福岡の5大学のオーケストラが集まって組織する「福岡学生シンフォニーオーケストラ」というのがある。そこが主催する年一回の講習会に、今年も講師として招かれ、初心者を相手に1時間の講習を行った。
始めて数か月の初心者に言うことといったら、まだひたすら左手指を動かす訓練をする時期で、それ以上のことができるはずもなく・・・という認識はあるのだが、他大学の初心者を目の前にすると、自分の大学の学生には言ったこともないようなことが絞り出されてくるから、あら不思議、である。
その一つが「大胸筋」の話。厳密には、自分の学生達にも5年に一度くらいは話すのだが、とにかく今日は久し振りに話した事柄だった。その内容とは・・・
ヴァイオリンの保持は腕でする。右腕で弓を持ち、左腕で楽器を下から支える。これが初心者に限らず、難しい時がある。長時間支え続けるのは、やはり慣れが必要。慣れないと左腕は下がってヴァイオリン本体が下を向くし、右腕もひじが下がってくる。
この、腕が下がった状態でもヴァイオリンは一応弾ける。ただヴァイオリン本体が下がると肺を圧迫してブレスが困難になる。弓が指板に行きやすくなる。そのために押さえつける傾向が強くなる。これらの要因で、結構音が悪くなるのである。
右腕が下がった状態を正しい姿勢としている流派もある。いわゆる「ドイツ式」でヨアヒムの絵を見ると、右手首が鶴の首のように突き出て、ひじが下がっている。旧東ドイツではずっとそのように弾かれていたようだし、故鈴木慎一先生もそれを正しいとされていた。
この方法は、右手首に負担がきて、難しい曲になると困難が倍加するのみならず、最悪の場合は、筋を痛める危険性があるのが欠点である。その後の流派である「フランコ・ベルギー式」はもっとひじが上がり、「アメリカ式」は右手首を全く曲げないところまで、腕全体を持ち上げて弓を持つ。
そのような次第で、楽器は床と水平に保持し、右手も手首を曲げないですむところまで高く上げて保持するのを良しとしたい。
ところが、この「高く保持」は結構難しい。実は私も学生時代、左も右も下がりっぱなしであった。なぜなら、やはりキツイ、しんどい、と思った。保持するためには、それを支える筋肉が強くなければならないのである。楽器を持つために必要な筋肉、それが「大胸筋」である。
この大胸筋を鍛える運動でもっともポピュラーなのは腕立て伏せだろう。しかし、これは40回くらいやらなると、効果が出ない。ところが一回で済む筋肉トレーニングがあるのだ。「デプス」と名付けられた体操は以下の通り。
平行棒と同じ役割をするものを見つける。いす2脚とか、いすとテーブル、など。そしてその間に体を沈める。まずは一回で良いが、2回できれば理想的である。
この体操をやった後は、本当にヴァイオリンが軽く感じられる。高く保持するのもわけなくできる。お試しあれ。(と言って、本当にやった人は少ない。たった10秒の投資なのだが・・・。ただし小学生は対象外。中学生以上の、大人の体になってからのことと受け取っていただきたい。)