く行為の前にはその差は歴然としている。
ところがである。村上氏の文章は、読み進むうちに、すぐにでもショップに駆けつけてCDを買って聴きたい欲望が行間から立ち上がってくる。
チャーリー・クリスチャン ビリー・ホリディ ジェリー・マリガン
by Wada
あとがきによると、和田氏の描いたミュージシャンのポートレートに村上氏が文を描く形で進められたようだ。和田氏のミュージシャンの選び方が、本当にジャズが好きな人の選び方だと村上氏は述べている。すごく共感できると。キース・ジャレットもジョン・コルトレーンも入っていないのがこの本のいいところだとも。
そう、こうるさい自称ジャズ通が見向きもしない、キャブ・キャロウェイやファッツ・ウォーラーが入っているのだ。嬉しいねえ。