太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

天使に出会った実話 8

2023-05-14 07:55:43 | 天使に出会った実話
Carmel Reilly著『True Tales of Angel Encounters』より


フランク(36) パリ  フランス

12年前のことだ。僕は妻のエラとフランクフルトに住んでいた。エラはドイツでは名の知れたモデルだった。僕はフリーランスでテレビ局で働いていた。
ある日、エラが興奮して帰ってきて言った。

「聞いて!1年ほど東京で仕事をする話が舞い込んできたの!これってお互いにとって良いチャンスだと思わない?」

僕の第一印象としては、彼女にとってはステップアップの良いチャンスだと嬉しかったが、1年も離れて暮らすことは僕らにとってどうだろうか、と思った。僕らは結婚してまだ1年かそこらだったし、離れて暮らすなんて考えられなかった。
でも彼女にとって話はもっとシンプルで、僕も一緒に東京に行けばいいだけのことだ、と言う。僕がすぐに働かなくてもいいだけの収入はあるはずだし、何の心配もないと。
エラは僕に、ここにあるすべてを捨てて、言葉もわからない東京に一緒に行ってほしいと思っている。
彼女が行きたい気持ちはわかる。けれども、なんだか彼女のヒモになるような感じがして、僕のプライドが傷ついた。
僕が行かない、と言うと、彼女はとても落胆し、それでも最後には「わかった・・」と言った。

しかしその日から、二人の関係はぎくしゃくしはじめた。些細なことで口喧嘩になり、彼女は僕に対して冷たい態度をとるようになった。
無意識で、彼女が僕をコントロールしようとしていると感じ、怒りと苛立ちが交互にやってきた。こんなことで僕らの人生がバラバラになるのは耐え難かった。仮に今、僕らが破局しなかったとしても、きっと彼女は東京で新たなロマンスを見つけて、僕のことを忘れてしまうだろうと思った。

ある夜、彼女が東京に発つ3日前だったが、僕はふらりと散歩にでかけた。
川沿いを歩き、公園を抜け、サッチェン ハウゼンに続く古い橋を渡った。そこはフランクフルトでも古い地域で、戦禍を逃れた数少ない街のひとつである。
そこに古い裏通りをみつけた。それは10月の初めの夕闇の中で、そこは少し霧がかかっており、街灯がぼんやりとついていた。僕は、どこか良さそうなバーでも探して一服しようと思いつき、その道を歩いていった。

ふと気が付くと、いつのまにか僕の隣を、白い髭をたくわえた男性が並んで歩いていた。
彼は僕に、バーを探しているのかい、と尋ねたので、そうだと答えた。
そして彼は、「いいかい、よくお聞き」と言ってから話し始めた。なぜか彼は僕のことを、そして僕が置かれている状況をよく知っていた。

「君は、君と一緒に歩みたいと望む人と新しい人生を始める機会があった。
もし君が本心からその人と一緒にいたくないと思うのなら、そうすればいいさ。しかし、もし恐れの理由でそうするのなら、君は大きな後悔をすることになる」

なぜ彼はそこまで僕のことを知っているのだろう、と驚きつつ、僕は彼をバーに誘った。彼は「いいとも」と言った。
一件のビアホールの、地下に降りる階段を降り、店に入ったが、振り返ると、彼がいない。急いで外に出て通りを探したが、彼はどこにもいなかった。
僕はその夜、彼が僕に言ったことをずっと考えていた。
彼が言ったように、僕は今あるものすべてを投げ出し、新しいことを始めるのが怖かった。その一部はプライドであり、あとは恐れ以外のなにものでもない。
僕は妻を愛している。一緒にいたくないなんて思うわけがない。でも、彼女は本当に僕に来て欲しいと思っているのか、それはよくわからない。彼はそのことについては何も言わなかった。ただ、僕自身について話しただけだ。

家に帰ると、エラは僕が長く家をあけたことに怒った。
僕は勇気を出して、言った。僕は君と一緒に行きたいと思っている、と。
突然、エラは泣きだし、僕に抱きついてきた。
彼女は、僕がもう彼女を必要としていないのだということが怖かったと言った。

「私は東京行きなんてどうだっていいの。もしあなたが私を必要としていて、どうしてもここに残って欲しいというのなら、私は喜んでそうするわ」

僕は泣いた。

そして僕らは一緒に東京に行った。僕は仕事を探すのに手間取ったけど、なんとか見つけたし(アメリカ英語を教える仕事だけどね)、エラの仕事は絶好調だった。
ドイツではエラは超多忙だったが、ここでは時間に余裕があったから、一緒にこの素晴らしい国をいろいろと開拓することができた。そのうち、ちょっとマシな仕事を見つけて、結局僕らは4年を日本で過ごした。
そのあと、僕らはいくつかの場所に移り住んだ。その時にはもう、すべてを放り出して新しい章に入ることに、なんの恐れもなかった。
僕たちにはお互いがいたし、行った先々でできた友人たちがいて、そこに行けば彼らに会うことができるのだから。

天使。
もしあの男性が天使だったとしたら、たぶんそうだと思うけど、あの出来事は僕の人生でどんなに大きな意味をもつことか。
もしも妻の気持ちを知らずにいたら、つまらないプライドと臆病さのために、僕は愚かにも真実の愛を手放してしまったことを、一生悔いることになっただろう。
しかし今、僕らは一緒にいる。
ずっと深い絆で結ばれて、共に人生を歩んでいる。