Kodak DC4800
'07/09/02の朝刊記事から
50キロ競歩 誘導ミスで山崎「棄権」
完歩目前 無情の結末 気丈に「北京目指す」
「おかしいな」とは思った。
が、正誤を判断する力はもう残っていなかった。
山崎の2度目の世界選手権は、疲労困憊で意識が朦朧とする中、誘導ミスによる途中棄権という残酷な結果に終わった。
残り2キロ。
北京五輪の切符を懸け、入賞圏内の8位を争っていた時だ。
目の前に3人の競技役員が手を広げて待ち構えていた。
周回コースではなく、競技場へと誘導するしぐさだ。
「あと1周あるかなと思ったけど、こっちって言われたからラッキーだな」
周回を記録していた役員が気づき、叫んだ。
「もう1週。間違いだ!」
沿道にいた救護員が慌てて追いかけた。
山崎はそれに気づかず競技場内へ歩を進める。
場所によっては38度近い気温になった残暑の中、3時間40分以上歩き”5番目”でゴールイン。
近くのカメラマンに「ゴールしたんですよね」と一言発して、大の字に倒れた。
担架で医務室に運ばれてから事態を伝えられ「あ、そういえば」。
後半ペースが落ちた割にはタイムが良かったなどと、少しずつ最後のシーンを思い出した。
中盤、一時は先頭集団につけ、優勝したディークスらと競った。
「そういう勝負をやってみたかった」。
高地トレーニングを積み、6月にはサロマ湖100キロマラソンも歩ききった。
持久力に自信をつけて臨み、果敢な勝負に挑んだ。
点滴後、姿を現した。
「すごく悔しい」。
当然だろう。
でも下を向かなかった。
「来年の日本選手権で優勝して北京五輪を目指します」と気丈に言った。
見る者にそれを確信させる「完歩」だった。
誰も棄権したなどと思ってはいない。