日本人作曲家・藤倉大による初演の新制作オペラ。まずは、このコロナ禍の中で、この企画を実現に結び付けた関係者の努力に最大限の賛辞と感謝を送りたい。逆境の中、ここまでのチャレンジを行ったオペラ劇場は、世界広しと言えどもそうはないだろう。素晴らしいと思う。
イギリスのSF作家H.G.ウェルズによるSF短編『アルマゲドンの夢』が原作だが、なんとこの短編1902年創作というから第1次世界大戦前の作品である。この公演に合わせて、日本語の文庫版が復刊されたが、事前に入手できなかったのでAmazon Kindleで原書をダウンロードしたのだが、1/3ほど読んだところで公演日を迎えてしまった。全体主義や戦争に囚われた人類を描くディストピアものである。
1時間半の1幕ものであるが、始まりから終わりまで緊張感一杯の舞台で、ディストピアもの好きの私には堪らない公演だった。現実と夢がクロスする原作の世界を、グロテスクな衣装やマスク、不安定で不安にさせる音楽や歌、シュールで暗示的な大衆の動作、要所で挿入される効果的な映像が上手く組み合わされ、期待通りの世界観が構成されていた。
主役級の外国人歌手陣に特に際立った感はなかったが、安定したパフォーマンスだった。冒頭のアカペラから始まって全編にわたり合唱が散りばめられているが、新国立劇場合唱団はいつもの美声を聞かせてくれた。ピットに入った東フィルも緊張感一杯の音楽を聴かせてくれた。
この手の暗く、ハッピーエンドでない劇では、幕が下りて大感動で大拍手と行かないのは致し方ないだろう。後方は空席も目立つ入りだったのも残念だったが、満足の拍手が劇場には響いていた。(声が出せないのでブラボーは言えないが、ブーイングもできないので、ニューノーマルの舞台は不満を表したい人はどうするのか、くだならいことが気になった。)
もう少し原作をしっかり読んで、この世界や舞台の意図をもっと知りたいと思う。再演、またはテレビでの放映を強く希望したい。
2020年11月18日 観劇
スタッフ
台本:ハリー・ロス(H.G.ウェルズの同名小説による)
作曲:藤倉 大
指揮:大野和士
演出:リディア・シュタイアー
美術:バルバラ・エーネス
衣裳:ウルズラ・クドルナ
照明:オラフ・フレーゼ
映像:クリストファー・コンデクドラマトゥルクマウリス・レンハルト
キャスト
クーパー・ヒードン:ピーター・タンジッツ
フォートナム・ロスコー/ジョンソン・イーヴシャム:セス・カリコ
ベラ・ロッジア:ジェシカ・アゾーディイン
スペクター:加納悦子
歌手/冷笑者:望月哲也
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
New Production /
Commissioned Work, World Premiere
Music by FUJIKURA Dai
Opera in 9 Scenes
Sung in English with English and Japanese surtitles
OPERA PALACE
15 Nov. - 23 Nov., 2020 ( 4 Performances )
CREATIVE TEAM
Libretto by: Harry ROSS
(after the short story “A Dream of Armageddon“ by H.G.WELLS)
Composed by: FUJIKURA Dai
Conductor: ONO Kazushi
Production: Lydia STEIER
Set Design: Barbara EHNES
Costume Design: Ursula KUDRNA
Lighting Design: Olaf FREESE
Video: Christopher KONDEK
Dramaturg: Maurice LENHARD
CAST
Cooper Hedon: Peter TANTSITS
Fortnum Roscoe/Johnson Evesham: Seth CARICO
Bella Loggia: Jessica ASZODI
The Inspector: KANOH Etsuko
The Singer/The Cynic: MOCHIZUKI Tetsuya
Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra