正月早々、名器と新作のヴァイオリンの比較をする研究結果を伝える新聞記事が出た。同時に「芸能人の格付け」なんとやらで、毎年弦楽器の値段を当てさせる番組が続いているらしい。
確かに億もする楽器の音色とは、どんなものだろうと思うのも当然だ。専門家によるブラインド・テストも10年に1,2回くらいの割合で耳にするような気がする。
それこそ30年前、芸大ガダニーニ事件というのがあった。(私も東京地検まで行って事情聴取を受けた。いやはや大変だった。)
それを受けた形で、NHKがドキュメンタリー番組として(娯楽番組ではない!)、ヴァイオリンの音当てテストをやったことがある。当時のN響のコンマスあたりがテストされたのだが、結果は「当てられなかった」。
以下は人づてに聞いた話。
それを見ていた故・江藤俊哉先生「あれは当てられないよ。彼、ストラディバリ弾いたことないでしょ。弾いたことない人は当てられないよ。」
江藤先生の言葉となると説得力がある。
では、なぜオールド・ヴァイオリンは値段が高いのか。
これはひとえに、古くないと出ない音色があるからだ。この音色に絶大な価値がある。
もう一つ、ピアニッシモで弾いた時に、オールドは音の通りが良くて、遠くまで届く。
それ以外は、新作の方が性能が良いことが多い。
音が下から上までほぼ均等に出て、反応が良く、湿度の変化にも強い等、が「性能」である。
「ヴァイオリンは新しいのが一番いい!」と断言した玉木宏樹さんという大先輩もいらっしゃった。この方はご自身の著書で、スタジオ・ミュージシャンが高い金払ってオールドを持とうとするのを非常に批判的に見ていらした方だ。商業音楽のスタジオ録音の場合は、ほとんどの場合、音がかなり加工されるので、300万の楽器も3000万の楽器も、ほぼ同じ音になってしまう。
新作でも、作りの良いものはやはり良い音がする。短時間であれば、こちらが良いと思う人も大勢いるだろうと想像がつく。でも、例えば一晩の演奏会くらいの時間を聞いた時、あるいは弾いた時、オールドの音の方に軍配が上がる。
割と有名な日本人ヴァイオリニストで、日本人の新作を好んで演奏会で弾かれる方がいる。最初は、その方の上手さに耳がいくのだが、途中からどうしようもない欲求不満にかられる。「もっといい楽器で弾いて下さいよ!」と心の中で叫ぶことになるのだ。
ではオールドの音を当てられるか?
これは大抵当てられる。音の深みが違うような印象があるはずだ。
ではストラディバリの音を当てられるか?
前述のようにストラディバリを弾いている人ならば当てられる。そうでない場合は、どっちもありだ。当てられたとしても、あまり自慢にはならないような気がする。
私などは、好きな音を聞かされた時、これはもしやストラディバリ?と思う程度。ストラディバリとグァルネリ・デル・ジェスとの比較だと、多分わからない。
ということで、テレビ番組程度ではわからなくても当たり前という結論にいたる。
とは言え、テレビにもってこいの魅惑的な企画なことも確か。また来年も同じような番組が放送されるのかな・・・。
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