作家・筒井康隆氏が「朝日新聞」に連載中の『聖痕』を楽しんでいる。
幼時に性器を切り取られるという厄災に襲われた主人公の物語である。
特異な犯罪のシーンから始まった連載も今日で227回。個性豊かな登場人物たちによって彩られてきた舞台に、”3.11”の惨状のテレビニュースに主人公貴夫が慟哭する場面が今日の紙面に描かれていた。
津波に襲われた石巻の小学校での84人の児童や教師らの、自らの死の瞬間の脳裏の断片である。
(この音何この音)(えっ。ぼく死ぬの。ぼく死)(海がこっちへ来)(お母さん)(すまん。お前らすまん)(あっ。苦しい)(友達と。みんな一緒に)(これは何。何。何)「神様。神様。神)(わたしのリカちゃんと熊の)(急いで早くあっちへ逃げ)(鼻に。痛い)(点呼なんかしていたから)(エミちゃんの髪の毛)(怖い。怖い)(プールだと思って)(死ぬ)(恐ろし。恐ろし)(今から逃げ)(あっ。苦し)(おしっこが)(テレビでしょ。テレビでしょ)(南無)(あっ。鰔い)(怖い)(お父ちゃんお父ちゃん。助け)(先生も一緒なんだから)(みんな。ごめんね。ごめんね)大変だ。えらいことだ)(こんなの嫌よ。嫌)(好きだったのに)(あっちにお兄ちゃんが)(怖い)(わたしたちの責任)(マリア様。マリア)
現実の日本。間もなくあれから2年。どんな映像や被災者の証言よりも私にはこたえた。思わず落涙した。
一作家の想像力と表現力に打ちのめされた一朝となった。