著者 貫井徳郎
出版 幻冬舎文庫
656頁
この著者の本は初めてになる。文庫の650頁は結構なヴォリュームで持ち歩きも覚悟が要る。
香山二三郎は、「松本清張が没したのが1992年、著者はその翌年に作家デビュー。清張が本格ミステリーにアンチを唱えることで社会派的手法を確立させたのに対し、貫井はデビュー作からして社会派ミステリー的な器に本格謎解き趣向を鮮やかに盛って見せたのである」と解説する。
いわゆる警察小説。シーンの転換が多いがスムーズに読み進められるのはプロットが丹念に練られているからか。
警視庁捜査一課九係の面々に味があるのがいい。物語を引っ張るのは所轄(野方署)の女性刑事と九係のベテラン刑事。方や背が低くがっちりした体格で凹凸の乏しい地味な32歳、方や相棒を理那ちゃん呼ばわりして喜ぶ中年刑事。二人の関係が捜査の進展につれて変化して行く姿が楽しい。
前作品で、警視庁を辞めた超刑事の西城が、脇から助っ人で絡んでくるのは、ファンにとっては嬉しく楽しみに違いない。解説の香山氏によれば、次回作でも登場するらしい。未読のブログ主も早速前作『後悔と真実の色』を読んでおこう。山本周五郎賞作品という。
連続警察官殺害事件が解決した夜、帰宅した理那に元警察官だった父が言う。
「警察がすべてを発表しないことを、お前はアンフェアだと考えるんだな。お前のその正義感は尊いと思う」
「お前はその正義感と組織の間の板挟みになって苦しんでいるんだろう。事情はよく分からないが、お前の苦しみは想像がつく。理不尽なことを理不尽と言えないのは、苦しいものだ。だが父親としてではなく先輩としてこれだけは言える。お前は恥じる必要はない」
「お前の仕事で救われている人は確実にいる。そのことをお前は誇りに思うべきなんだ。迷うのはいい。アンフェアなことに腹を立てる正義感は忘れるな。だが最後は必ず自分の仕事を誇れ。警察官が自分の仕事を誇らなければ、被害者は浮かばれない」
これは、警察組織に限らず、組織で働くすべての人の心をグリップするに違いない。