私はブリティッシュ・ロックは嫌いなのである。 何か、体にいつまでもまとわりつくような感覚、もう生理的にそう感じるのだから、嫌な物は嫌と言うしかない。だから、その流れを汲むロイド・ウェッバーも嫌い、ビートルズの一部にも、それを感じる曲は嫌い。
敢えて言えば、昭和50年前後、NHKのTVで日曜日の昼だったか、なぜか海外のロック・コンサートを放映していた。マイク・スタンドを倒すのみならず、オルガンまで倒しながら演奏することに、とても嫌悪感を覚えたのである。
ならば見なきゃいいのに、中学生日記か何かを見た後に、スイッチを消すのが面倒で、嫌いにも関わらず見続けるという、怠惰な中学生であった。だから、そんな自分が嫌いで、それとロックが一緒くたになってしまっているかもしれない。ロック、ごめんなさい。
それはともかく、当時はチャイコフスキーやラヴェルが大好きで、ロックには見向きもしなかった。が、何がはやっているかは知っていた。それは「週刊FM」を毎号買っていたからだ。それで、この「ボヘミアン・ラプソディー」が、かなり長い間、ヒットチャート1位を飾っていたのは知っていた。
で、実際に耳にしたのは、高校生になってから。「オーケストラで聞くロックの名曲」みたいな企画レコードが出て、それをFMで聞いたのが最初。
いかにも、趣味王国イギリスで考えられそうなアイディア。ついでに、他のオーケストラ・ヴァージョン。
</object>
この曲はラプソディーというタイトルをはじめ、クラシック音楽の影響は少なからずある。ロックとしてはかなり異色、今改めて聞くと「スカラムーシュ」だの「ファンダンゴを踊る」だの、かなりの教養に裏打ちされたテキストにも驚いてしまう。
が、クラシック音楽的にみると、かなり荒っぽい作りも散見できるので、後世に残る不滅の名曲とまで持ち上げるつもりはない。
それが、今年になって、正面から向き合うことになってしまったのである。
今月24日、北九州市の「ムーブ」大ホールで、戦場カメラマンの渡部陽一さんを迎えたコンサートに出ることになった。
最初は、戦争に関する音楽などを中心に構成することを考えていた。ところがある日、とある人からの情報で、渡部さんは往年のロック・グループ「クイーン」の大ファンであることがわかったのである。
だから、クイーンをやってみたら、などと簡単に言ってくれたりするのだが、あのエレキサウンドをヴァイオリンとピアノでできる訳ないでしょ・・・、と当初は全くの対象外の曲と思っていた。
しかし、私は「やる気のないダースベイダー」が結構好きだ。
</object>
この路線で考えれば結構いけるかもしれない、と思ったのである。
でも、それはそれで難しく、結局は割と素直な井財野版が誕生した。(とは言え、ハーモニックス、ピチカート、グリッサンド、二重音、三重音等、ヴァイオリニスティックな技巧は駆使されている。)
問題はピアノの方に生じた。24日の演奏会に先立ち、6月と今日、2回発表の機会があったのだが、いずれも20代、30代の若いピアニスト、クイーンを知らないのである。ロックも知らないに等しかった。必然的に、私がロックの様式を伝えるハメになる。私が嫌いなロックを教える日が来ようとは、想像さえしたことがなかった。
苦戦するピアニストと共に迎えた本番、これがまた2回とも共通してユニークな光景だった。
聴きにいらした方はどちらも高齢者が多く、こちらもクイーンをご存じない方が大半を占めていた。そう、当時10代から20代、せいぜい30代くらいまでの人のみがクイーンを聞いていたのであり、その上も下も知らなくて当然である。
それでは興味がないのかというとさにあらず、極めて集中して聴き耳を立てて下さっていた。とても不思議な音楽を聞いている表情が垣間見えたのである。
ここで得た結論、そうか、私が演奏(編曲)すれば、全て(良くも悪くも)クラシック音楽になってしまうのだな、というもの。
考えてみれば、ジャズやラテン音楽の要素が入り込んだクラシック音楽は、すでに一般的だ。ロックの要素が入り込むクラシック音楽があって当然なのだ。自画自賛になってしまうが、これはなかなか新手の面白さかもしれない、と思った。(バーンスタインやロイド・ウェッバーには既にロックが入っているけれど、どちらもドラムセットを使っているので、ロックそのものに近い。)
ヴァイオリンとピアノによる「ボヘミアン・ラプソディー」、お時間と興味のある方はぜひお越しいただきたい。
問い合わせは「アプレシオ・アラ・ムジカ音楽スタジオ」(Tel093-981-8520)まで。
ヴィヴァルディだってバッハだってモーツァルトだってベートベンだってショパンだってリストだってクライスラーだって、多分みんな、ご存命のころはそういう演奏者であられたンだろうなあなんて想像するのは楽しいものです。
人々を元気にする音楽作りを続けたいものです。
今後ともよろしくお願いします。