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米国政府の核兵器先制不使用に対する自公政権の不見識な見解

2024-10-27 11:07:21 | 核兵器

 米バイデン政権では「核体制の見直し(NPR)」が進行中である。今回注目すべき点は、「核兵器の先制不使用/唯一の目的」を採用するか否かである。オバマ政権は2016年夏に見送った

 最近の自公政権の発言をみると、

加藤勝信官房長官(2021年4月6日記者会見)は「我が国周辺には質、量ともに優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向も顕著(中略)現実に核兵器などの我が国に対する安全保障上の脅威が存在する以上、日米安全保障体制のもと、核抑止力を含む米国の拡大抑止というものが不可欠」と述べている。

茂木敏充外務大臣(2021年4月21日衆議院外務委員会)は[核の先制不使用宣言は]「すべての核兵器国が憲章が可能な形で同時に行わなければ、実際には機能しないんじゃないか(中略)現時点でですね、当事国の意図に関して何らかの検証の方途のない、核の先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に万全を期す事は困難だと考えております。あのこういった考え方については、概ね日米間で齟齬はない、こう考えています。」と述べている。

松野博一官房長官(2021年11月10日記者会見)「すべての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではない」と述べている。ちなみに、日本や英国などが米国側に先制不使用宣言をしないように働きかけたとする報道については回答を避けた

 つまり、自公政権の見解は、➀核抑止力を含む拡大抑止は核兵器など(つまり通常兵器や生物化学兵器も含む)を対象としており、②先制不使用宣言では日本の安全保障に万全を期せない。③先制不使用は「すべての核兵器国が検証可能な形で同時に」行われなければならず、④日米間でこうした認識に齟齬はない、というものである。

 松野官房長官は、米国側に先制不使用宣言をしないよう働きかけたか否かについて回答を避けたが、オバマ政権時、ニューヨーク・タイムズは、ケリー国務長官らが、日本や韓国を名指しして、核抑止力に不安を持った両国が核武装する可能性を示唆したと報じた。また、ワシントン・ポスト日本政府は宣言に反対する意向を伝えたと報じた。

 2021年8月9日、米国の21人の核問題専門家と5団体日本の主要政党代表あてに、「先制不使用・唯一の目的政策を宣言する事に反対しない事、この政策が日本の核武装の可能性を高める事はないと確約する事」を求める書簡を送付している。

 同年9月7日には、日本の22団体44人(原子力資料情報室など5団体5個人の呼びかけ、17団体39人賛同)が、上記と同様の内容を要求する書簡各政党代表者に送付している。

※「先制不使用」……核兵器を先には使わないが、核兵器での攻撃に対しては、核兵器で報復する選択肢を留保するの意。通常兵器や生物化学兵器などでの攻撃に対しては核兵器の報復はしない。中国・インドが採用。

※「唯一の目的」……保有する核兵器の唯一の目的を「相手国の核兵器の使用の抑止に限定する」の意。

※「先制使用(ファースト・ユース)」……紛争中、相手国より先に核兵器で攻撃するの意。通常兵器や生物化学兵器への対抗措置としての核兵器の使用も選択肢に含む。

※「第一撃(ファースト・ストライク)」……先制核兵器攻撃で相手国の(戦略)核戦力に壊滅的な損害を与え、核兵器で報復できないようにするの意。

 米国政府が、自公政権の核武装の可能性を懸念する背景には「核燃料サイクル」の存在がある。自公政権は非核保有国の中で唯一使用済み核燃料再処理技術ウラン濃縮技術の両方を有する事を認められている。再処理技術は使用済み核燃料から核兵器に転用可能なプルトニウムの分離が可能である。低濃縮ウラン製造技術は核兵器に利用できる高濃縮ウランの製造も可能である。

(2021年11月21日投稿)

 

 

 

 

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名称変更や表現の言い換えの効果とル・ボン(フランスの心理学者)とヒトラー

2024-10-27 11:05:29 | ナチス・ドイツ

 ギュスターヴ・ル・ボン(1841年5月7日~1931年12月13日)は、フランスの心理学者である。その著書『群集心理』(1895年)では、「今我々が歩み入ろうとしている時代は群集の時代である」とし、「群衆とはその構成員すべてが意識的人格を完全に喪失し、操縦者の断言・反復・感染による暗示のままに行動するような集合体であり、産業革命以後の社会現象の特徴が人々をこうした群集心理下に追いやるものである」と述べた。

 ル・ボンは、名称変更や表現の言い換えの効果について次のように述べている。「物事の本質的な部分は全く変えず、ただ名称を変更するだけで、新しい素晴らしいものができたかのような幻想を作り出せるという。また、言葉には「魔術師」の持つような「神秘的な力」があるといい、ある事象に群衆が大きな反感を抱いてしまった場合には、その事象を指す単語を変更して「人受けのする言葉」で「用語を巧みに選択しさえすれば、最も忌まわしいものでも受け入れさせる事ができる」と述べている。

 ヒトラー『群集心理』を読んでいたといわれ、『わが闘争』で同じような内容を述べている。

プロパガンダを用意周到に継続して行えば、天国を地獄と思わせる事ができるし、逆に、極めて惨めな生活を天国と思わせる事もできる。」とか、「生活上の重要問題を国民に忘れさせる目的で、政権が意義深く見えるような国家的行事を作り上げて、新聞で大々的に扱わせると、一ヵ月前には全く誰も聞いた事もなかった名前が、何もないところから魔法のように作り出され知れ渡り、大衆は大きな希望を寄せるようになるのである。」と。ナチ党が政権掌握後に行った具体例としては、「起業家」を「従業員の指導者」、「独裁」を「より高次の民主主義」、「戦争準備」を「平和の確保」と呼び変えるなどである。これは「ダブルスピーク」であり、言葉の表面とその意味内容は全く正反対なのである。

ダブルスピークとは……受け手の印象を変えるために、言葉を言い換える修辞法。  1つの言葉で矛盾した2つ意味を同時に言い表す表現方法をいう。

 ヒトラーはまた心理学に関連して、「大衆に理念を伝えられる扇動者は、常に心理学者であらねばならない。心理学を心得ていれば、その扇動者は人間に疎く世間知らずの理論家よりも指導者に相応しい。」と述べている。

(2022年4月1日投稿)

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