著者 吉田 満
出版 講談社文芸文庫
1994年8月10日第1刷
201頁
慟哭の書である。同時に無念の書であり憤怒の書である。そして何より鎮魂の書である。
昭和20年4月7日14時23分、鹿児島県坊ノ岬沖でアメリカ軍の300余機の攻撃を受けて沈没した戦艦大和の終焉とそれに殉じた将兵の姿を描いている。
軍の無謀な作戦により戦死者2,740名、生存者269名。その一人が著者である。この惨劇のすべてを後世に残さんと、歴史の神様は、この著者を生かしたのだろうか。
カタカナ漢字による文語体と豊富な語彙、的確な表現が、この作品を戦争記録文学の最高峰に仕立て上げているのは、誰しも認めるところだろう。
物書きの戦争作品は数多ある。しかし、この吉田満は本来、プロの作家ではなかろう。復員後、吉川英治に薦められて書いた本書が評判になり、引き続き関連の戦争物それも自身の実体験のドキュメントとして綴ったに過ぎない。
戦後日銀に入行しニューヨーク駐在、青森支店長、仙台支店長、国庫局長、最後は監事まで上り詰めたその後の足跡を見た時、むしろ、有能なビジネス・マンととらえられる。不思議な巡りあわせの奇跡の書でもある。
戦後74年、令和開幕の奉賀に浮かれる世情下にあって、この名作を読むことが出来たことを感慨深く思っている。