太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

コレクション

2020-08-13 10:17:07 | 日記
ジュディスの家に遊びに行ったら、ダンナさんのTonyが、リビングの外のテラスでなにやら作業中。
見れば、テラスの壁に小さな釘を打って、栓抜きを吊っている。
彼らは世界中を旅行するのが趣味で、訪れた先で栓抜きを買って集めているのだ。
軽く100個以上あるそれらは、箱の中に入れてあったらしい。
一口に栓抜きといっても、そのデザインは千差万別で、なるほどこうして一度に眺めると面白いし、
それを買った場所の思い出も一緒に思い出せる。

壁一面の栓抜きを見て思い出したことがある。



あれは私が社会人になりたてのときだ。
地方のテレビ局で働き始めた私は、ある日の仕事終わり、同僚のチカとお茶を飲んでゆくことになった。
チカの車に乗って、その店まで行くのだが、
私は車に乗った途端、目が点になった。

ワイパーが動く半円形だけ残した、フロントガラス一面に、キーホルダーがギッチリ、所せましと吸盤でくっついていた。

旅先で買って来るような、鈴がついたのとか、キャラクターものとか、
とにかくギッシリとフロントガラスが埋め尽くされているのだ。

「す、すごいね・・・・・」
「ねー、かわいいでしょう?
後ろの窓にも付けてたんだけど、おまわりさんに、それは危ないって言われちゃった」

おまわりさん、どうせならフロントガラスのも注意してほしかったかも。
車が動き出すと、それらが一斉に揺れる。
もともと酔いやすい私は、店に着く前にすっかり気分が悪くなってしまった。

「いいもの見せたげる」
お茶を飲んだあと、チカの家に寄った。
チカの部屋に入ると、ベッドの横の壁一面に、ほとんど隙間がないぐらい
ギッチリとキーホルダーが飾られていた。
網走刑務所のキーホルダーはひときわ大きく目立っている。

「はぁーーーー・・・」
「私ねー、キーホルダーが大好きなのー」
それはわかるよ、こんなにあるんだもの。
「でね、キーホルダーが好き、好きっていろんなところで言ってたら、みんながお土産にくれるようになったんだぁ」



小学生の頃、紙せっけんとか、かわいい柄の折り紙とか、香りつきの鉛筆やティッシュなんかを集めていた。
友達同士で、交換することもあった。
集めたものは、もったいなくて使えない。
あんなにかわいい紙せっけんを使っておけばよかった。
後生大事にとっておいたはずのそれらは、いつのまにかどこかにいってしまった。

前の結婚時代に、濃いブルーのガラスでできたものを集めていた。
新婚旅行で行ったローマで買った、ブルーのガラスの一輪挿しが最初で、
見つけるたびに買い集めたブルーのものは、新築した家のリビングの
重厚なカップボードの中に納まっていた。
それらも、11年後にいきなり爆発して家出をして、それっきり。
私がいなくなり、相手もいなくなって、あれらはどうなったのか。


ものを集めているときは、目的があって楽しいかもしれない。
けれど、自分がいなくなり、物だけが残ってしまうとどうなる?
誰かが好きで集めていたことを知れば、残された人は「ただのガラクタ」といって処分するのも憚られるかもしれない。


その後、私がコレクションをしないのには、そんな理由がある。


チカはあのあと幸せに結婚したけれど、あの膨大な量のキーホルダーは今どうしているのだろうかと思う。