井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

スターンの呪縛(1)

2010-02-17 23:12:05 | ヴァイオリン

ヴァイオリンの弓は,木の部分(弓身)を弓毛の真上ではなく,少し倒して使うことが多い。ヴィオラ,チェロも同様である。この弓を倒した形でずっと力を加え続けると,弓は当然のように撓んできて,そのうち元には戻らず変型してしまう。

変型することを考えなくても,強い音を出したい時は,弓を倒さず,弓毛の真上に弓身を位置させる使い方が,最も強い音が出やすい。力学的に考えてもそれは明々白々である。

私自身は,次の二つの方法を子供の頃に習った。
1. ダウンは弓を倒して,アップはまっすぐに。
2. 元では倒して,先に行くに従ってまっすぐに。
どちらにせよ,弓に力がかかり過ぎる時は倒す,そうでなければまっすぐに,ということが共通している。

ところが,弓身を弓毛の真上(まっすぐに)ではなく,斜上にしたまま(倒したまま)弾き続ける人は,かなり多い。一流の演奏家にもたくさんいるのである。

まあ,それで立派に弾けるのだから良いではないか,と思わないではない。
しかし,それは演奏サイドの見方で,楽器屋さんからすると,気が気でないはず。弓が変形してくると,修理の依頼がある。一流の演奏家ともなると,弓も数百万円はする。変形はアルコール・ランプで焙ることで,一応なおる。でも,弓の価値は下がる。楽器屋さんとしては,自分で価値を下げる行為をするのだから,気が進まないのも当然だ。

弓をまっすぐ使ってはどうか,と御注進申し上げた職人さんの話を聞いたことがある。すると,
「だって,スターン先生がこう弾けと・・・」

職人さん曰く「もう亡くなったんだから,どう弾こうがいいじゃないの」となる訳だが,私でもアイザック・スターンから直接言われたら,それを頑迷に守り続ける可能性大だ。

大演奏家の一言は,500万円の弓をダメにする破壊力があるってことか?