太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

天使に出会った実話 7

2023-05-11 06:37:25 | 天使に出会った実話
Carmel Reilly著『True Tales of Angel Encounters』より


イリナ(47) モスクワ ロシア

その朝はものすごい大雪で、気温はゼロよりも遥かに低かった。私の母は病気で入院していて、できるだけ時間を作って会いに行っていたが、この日は仕事があった。私は地域の図書館で働いている。
私はいつものように、だいたい30分ほどかかる図書館に向かって歩き出した。図書館まであと10分ぐらいというところまで来ると、なんだかうっすらと見覚えがあるような男性に出会った。確か図書館のどこかで見たことがあるような気がした。
彼は私を呼び、手招きをして、言った。

「ちょうど今図書館から戻ってきたところなんだが、大雪で暖房設備が壊れてしまい、まだ復旧しないので今日は休館だよ」

「え、ほんとう?」

すると彼は頷いて、

「そう、だから今日は行かなくていいんだ。それより、せっかくここまで来たのだから、何か他に行くところはないのかい?」

と言った。もちろん、私はすぐに母のことを思い浮かべた。

「ええ、それなら母が入院しているから会いに行きたいわ」

私はなぜそんなことを、あまりよく知らないその人に言ったのかわからない。彼はそれを聞いて、とても嬉しそうな顔をした。

病院に着くと、ナースが私を見て慌てていた。昨夜のうちに母の容態が急変し、なんとか私に連絡を取りたかったのだが、電話が通じなくて困っていたところだという。たぶん大雪で電話が使えなくなっていたのだろう。
母は話すことはできなかったけれど、私の手を握り、じっと私を見つめた。その朝、母は安らかに息を引き取った。
母の最期を看取ることができたことに、私は本当に感謝している。もしもあのまま仕事に行っていたら、母には会えなかった。ナースは図書館に電話することすらだってできなかっただろう。

しかし、その日、図書館は休館などではなかったのだ。暖房設備は壊れておらず、普通に開館していた。職場の人達は私が来ないので心配していた。
私が母のことを説明すると、みんな同情し、わかってくれた。
私は彼にお礼を伝えたくて図書館中を探したのだけれど、どこにも見つからなかった。
彼が天使だったかどうかはともあれ、なぜか母の死を知っていた彼が私にそれを伝えてくれたことに感謝している。