その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース W.シェイクスピア『リア王の悲劇』(演出:藤田俊太郎)

2024-10-04 07:29:19 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

私には今年3つめの「リア王」の公演。今回は滅多に上演されないフォーリオ版(シェイクスピア自身が『リア王の物語』(クオート版)を改訂したもの)です。翻訳者の河合祥一郎氏によると「フォーリオ版はリア王の長女と次女たちの言い分もしっかり描いてあり、世代間価値観の相違という問題が浮き彫りになっている」(プログラム)とのことです。

木場勝己が演じるリアの圧倒的な存在感に痺れました。王の威厳が滲み出る気魄から段々と認知がおかしくなり狂人と化し、一人の弱き老人と変わっていく寂しさを演じ分けるのは見事。とても今年75歳には見えず、格好いい。

エドマンド役の章平の悪役ヒーロー振りも舞台映えしました。私生児としての逆境を跳ね返すため、肉親も陥れ、打算的に権力者の妻たちの気を引き、自らの立身のために利用する。これだけ徹底していれば、返って清々しいぐらいですが、そのヒール役に章平が綺麗に嵌っていました。

男性陣では、加えてグロスター伯爵の伊原剛志も強い印象が残りました。息子エドマンドに嵌められながらも、主人リアを想い、目をえぐられ、野で遭遇したエドガーを実の子と知らず、手を取られ導かれる姿は涙を誘います。

二人のリアの娘、ゴネリルとリーガンの水原希と森尾舞は凛とした王家の娘らしい演技でした。フォーリア版故か、意地悪さよりも論理的というか、言うことは言う強い女という印象です。コーディリアと道化の2役を演じた原田真絢は、道化役の活き活きとして柔軟な動きや美しい歌が良かった。

これは演出家の考えで、役者には何の責めは無いのですが、土井ケイトが演じるエドガーはエドマンドの姉という設定になっていたのは首を傾げました。女性が男性役をやるというのなら分かりますが、設定そのものを女性に変えてしまうというのは、その意図が良く分からず。いくら今がジェンダーレスの時代とは言っても、役の性別を変える狙いは何なのだろうか。土井ケイトのトムの演技がとっても良かっただけに、個人的にモヤモヤ感が張れなかったのは残念でした。

舞台は大きなステージを目一杯使い、装置も玉座や金属パイプで積み上げたジャングルジム風のグロスター家の屋敷など効果的。嵐のシーンでは強い霧雨を舞台上から降らせ劇的効果を高めていました。風の仕掛けがあればもっと良いのにとはちょっと思ったところはあります。

台詞も適度に削ってあるので、シェイクスピアの日本語劇で時々感じる言葉の洪水的な感じはせずに、自然なスピードと量の日本語劇になっていました。音楽も挿入されて、全般的にとっても今風に仕上がった舞台で、閉幕近づいていることもあってか、とっても完成度が高まっていると感じました。

今回は前列2列目正面のチケットを採れたのも良かった。全然迫力が違うわ~。カーテンコールで役者さん達と目が合う距離で拍手を送れるのも嬉しかった。

 

2024年10月2日 KAAT神奈川芸術劇場

【作】W.シェイクスピア 
【翻訳】河合祥一郎(『新訳 リア王の悲劇』(角川文庫))
【演出】藤田俊太郎  
 

【出演】

木場勝己 
水夏希 森尾舞 土井ケイト 石母田史朗 章平 原田真絢 
新川將人 二反田雅澄 塚本幸男 
伊原剛志

 

稲岡良純 入手杏奈 加茂智里 河野顕斗 宮川安利 柳本璃音 山口ルツコ 渡辺翔


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