表記の言葉は、「文藝春秋」6月号の山中伸弥・橋下徹対談「ウイルスVS日本人」のなかの橋下の言葉。ただし、その文脈の中の意味はこういうものだ。
私は知事時代など、新自由主義による淘汰を信奉して補助金はこれを歪めるもので極力少なくとやってきた。が、今は政府による「自粛」や「要請」で自由市場を一部停止しているのだから、『コストや自由市場のことを気にする場合ではなく、犠牲になる人には国家がジャブジャブお金を投じて救って上げるべきだと考えています』。
さて、この論法が正しいのなら、現行のグローバリズム新自由主義経済そのものが構造的に瀕死の重病に陥っていると本家本元のアメリカが言い出している現状をどう改革していくべきなのかと、そんな問題を改めて提起してみたい。
ここで最近ずっと述べてきたように、米経済学者や経営者団体そのものがこんな重大反省をし始めたからこそ、アメリカが保護貿易主義にいきなり入っていったのではなかったか?
トランプ・アメリカが保護主義へと強引に転じたことによって、冷戦終結前後から30年続いた米金融主導グローバリゼーション新自由主義経済世界は原理的には終わった。それは、世界大金融・ファンドが「株主利益の最大化方針」とやらでもって、関税障壁などの国境や、世界各国国家による規制やを取っ払わせて、小さな政府を世界中の国に押しつけてきた結末なのである。
この世界体制について真っ先に反省、自己批判を始めたのがアメリカであるというのが、また歴史の皮肉である。金融で世界を征服するつもりが、物経済をすっかり中国圏に奪われてしまい、世界的な米ブランド商品までが中国で作られるから、中国産品の禁輸をしたら返ってアメリカが困まり果てたと気付く始末。アメリカの労働者はまともな職をすっかり失ってしまった。その点でこそ、米経済界に今深刻な反省が起こったのである。
まず、「こんなに早くアメリカの労働者が中国に仕事を奪われるとは全く予想外だった」と弁解これ努めているのが、グローバリズムの旗手経済学者とも言える、ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン。また、去年の8月20日夕刊には、こんな見出しの記事が載った。
『株主最優先を米経済界転換』??
この記事の書き出しはこうなっている。
『米主要企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は19日、株主の利益を最優先する従来の方針を見直し、従業員や顧客、地域社会など全ての利害関係者の利益を尊重する新たな行動指針を発表した。これまで米経済界は「株主利益の最大化」を標榜してきたが、大きな転換点となる』
アメリカの上記のような反省に関わって日本はどうなのかとみれば、アメリカよりもずっと早くもっと悲惨な時代に突入しているのである。アメリカと同様の「経済空洞化」は20世紀末からどんどん深まってきたのだし、アメリカと同程度であった国民1人当たりGDPも今や世界31位まで落ちて、「50歳まで結婚したことがない男性が4人に1人」という、ここ130年無かった出生数の少なさで小国化にむかっているのである。
また、コロナ死者数の多さで示されたように、先進国と言われた国も軒並み医療崩壊が始まっているのは「新自由主義経済=自由競争=小さな政府」のなれの果てと言えるはずだ。
共産主義とは言わぬまでも、ケインズ経済学流の需要サイド重視の経済に切り替えるべき時であるとは、地球環境問題も含めてこの地上の全ての悲劇的経済現象が示しているのではないか。ちなみに、ケインズが生きていればベイシックインカム論を先頭に立って掲げるはずだ。訳もなくただ自由競争をよしとしてきた新自由主義経済・アメリカが保護主義に入っていったという事実こそが、以上全てを示している。橋下氏が信奉する新自由主義経済そのものがもう破綻しているのである。