没入と興奮の100分だった。この演奏会は自分にとっても今年の最大級の目玉。年に一度購入するかどうかのサントリーホールのS席に陣取った。私にとっても勝負コンサートは事前の期待を遥かに上回る衝撃の公演だった。
ノットの指揮の下、歌手陣とオーケストラが融合して一つになって、官能的で猟奇的、それでいて美しい「サロメ」の世界が繰り広げられるのを固唾を飲んで見守った。途中で呼吸を忘れ、息が詰まって、咳き込んでしまった(隣席の方、ごめんなさい)。
外国人歌手陣は鉄壁、完璧だった。とりわけ、題名役のアスミク・グリゴリアン。過去に多数のサロメを拝見しているが、ここまで歌唱、演技、容姿がパーフェクトなサロメは初めてだ。美しいソプラノは芯があり、細身の体躯に似合わずホールを貫く強さがある。しかも、個々の演技も繊細で丁寧に作り上げられている。とりわけ少女から大人の女性に変化するサロメの表情・視線の変化が多彩で艶めかしい。12列目でありながら、オペラグラスで凝視してしまった。
ヘロデ役のミカエル・ヴェイニウスの豊かな演技力やヨカナーン役のトマス・トマソンの威厳ある姿と迫力ある低音は、演奏会方式であることを忘れるほど。舞台装置がないだけで、オペラそのものだった。
ナラボート役の岸浪愛学を初め、日本人歌手陣もしっかり脇固めていた。
東響も歌手陣に全く引けを取らない熱い演奏だった。各パートの全力投球がびしびしと伝わってくる。金管の咆哮による波動が体にぶつかり、体がブルブル震える。歌手の歌声を包み込む大波のような音の塊がステージから発せられる。妖艶な美しいメロディ、張り詰める緊張感、様々な気が殺気レベルに昇華していて、背中から冷や汗が流れた。
終演直後から絶大な歓声を伴った興奮のスタンディングオベーション。何度も何度もノット、歌手陣が呼び出された。私的にちょっと残念だったのは、歌手陣への拍手が大きすぎて、オーケストラ奏者への個別賞賛の機会が無かったこと。この公演は、この日の東響の演奏あってのことだ。
余韻に浸るというよりも呆然としたままホールを後にした。
東京交響楽団特別演奏会 R.シュトラウス:歌劇「サロメ」(演奏会形式)
Tokyo Symphony Orchestra Special Concert R.Strauss:Salome
サントリーホール
2022年11月20日(日)14:00 開演
出演
指揮=ジョナサン・ノット
演出監修=サー・トーマス・アレン
サロメ=アスミク・グリゴリアン(ソプラノ)
ヘロディアス=ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(メゾソプラノ)
ヘロデ=ミカエル・ヴェイニウス(テノール)
ヨカナーン=トマス・トマソン(バスバリトン)
ナラボート=岸浪 愛学
ヘロディアスの小姓=杉山 由紀
兵士1=大川 博
兵士2=狩野 賢一
ナザレ人1=大川 博
ナザレ人2=岸浪 愛学
カッパドキア人=髙田 智士
ユダヤ人1=升島 唯博
ユダヤ人2=吉田 連
ユダヤ人3=高柳 圭
ユダヤ人4=新津耕平
ユダヤ人5=松井 永太郎
奴隷=渡邊 仁美
曲目
R. シュトラウス作曲、歌劇《サロメ》
(演奏会形式・字幕付 全1幕・ドイツ語上演)
R.Strauss:"Salome"
(concert style in 1act, sung in German with Japanese subtitles)
Sun.20th November 2022,2:00p.m.
Suntory Hall
Jonathan Nott, Conductor (TSO Music Director)
Asmik Grigorian, Salome (Soprano)
Tanja Ariane Baumgartner, Herodias (Mezzo-soprano)
Michael Weinius, Herod (Tenor)
Tómas Tómasson, Jochanaan (Bass-Baritone)
Sir Thomas Allen, Direction
Aigaku Kishinami, Narraboth (Tenor)*
Yuki Sugiyama, The Page (Mezzo-soprano)
Hiroshi Okawa, First Soldier (Baritone)*
Ken-ichi Kanou, Second Soldier (Bass)
Hiroshi Okawa, First Nazarene (Baritone)
Aigaku Kishinami, Second Nazarene (Tenor)
Satoshi Takada, A Cappadocian (Baritone)
Tadahito Masujima, First Jew (Tenor)
Ren Yoshida, Second Jew (Tenor)
Kei Takayanagi, Third Jew (Tenor)
Kohei Niitsu, Fourth Jew (Tenor)*
Eitaro Matsui, Fifth Jew (Bass-Baritone)
Hitomi Watanabe, A Slave (Soprano)
Tokyo Symphony Orchestra