題名と話題性とに釣られて買ってみたこの本、当世こういう本が出るのかと、驚いた。いや、少々呆れたという驚きである。もっとも、売れれば良いという狙いからすれば、大当たりと言えよう。なんせ、時宜にかなっているし、本屋さんもホクホクと言っていた。作者はペンネームで「東京大学法学部卒、国家公務員1種試験合格、現在霞ヶ関の省庁に勤務」と説明があるのみ。内容はまーなんというか、劇画というのか漫画というか、これが最も適切な表現だろう。語り口など体裁から言って小説なのだが、構成と言い、人物設定と言い、なによりも筋書きや語り口が類型的過ぎて、稚拙。「内部告発小説」を売り物にして話題を呼んでいる本なのだが、原発事故をめぐる政治周辺は皆がもう知っていること。それに付け足したのが行政事務方などの仕組なのであるが、これも例えば政治記者などであれば既知の事実に毛の生えた程度のものだと思われるのである。
粗筋はこういうもの。「保守党」政権が、選挙で負けた「民自党」に入れ替わり、原発再稼働が始まっていく様子、仕組を電力業界政治担当幹部、資源エネルギー庁次長、保守党幹事長の3人などを配して描いていくというのがこの作品の第一の側面だ。いわゆる原子力村がフクシマを乗り越えて復活していく「裏事情」描写と言える。もう一方の筋書きとして、これに抵抗する4人ほどの行動が描かれていく。一人は完全に山本太郎をモデルにした人物で、その名も山下次郎。今一人が「新崎県知事」とあり、彼を巡る出来事は現新潟県知事と佐藤栄佐久元福島県知事の冤罪事件逮捕との合成である(このブログには、佐藤栄佐久氏の著作「知事抹殺」の紹介拙稿があるから参照されたい。11年9月9,10,11,12,13と15日の6回連載になっている)。後の二人がまー主人公と見ても良いのだが、一人は元TV局アナウンサーで「再生可能エネルギー研究財団主任研究員」・玉川京子。30ちょっとの妖艶・魅惑の姿態という設定だ。今一人が「原子力規制庁総務課課長補佐」・西岡進。東大法学部卒体育会系で、貴族的な容姿の持ち主という作りになっている。この4人が、原子力ムラの復活もしくはその不条理部分に対してそれぞれの抵抗を試みるのだが、4人の内あとの3人の「抵抗」を細かく描き、彼等が逮捕されて終わるという筋書きになっている。金曜デモも経産省前テント村も出てくるし、玉川と西岡が逮捕されることになる事件も規制庁文書が電力業界へ事前漏洩されるという実際にあった事件を題材にしている。この二人の性的関係を通じてことが世間に公表されていく下りは、毎日新聞の西山記者の事件と同じで、このことはこの本自身の中にも書かれている。村木厚子事件も実名で出てくるのである。
さて、二カ所だけ小説らしい箇所があり、ここの描写には力が入っていると感じた。不思議なことにこれが、最初のプロローグ5頁余と全19章の「終章」にだけ出てくる。それも最終章34頁のうちのたった3頁に。この8頁余は内容的には全ての結末になるのだが、他との関連が全くない言わば独立した部分とも言える。たった一人だけ上記登場人物と関連があることは以下に示すが、この8頁は小説作りに良くある「終わり方を後で『より劇的になるように』とってつけた」というやり方だと、愚考した次第だ。
この8頁のプロローグの方では、大晦日の豪雪山の送電線鉄塔目指して二人の男が登っていく下りが描かれている。以降その意味は最終章になるまでさっぱり分からない。ただ、上記登場人物の内、電力業界政治担当幹部の昔の所業に恨みがある「関東電力」の元社員が雪山の二人の一方であって、会社に復讐しようとしているということだけは示されている。そして、終章。この二人は「新崎原発」の電気を送る二系統の50万ボルト高圧電線鉄塔を、二つながら破壊するという密命を帯びた二組のテロリストのうち一方なのである。この二人のうち元関東電力社員でない方は「大陸の共産党の国家保安部で訓練され、日本の同朋組織に潜入した工作員」であり、任務が終了した時に元関電社員を殺して自殺に見せかけ、「共和国は永遠なり!」と叫ぶという設定になっている。そして、フクシマと同じく新崎原発メルトスルー、新崎県と日本国の大混乱、その様子。これがこの小説の最終結末である。
最初に少々呆れたというのはこういうことだ。実際の事件や背景らしきものに基づいて描いていくのだが、全てが類型的に過ぎて描写にリアリティーがないのである。小説としては構成以外はほぼ書き下しのやっつけ仕事と言っても良いと読んだ。その構成ですらが、原子力村の政官財と報道の誰でもが知っているような繋がり方を順に持ってきて、具体的場面にして描いただけのことである。電力料金から政治献金が行く。それが官僚を動かし、マスコミをも常時、厳しくチェックする。おまけに国民は何も知らぬげな「大衆」(この言葉が本書中に何回出てくるだろう)で、マスコミには「訳知り顔」形容を連発。
結論として、フクシマと保守回帰を機会に原発事故を題材にしていち早く安易に金を儲けようとした著作としか思えなかった。まー近ごろ、こういう本もあるとは勉強になったことだった。ハードカバーの金1600円也。
(以上、13年11月13日当ブログ・拙エントリーの再掲です)
粗筋はこういうもの。「保守党」政権が、選挙で負けた「民自党」に入れ替わり、原発再稼働が始まっていく様子、仕組を電力業界政治担当幹部、資源エネルギー庁次長、保守党幹事長の3人などを配して描いていくというのがこの作品の第一の側面だ。いわゆる原子力村がフクシマを乗り越えて復活していく「裏事情」描写と言える。もう一方の筋書きとして、これに抵抗する4人ほどの行動が描かれていく。一人は完全に山本太郎をモデルにした人物で、その名も山下次郎。今一人が「新崎県知事」とあり、彼を巡る出来事は現新潟県知事と佐藤栄佐久元福島県知事の冤罪事件逮捕との合成である(このブログには、佐藤栄佐久氏の著作「知事抹殺」の紹介拙稿があるから参照されたい。11年9月9,10,11,12,13と15日の6回連載になっている)。後の二人がまー主人公と見ても良いのだが、一人は元TV局アナウンサーで「再生可能エネルギー研究財団主任研究員」・玉川京子。30ちょっとの妖艶・魅惑の姿態という設定だ。今一人が「原子力規制庁総務課課長補佐」・西岡進。東大法学部卒体育会系で、貴族的な容姿の持ち主という作りになっている。この4人が、原子力ムラの復活もしくはその不条理部分に対してそれぞれの抵抗を試みるのだが、4人の内あとの3人の「抵抗」を細かく描き、彼等が逮捕されて終わるという筋書きになっている。金曜デモも経産省前テント村も出てくるし、玉川と西岡が逮捕されることになる事件も規制庁文書が電力業界へ事前漏洩されるという実際にあった事件を題材にしている。この二人の性的関係を通じてことが世間に公表されていく下りは、毎日新聞の西山記者の事件と同じで、このことはこの本自身の中にも書かれている。村木厚子事件も実名で出てくるのである。
さて、二カ所だけ小説らしい箇所があり、ここの描写には力が入っていると感じた。不思議なことにこれが、最初のプロローグ5頁余と全19章の「終章」にだけ出てくる。それも最終章34頁のうちのたった3頁に。この8頁余は内容的には全ての結末になるのだが、他との関連が全くない言わば独立した部分とも言える。たった一人だけ上記登場人物と関連があることは以下に示すが、この8頁は小説作りに良くある「終わり方を後で『より劇的になるように』とってつけた」というやり方だと、愚考した次第だ。
この8頁のプロローグの方では、大晦日の豪雪山の送電線鉄塔目指して二人の男が登っていく下りが描かれている。以降その意味は最終章になるまでさっぱり分からない。ただ、上記登場人物の内、電力業界政治担当幹部の昔の所業に恨みがある「関東電力」の元社員が雪山の二人の一方であって、会社に復讐しようとしているということだけは示されている。そして、終章。この二人は「新崎原発」の電気を送る二系統の50万ボルト高圧電線鉄塔を、二つながら破壊するという密命を帯びた二組のテロリストのうち一方なのである。この二人のうち元関東電力社員でない方は「大陸の共産党の国家保安部で訓練され、日本の同朋組織に潜入した工作員」であり、任務が終了した時に元関電社員を殺して自殺に見せかけ、「共和国は永遠なり!」と叫ぶという設定になっている。そして、フクシマと同じく新崎原発メルトスルー、新崎県と日本国の大混乱、その様子。これがこの小説の最終結末である。
最初に少々呆れたというのはこういうことだ。実際の事件や背景らしきものに基づいて描いていくのだが、全てが類型的に過ぎて描写にリアリティーがないのである。小説としては構成以外はほぼ書き下しのやっつけ仕事と言っても良いと読んだ。その構成ですらが、原子力村の政官財と報道の誰でもが知っているような繋がり方を順に持ってきて、具体的場面にして描いただけのことである。電力料金から政治献金が行く。それが官僚を動かし、マスコミをも常時、厳しくチェックする。おまけに国民は何も知らぬげな「大衆」(この言葉が本書中に何回出てくるだろう)で、マスコミには「訳知り顔」形容を連発。
結論として、フクシマと保守回帰を機会に原発事故を題材にしていち早く安易に金を儲けようとした著作としか思えなかった。まー近ごろ、こういう本もあるとは勉強になったことだった。ハードカバーの金1600円也。
(以上、13年11月13日当ブログ・拙エントリーの再掲です)