井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

フィギュア・スケートと音楽

2010-02-20 22:21:00 | 音楽

「太陽・金星・木星という3大ラッキースターが、魚座に滞在するこの時期は、世の中に大きな癒しがもたらされるとき。心和むニュースや感動的な話題に、疲弊した人々の気持ちも穏やかになりそうです。アーティスティックな才能を兼ね備えたタレントに人気が集中。老若男女問わず、熱狂的なファンが増えるでしょう。「泣ける」と評判の漫画や小説がベストセラーになるかも。」(星占いによる今週の世相)

 実際,高橋選手の使用楽曲,ニーノ・ロータの「道」に「泣けて」しまった。この曲を聞くだけで泣いてしまう人は世界中に大勢いるはずだ。これは選曲の妙,すばらしい戦略。ジャンプのミスもあったけど,構成点があれだけ高かった背景には,この影響も少なからずあるだろう。

 この「道」に頻出するトランペットのテーマは「ジェルソミーナ」のテーマと呼ばれるが,これがドヴォルジャークの弦楽セレナード第4楽章にそっくりなのは有名,だったはずなのだが,最近は「道」を知る人が減ってきて,知る人ぞ知る,というところになってしまった。

ドヴォルジャーク:ド  シ ミ   ラ ソ ラソド   ファ ミ・・・
ジェルソミーナ :ド シドシミ   ラ  ソラソド   ファ ミ・・・

 このような具合だ。30年くらい前の「音楽の友」誌で,クラシック音楽に愛称をつけてみたら,という特集で,このセレナードに「ジェルソミーナ」という名前をつけた評論家がいたくらいである。

 しかし,この弦楽セレナード,泣けるのは第2楽章,この第4楽章は残念ながら泣くほどではない。ニーノ・ロータの勝ち,だろうか?そうかもしれないが,やはり映画の影響が濃厚であろう。いやはや,もう,私には堪え難く哀しい映画である。そのような映画にロータの音楽はぴったりはまる。

 という次第で,高橋選手の音楽の扱いには満足した。
 満足しなかったのは金メダルに輝いたライサチェックの音楽「シェヘラザード」。

 ライサチェック自身は王者の風格を感じ,まさに金メダルに相応しい貫禄があった。しかし,音楽屋さんとしての私からは不満たらたら。

 シェヘラザードは名曲だ。スケートやバレエのために作られた訳ではないから,スケートの動きにあまり合わないところがあるのは致し方がない。だが・・・全然合っていなかった!

 音楽には音楽上のクライマックスが当然ある。音楽愛好家は,これまた当然それに反応する。ところで,フィギュア・スケートなのだから,ジャンプやスピンなどの技に反応しなかったら観ていることにはならない。この両者が関係無しに現れるものだから,心は引き裂かれた状態,とても非音楽的に興奮し,音楽的な興奮はスケートの滑りによって冷まされた・・・。

 この事態,今に始まったことではない。太古の昔?から,これは当たり前に存在した。まぁ,主体はスケートだから,そんなものだとも言える。が,それだったら音楽がなくてもいいじゃない,と言いたくなる。それでも日本はオリジナル曲で勝負する歴史を持つくらい,音楽を重視している方の国だと思う。今回だって,織田,小塚ともライサチェックに比べれば,かなり考えられていたと思う。

 今回,日本男子初のメダルは快挙だ。すばらしい。その上で,今後金メダルを狙うのならば,是非音楽との緊密なリンクを考えてほしいものである。音楽上のクライマックスとスケーティングのクライマックスが一致すれば,大きな感動を呼び起こすのは確実だし,海外を見渡しても,そこまで研究している国はまず見当たらない。今後の日本のフィギュア・スケート,ぜひともこのことを考えて金メダルに近付いてほしいなあ。