職場は相変わらずの暇加減で、読書に励む日々。
ある時は、イタリアのたくましいマンマたちに顔がゆるみ、
ある時は、ハプニング続きのイタリア列車の旅に一喜一憂し、
ある時は、フランスはブルゴーニュのワインのドメーヌに嫁いだ日本人のマダムに思いを馳せ、
ある時は、ミステリーの謎解きを楽しみ、
大体、ヨーロッパ系が多いです、わたし。
本を読んでいる間、体はそこにあっても、
気持ちはヨーロッパに飛んでる。
読んでいるうちについつい、ぐぐぐっと入り込んでしまうので、
号泣しそうになったり、声をあげて笑いそうになったり…
思わず、『もう、この本はムリ!!』とばかりに職場での読書を断念した本も数あれど。
最近読んだのは(正確には、読み返したのは)宮本輝氏の『錦繍』。
勝浦のセカンドハウスに行く途中、山の木々は美しく紅葉し、
この日本に生きている幸せを感じます。
だからかな、、
思わず手を伸ばして本棚からチョイス。
宮本氏の作品は、どれもこれも心理描写がすばらしいと思う。
普段何気なく通り過ぎる感情を、緻密に表現する。
なので、改めて、
この時の気持ちを文字にするとこういう風になるんだ!と気付かせてくれる部分も大いにあったりする。
氏のお父様が、愛媛の、しかもわたしの生まれた南予出身というのも懐かしみがわいてくる。
そして、『錦繍』の装画は日本画壇の重鎮、加山又造氏なのですね。
これはびっくり!!
本を買った当時(1984年14刷)はまだまだ(気持ちは)子供でそこまで気がつかなかった。
新しい発見です。
最近、本の装丁とか、発行年とか、第何版とか、第何刷とかなぜか興味があって、
必ずそこをチェックするようになった。
最近は、ジャケ買い…なんて言うけれど、
そう、見た目も大事でございます。
装画は真っ赤に燃えるもみじの赤のグラデーションと黄金色に染まったイチョウの葉。
この小説あっての装画、この装画あっての小説。
このふたつが相まって高みに昇華する。
小説の最後には涙が出てきて、
風邪を装ってなんとなくぐじゅぐじゅしながら読んだ。
メールやインターネットなんてない時代、男女二人の往復書簡の小説。
言葉は美しく心の機微を捉え、
主人公だけでなく登場人物すべてが、
それぞれの業を持って生きて行く姿は、
『懸命に生きよ!』と訴えかける。
人が業を燃やしつつ懸命に生きる姿はこんなにも美しい…と、
木々が燃えさかる錦繍の秋と重なる。
付録の、水上勉氏との対談もとても興味深い。
当時の宮本氏はまだ30代で写真の姿はとてもお若い。
それから30年近く時は経って、
今現在の宮本氏はとてもいい年の取り方をされたと確信できる。
やわらかな大阪弁は穏やかで、でも内にはかなり熱いものも持っておられる風情だ。
そうそう、宮本氏といえば、
『ドナウの旅人』も好きな小説。
10数年前に、オーストリア、ドイツを旅行する前に読んだ。
実際のドナウは青く美しい…とは到底なく、
黄色っぽく濁った川だったのには少しがっかり。
でも、この川で紡がれた恋愛は心に沁みたなぁ~
他に面白かった一冊は、川内 有緒著『パリでめしを食う。』
最初手に取った時は、パリのグルメ本だとばかり思ったのだけど、
実際には、日本で生まれ育った日本人が、
意図しようと、しなかろうとパリに行き、
そこで生きる糧を見出して暮らしを紡いでゆく、というお話。
1回職場で読み終わっていたのだけど、
この時は、なんとなく頭の中をスルーしてた。
BSの番組『大人のヨーロッパ街歩き』を観た時、
出演されたパリのフローリストの方がこの本に出ていたのを思い出す。
そしてまたもう一度読み返してみた。
テレビという媒体はやはり対象の一面しか表現していないな~とつくづく思った。
テレビで観たこの主人公のフローリストの方は、(ちなみにこの方も愛媛出身)
職業柄、繊細でナイーブ、独自の美学を持った方と捉えてしまうのだけど、
本に紹介されていたそれまでの彼の人生は、
結構波乱万丈、骨太で、美学というより哲学的人生を送ってきた方だ。
他、9人の登場人物も、
写真家、国連の職員、アーティスト、漫画喫茶経営、高級紳士服のテーラー、サーカス団員、
とさまざまで、とても面白い。
自分が好もうと好まざろうと、なぜかパリに辿り着きそこで暮らしてゆく。
日本に生まれ暮らすと、
どうしても日本のスタンダード、引かれたレールの上を進むのが当たり前で、
少しでも外れると生きて行くのが難しいような風潮。
この本を読むと、
そんなことないよ。
人がどう思おうと自分の信じた道を進んでごらん。
そこで努力を惜しまなければ、きっと君の道は開けるよ!
と、背中を押してくれるような本だ。
これも最後の方は涙が出てきてしょうがなかった。
若い人たちに読んでもらいたい一冊だ。