「わんぱく王子の大蛇退治」上映前にスクリーンがスーッと横に広がる。
なんか懐かしい。
昔の映画館は、広告が終わって映画本編が始まる前にスクリーンの幕が動いたんだよな・・・。
本編開始。
・・・というか、まずは岩を洗う波に「東映」の文字。それからオープニング。
まだ「長靴をはいた猫」が東映動画のキャラクターになる前の映画と云う事だ。
オープニングのタイトル文字がデカイ。
そこに流れる伊福部曲。
子供用アニメとは思えない重厚な曲。
へヴィだ。
私はへヴィロックも結構聴き込んでるが、伊福部先生の曲のへヴィさは
それらの曲にも引けをとらない!
ツェッペリンの「ブラックドッグ」やスプーキー・トゥースの「コットンフィールド・マン」にも
負けていない!
画面には、まるで時代劇映画のようにスタッフ名が縦書きで並んでいく。
主人公スサノオの声は、幼い頃の風間杜夫だそうな。
原画には(ルパン三世、カリオストロの城で知られる)大塚康生さん、演出助手に高畑勲さんの名前が見られる。
そして本編。
「日本神話」の文字。
古代日本の風景。
さすがニュープリント、美しい。
イザナギ、イザナミの国つくりの説明。
そして主人公登場。
虎だって やっつける腕白王子スサノオ。
やさしい母に「男の子は強いだけじゃいけないのよ」と諭され、体を洗ってもらう。
母親大好きのスサノオ、この時だけは穏やかな表情。
(流れる伊福部劇伴曲も絶妙に優しい・・・)
しかしある日。
「イザナミ様がおかくれに」
母の死が理解できない幼い王子は「お母様旅が立った国へ行く」と言い
父ら大人を困惑させる。
海の向こうに母の国があると聞き、そこを目指して腕白王子の大冒険が始まる・・・。
動物のキャラクターや動きなどにはディズニーなどの影響を感じるが、背景・美術は
実に日本的で本当に美しい。
氷の世界の幻想的ビジュアル、火の国の真っ赤な溶岩、高天原の日本美術的な風景・・・。
キャラクターの動きも、今でいう枚数制限とは無縁だったんでしょうね。
キャラ自身が簡素化されて動かし易いように設定されたんだろうが、それにしても動きが滑らかだ。
速い動きのシーンでもコマを飛ばしていないから、主人公の敏捷性が生きている。
水中での高速バタ足、終盤スサノオを乗せて天を駆ける馬(アメノハヤコマ)足捌き・・・など
まぁ、見事なスピード感でございます。
見所のひとつ言われてるのが、アマノウズメの舞踏シーン。
天岩戸に篭ったアマテラスを再び世界に戻らせるための催し。
日本芸能の誕生の瞬間とも言われる一幕を、(伊福部先生が好きだった)ストラヴィンスキーの
「春の祭典」的でありながら雅楽の要素がミックスされた楽曲と、断崖や岩肌・虚空を
幻想的に舞うアマノウヅメ、一緒に踊る神々・・・。
これまた簡略化されたキャラなれど、なんともチャーミング。
天空からアマノウヅメが腕を振ると星くずが空から舞い降る・・・。
そんな幻想的で美しい光景に感激。
そして、もう一つの見所がヤマタノオロチとの対決。
「お母様に似ている」という娘を救うため、恐ろしい大蛇に挑む決意をするスサノオ。
※ここで「姉のアマテラスさまの方がお母様にそっくりだろう」と突っ込むのはヤボですね
クライマックスは、本当に手に汗握る名場面に次ぐ名場面。
超絶作画と自由自在なアングルは圧巻!
アメノハヤコマを駆って八本の頭一つ一つと戦い退治していくスサノオ!
再び流れる重厚なオープニング音楽!
刃を折られてピンチになったり、お供の赤鼻ウサギは地に落ちかけたり・・・と
ハラハラドキドキのシーンが続き
そこでも伊福部(特撮)マーチが主人公を鼓舞するが如く鳴り響く!
崖に沿って空を走るアメノハヤコマ、それを追って来るオロチ。
これを崖に映った影で見せる表現法、凄いわ!
垂直に逃げるシーンを真上から撮っているかのような画面も凄い!
おおっ、我が子が身を乗り出して観ているぞ!!
私も感動して泣いてるぞ。
50年以上前、これだけの作品を作った日本のアニメ人は凄い!
そう思っただけで感激しちゃったのだ。
崩れ落ちた大蛇の体が川になり、そこに豊かな土地が広がったのも
「ああ、そうだったなぁ」と再確認。
神話じゃ、助けたクシナダは勿論スサノオの妻になるのだが
子供映画では そこまでは述べず。
でも、戦いの前日いっしょに川辺で遊び、アメノハヤコマに乗って空を舞ったりしているので
そういう表現で暗喩してるといえるでしょうね。
※川辺のシーンも、川に映る二人の姿・・・の演出が素晴らしかったですよ。
実質、伊福部昭の劇伴が鳴りっぱなしの86分。
そういう意味でも贅沢な作品です。
終わった時には場内から拍手が巻き起こりました。
私たちも手を叩きましたよ。
バウスシアターさんに感謝です。