太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

「流星ワゴン」

2012-08-04 12:48:40 | 本とか
自分の人生に何の問題もなく、それはこの先もずっと問題のないまま続くのだと思っていた38歳の男性が、

坂道を転がるように状況が変わってゆき、死にたいわけではないが、生きていなくてもいいと絶望しているところに、

1台の車が近づいてくる。

その車は、彼の人生の「大切なポイント」に連れて行ってくれる。

あのとき、こうしていたら、ああしていたら・・・

今が幸せであれば、それは単なる空想にすぎないが、今が幸せではなかったら、それは後悔になるのだろう。



物語の中では、彼と和解できないまま、息を引き取ろうとしている故郷の父親が、

彼と同じ年齢になって現れる。

父親との確執もまた、彼の人生において、もっとどうにかできたであろうことの一つなのだ。

タイムスリップと違うところは、

過去の自分に出会うのではなく、肉体はその時点の自分で、意識だけが現在の自分だ。

だから歯痒い、だから悔しい、だからどうにかしようとジタバタしまくる。



映画「バック トゥ ザ ヒューチャー」では、過去に戻って何かを変えると、現実がどんどん変わってゆく。

あの映画は、きっとそこに良さがある。

しかし、この物語は違う。

過去に戻った時に、現実を変えるために彼が何をどうしようが、現実は変わらない。




不幸な事実を書き換えるのが、この物語の主旨ではなく、

一瞬一瞬を、できるであろう精一杯のことを本当に一生懸命やって生きる、という、つまり「自分のありかた」に後悔を残さない生き方をする。

それが一番大事な部分なのではないかと思う。



実際には、絶望していても、大切なポイントに連れていってくれるワゴンがやっては来ない。

けれども、誰でも、自分ひとりで、その大切な場所に行くことができるのだ。

自分の世界の中で、自分のありかたを書き換える。

そうすると、今の自分が変わってくる。

自分が変われば、その先の現実も変わってゆく。

それは嘘ではないと思う。



物語の中で、変わったのは現実ではなく、彼自身だ。

だからきっと、彼のその先の人生は、明るく変わってゆくのだろう、と予感させつつ話が終わる。



『明日死んじゃうとしたら』と思って、毎日生きよう。

それは私の理想で、なるべくそう思って生きているけれど、それでも、明日や来年を宛にすることも一杯ある。というより、それがほぼ日常。

今、全力を傾けずに生きている瞬間が、私の大切なポイントでないことを願いつつ。






「流星ワゴン」  重松清





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