今年のセンター試験で「物理I」の問題、しょっぱなに「ヴァイオリン」と出ているではないか!
「ヴァイオリンの弦の音が音叉の440Hzより少し低かった。0.5秒に1回のうなりが聞こえた。さてヴァイオリンの弦は何ヘルツ?」という問題。
いやはや、うなりを数えたことなんてないし、ましてや1Hz単位低かろうが高かろうが、ビブラートでもかければ誤差にはいらなくなる差異なので、こんなもの聞きとれる訳がない・・・。
というのはヴァイオリン屋さんの言うことで、物理屋さんは当然違う。
試験が終わって早速チューナーを2台出して、1Hz違いのうなりを聞きとろうとしたのだが・・・
全く聞きとれない。
チューナーの信号音(鋸歯状波かな?)に美しいビブラートがかかる感じか。
7Hz差をつけたらようやくうなりを数えることができた。1秒間に7回のうなりである。ここから1Hz単位で差を縮めていったら、4Hz差までは数えられた。それ以下は二つの音が分厚く一体化している感じで、うなりを聞きとるのはかなり難しい。(いや、はっきり言ってできなかった。)
問題に戻ると、0.5秒で1回ならば1秒で2回、つまり2Hz差だから、答えは438Hzなのだろう。ちなみに試験会場では漠然と439.5Hzか、などと考えていたから、そのあたりは呑気な音楽屋さん的思考である。これではセンター試験の点はとれない。
もしかしたら「1秒に0.5回のうなり」という問題だったかもしれない。その時は439.5Hzで正しいはず。
他にも、スピーカーから音を出してメガホンで拾う時、拾い方次第で音が大きくなったり小さくなったり、などという問題もあった。多分位相が反転する音をミックスすると小さくなるから、距離がこうなる時・・・などと考えていられたのは、その昔オーディオに少々かぶれていたころの名残。
そもそも楽器の演奏とは物理の実験をぶっ続けでやっているようなものだ。物理的に「○○な音」を出したければ、必ず物理的な解決法がある。そして、そのルールを知らないとうまくいかないことも多々ある。
ヴァイオリンで言えば、ハーモニックスは駒よりでないと音は出ない。周波数が高くて波長が短いからである。しかし、それを実行しないで「なかなか音が出ないなぁ」と言っている人の多い事多い事。
そんなこんなで経験的に知っている物理の色々はあるけれど、高校の物理を履修すれば、そのような基礎的なことも少しはやるということだ。ということは、私が教える音楽関係の学生も、このくらいの知識は持ち合わせて入学してくるのだな。
ということは無いようだ。音楽志望は高校で文系科目を履修する人がほとんどで、文系では大抵物理を扱わないからだ。かくいう私もそうだった。
これが間違っているのではないか、と時々思う。上述のように、音楽をやるには物理的知識が時々あった方が良い。さらに言えば、楽譜の発想は算数そのもの、歴史をさかのぼれば、リベラルアーツを扱っていた中世の大学では、数学のお隣に音楽が座していた訳だし。
だからと言って理系かと言われても困るのである。文学や美学など、人間の感性に直結した部分も重要な一面である。早い話が、文系と理系に分けて、それで全てだろうと思っている人々と仕組みが困る。
音楽は文系理系、知性と感性、その全てを統合する素晴らしいものであるということを、ここでは強調しておこう。
しかし、最初の「うなり」であるが、実験してみてわかったのは、この実験にはすごく精度の高い耳が必要だということ。音楽で鍛えられた耳でも1秒間に数回のうなりを数えるのはとても難しい。この実験は音楽をやっている人がようやく結果をとらえられるもの。そのようなものを物理の実験と言えるのだろうか?