仕事や事業を「付加価値」という切り口で観察し、その作り方のスキルを身に着けるための一冊。筆者が新卒で就職したキーエンス社での経験をもとに、「価値とはお客様が感じる(決める)もの」、「付加価値はニーズが源泉」という考え方からスタートし、付加価値を最大化するための具体的ノウハウが解説される。
キーエンス社は今を注目の高収益企業であるが、以前の職場で何度か打ち合わせをさせて頂いた。相手のニーズ、困りごとの本質を掴もうとする貪欲で粘り強い営業活動が印象的だった。数度の打ち合わせの結果、弊社は脈なしと見切られたのか、ぱったりと連絡が途絶えた。見込みが低い相手に時間を投入するのは生産性に見合わないと判断されたのかと、やや苦笑いではあったが、その営業ノウハウや仕事のプロセスはもう少し深く知りたいと思っていた。
私としてのおみやげは以下の点。
・付加価値を考えるトレーニング:「目の前の商品がどんな潜在ニーズを捉えて企画されているのか」を考えることを積み重ねていく
・現場を調査・観察して初めて潜在ニーズが見えてくる。サービスがどう買われ、使われているかを自分の目で確かめる。観察する。体験する。
・個人の判断や解釈ではなく、市場原理と経済原則に基づいて考える。企業側の個人の判断や解釈は、常に市場からずれている
・法人顧客へのアプローチは、「法人顧客が感じる価値」と「個人が感じる付加価値」を切り分けて考える。法人顧客が感じる付加価値は、エンドの「個人が感じる付加価値」から生まれる。目の前の法人顧客のニーズだけを見ていてはダメ。
・法人顧客を攻略する6つの価値:1)生産性のアップ、2)財務の改善、3)コストダウン、4)リスクの回避・軽減、5)CSRの向上、6)付加価値のアップ
・人は営業を受けるのが嫌いである。お客様が欲しいのは、「自分の成功」。業界の人は業界に詳しくないので、お客様はお客様の成功につながる市場の中の情報に気が付かない。お客様以上お情報を見つけて教えてあげるのが営業の役割。
・お客様のニーズのヒヤリングのポイントは「具体的にどういうことか?」「なぜそれが重要なのか?」「そのニーズを生んだお客さんの背景・状況」を把握すること
言葉として書き下してしまうと当たり前のことのように読める。マネジメントとしてのポイントは、「それが仕組みとして組織の中に落とし込まれているか」、「社員が理解し、実践することに拘っているか」に尽きる。キーエンスの強さはそこにあるのだと感じた。
簡単に読めるビジネス書であるが、大事なところが無駄なく書かれていて、まさに生産性の高い書籍であり、マネジメントや営業に携わるビジネスパーソンにおすすめです。
【目次】
はじめに
第1章 付加価値における「価値」の話
「価値とは何か?」がわからないと報酬は低いまま
「価値の概念」を理解しないと、赤字確定!
「見切り発車」の新事業・新商品が利益を激減させる
「人の命の時間」をムダにする、価値のない事業
なぜ、お金を支払ったお客様から「ありがとう」と言われるのか?
「付加価値をつくる人」になるために
第2章 それは付加価値か、ムダか?
価値と付加価値の関係性
「それなら3倍以上支払ってもいい!」と思わせる価値
ニーズこそが付加価値の源泉である
付加価値には「仕組み=構造」がある
付加価値は「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」に支えられている
潜在ニーズをつかんでヒットしたあの商品
キーエンスではまず現場に「潜在ニーズ」を探しに行く
ニーズの裏にある「感動」こそが、付加価値の最小単位
付加価値の3種類
第3章 付加価値創造企業「キーエンス」
「構造」が成果=付加価値をつくる
最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる
マーケットイン型企業「キーエンス」の思考法
市場原理と経済原則で考え「標準化」する
「世界初・業界初」で、付加価値戦略と差別化戦略を両立する
あなたの会社はなぜキーエンスになれないのか?
他社とは違うキーエンスの営業構造とは
キーエンスの構造に「ほころび」がない理由
第4章 法人顧客を攻略するための6つの価値
「顧客の先にいる顧客」にとっての付加価値を見定める
法人顧客が感じる付加価値は「個人が感じる付加価値」から生まれる
価値の王道「生産性のアップ」
変則的な手法「財務の改善」
最もわかりやすい価値「コストダウン」
理解しづらいからこそ価値がある「リスクの回避・軽減」
間接的な影響力を持つ「CSRの向上」
価値×価値で「付加価値がアップ」する
第5章 ニーズの見つけ方と付加価値の伝え方
付加価値をつくり出す組織の基本構造
「業界の人は業界に詳しくない」と認識すべし
お客様のニーズを「明確に、完全に、認識のずれなく」理解する
「現場」を見たことがない営業はお客様のニーズがわからない
「わかっている」と思った瞬間に二流になる
売れない人は「特長」を語り、売れる人は「利点」を語る
「だから何?」の先にある「お客様に起こる変化」を示せ
コストベースではなく「付加価値ベース」で価格決定する
高価格をつけるための3つの質問
第6章 つくった付加価値をいかに広げていくか
付加価値を最大化・最適化する「価値展開」
マーケターは「お客様が買う瞬間」を見なければならない
シーズは世界のどこかに落ちている
バックオフィスはどうやって付加価値をつくるのか?
「作業」ではなく「仕事」をする
おわりに
各章のまとめ