その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

工藤公康 『野球のプレーに、「偶然」はない』

2013-09-27 01:44:32 | 


 元ジャイアンツの工藤公康さんによる野球の見方本。サブタイトルに「テレビ中継・球場で観戦を楽しむ29の視点」とあるとおり、著者が投手、捕手、野手、打者、ベンチそれぞれの観るべきポイントを解説してくれる。私は野球についてはうるさいほうだと自認しているが、「なるほど」と納得する点が多く、観戦の楽しみの幅が広がることは間違いない。

 私は選手生命の長い選手が好きだ。長い間プロの世界で活躍するには、絶え間ない研究心と厳しい自己管理の2つが不可欠だと思うから。工藤選手はその見本選手である(その反対に位置していると勝手に思っていて好きになれなかったのが清原選手)。本書にはその工藤氏がプロ野球生活の中で、相手チーム、対戦選手についてどう観察し、何を考えて、どんな行動を取ってきたかのノウハウが沢山詰まっている。

 例えば、投手の配球について、「投手は登板した試合だけを考えているのに対して、キャッチャーは1カード全体もしくは1シーズンを見据えてリードする」という。なるほどと、思わずうなずいてしまう。

 余談的な記述が無く、受験参考書のようにポイントとメッセージが明確に記述してあるのも分かりやすくて良い。野球好きの人にはお薦めです。
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N響定演 Aプロ/ブロムシュテット/ブラームス交響曲 第2番、3番

2013-09-23 19:35:12 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 オーケストラの音合わせが終わって、コンサートマスターが席に着く。暫く間を置いて、指揮者が舞台袖から登場し、聴衆は拍手で出迎える。この時の拍手の大きさや質はその日の指揮者によって大きく違ってくる。

 ブロムシュテットさんを迎える拍手は大きく、何より暖かい。85歳の高齢にはとても見えない溌剌としたマエストロに、聴衆は皆、歓迎の意と尊敬の念そしてこの日の演奏への大きな期待を併せて拍手を送る。ほんの数秒の出来事なのだが、私にはこの場に一緒に居合わせることができた幸福感が一杯に満たされる。

 そして、その拍手に期待通り応えるこの日のパフォーマンスだった。Bプロのブラームス交響曲1番で始まったブラームスチクルスは、この日は2番、3番。交響曲2番は、軽快で爽やかな演奏。冒頭から団員の皆さんも気合十分なことは3階席にも十二分に伝わってくる。暗譜で振るブロムシュテットさんの棒先とオーケストラの集中力が舞台上で激突するオーラを感じる。

 そして交響曲3番は今のN響の最高の力が発揮された演奏と言って良いのではないだろうか。この曲は、2012年6月にウィーンフィルのロンドン公演でサイモン・ラトルの指揮で受けた衝撃がまだ残っている(こちら→)のだが、この日のN響の演奏スタイルはそれと違って、簡潔で明確、かつ暖かさを感じるもので、ブロムシュテットさんの人柄そのもの(もちろんどんな方かは私は全く存じ上げないが)が現れているのではないかと思わせる演奏だった。弦も管もどれも素晴らしい出来で、弦と管の取り合わせの妙がブラームスの交響曲の面白さとどこかに書いてあったが、まさにそれを堪能させてくれた。あのNHKホールが小さく感じるほどの音量にもびっくり。

 終演後の拍手はお迎えの拍手を数倍上回る大きなもので「ブラボー」も四方八方から飛んでくる。私も負けまいと手が痛くなるまで拍手を送り続けた。3階席の自由席も売り切れになったこの日のNHKホールの皆が、マエストロとオーケストラへ感動と敬意を拍手にして表現していた。

 あとは交響曲4番のCプロを残すのみとなった。悔しいのだが、私は仕事と私用でCプロは両日とも行くことは叶わない。「画龍点睛を欠く」とはこのことだろう。う~ん、残念。是非、足を運べる人は行って欲しい。きっと、N響史に残るブラームスチクルスの有終の美を飾るに相応しい演奏を聞かせてくれるに違いない。


≪ブラボー!!!≫



第1761回 定期公演 Aプログラム
2013年9月22日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール

ブラームス/交響曲 第2番 ニ長調 作品73
ブラームス/交響曲 第3番 ヘ長調 作品90

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
NHK交響楽団

No.1761 Subscription (Program A)
Sunday, September 22, 2013 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Brahms / Symphony No.2 D major op.73
Brahms / Symphony No.3 F major op.90

Herbert Blomstedt, conductor

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イエスマン "YES"は人生のパスワード

2013-09-21 15:35:17 | 映画


 先週末、台風で外出予定がキャンセルとなってしまったイライラの発散に、何も考えずに馬鹿笑いできる映画が見たいと思いこの作品を選ぶ。私にとって、馬鹿笑い映画といえばジム・キャリーしかない。

 「人生において常に「ノー」を連発してきた後ろ向きな男が、どんなときでも「イエス」と言うルールを自分に課したことから騒動が巻き起こるコメディー。」(Yahoo!映画より)です。

 期待通りのアメリカンコメディで、最近このジャンルにはご無沙汰だった私には新鮮だった。「マスク」から15年近くが過ぎ、ジム・キャリーも歳を取ったなあ~と思ったが、相変わらず存在そのものが楽しく可笑しい。ヒロイン役のズーイー・デシャネルがハリウッド映画のヒロインにしては地味目な美人で、私的にとっても好み。「マスク」のようなコメディとして何か変わった仕掛けやひねりがあるわけでもなく、至って普通のコメディと言ってしまえばそれまでだが、軽い気持ちで愉快な時間を過ごすにはぴったりの映画だった。

 この映画、私がロンドン滞在時に封切りされたのだが、その時の「Times」紙の映画批評でボロクソ書かれていたのを今でも鮮明に覚えている。今回見てみて私としては十分標準以上のポイントを上げても良いと思ったし、日本の映画サイトの読者レビューも概ね好評価なので、なぜあそこまで酷評する必要があったのか不思議に思えた。まあ、イギリス高級紙を自認するTimesのような新聞は、意地でもこの手のアメリカンなしょうもないコメディ映画を誉めるのは、その矜持が許さないのだろう。



スタッフ
監督 ペイトン・リード
製作 リチャード・D・ザナックデビッド・ハイマンダニー・ウォレス
製作総指揮 マーティ・ユーイングダナ・ゴールドバーグ
ブルース・バーマン
原作 ダニー・ウォレス
脚本 ニコラス・ストーラー、ジャレッド・ポール、アンドリュー・モーゲル
撮影 ロバート・イェーマン
美術 アンドリュー・ロウズ

キャスト
ジム・キャリー: カール・アレン
ズーイー・デシャネル: アリソン
ブラッドリー・クーパー: ピーター
リス・ダービー: ノーム
ジョン・マイケル・ヒギンズ: ニック
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榎本 まみ 『督促OL修行日記』 (文藝春秋)

2013-09-19 00:05:26 | 


 信販会社に就職し、督促担当としてコールセンタに配属されたOLのスポ根ならぬサラ(サラリーマン)根物語。気軽に簡単に読めるが、思いのほか中身は濃い。督促業務の実情、新人の仕事の覚え方、メンタル面での自己管理などについて、ノウハウ本のような「べき論」でなく、面白おかしく体験を語る中に、社会人生活をサバイブしていくためのコツが散りばめられている。

 例えば、「実際、お客さまとの間にクレームを起こしたり、相手に言い負けてしまうオペレーターさんは、足元が落ち着いてしないことが多い。・・・逆も真なりで、足を整えることで心も整えることが可能なんじゃないだろうか。いきなり怒鳴られてショックで固まってしまったら、グッと足に力を入れて踏ん張って欲しい。そうすることで早く金縛りを解くことができる。」(p91)なんて、なかなか良いアドバイスだと思う。

 アマゾンのレビューの中には督促業務の実情についての記述などについて、その信ぴょう性を疑うようなコメントが散見されたが、私は信販業界の所属ではないが、コールセンター業務の経験もあるし督促業務も若い時にやったので、仕事勘はあるつもりだが、本書の内容については全く違和感は無かった。

 1時間ほどで完読できるので、是非、若い社会人や大学生に読んで欲しい。
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海部 美知 『ビッグデータの覇者たち』  (講談社現代新書)

2013-09-16 09:54:00 | 


 既にバズワードとしては定着した感がある「ビッグデータ」について、ビジネスの現状や今後の展開・課題をレポートした本です。筆者が米国在住であるので米国デジタル事情の空気を感じることができるのが嬉しいです。平易な文章による新書なので初心者向けの入門書として分かり易いです。

 一方で、既に刊行されている類似の「ビッグデータ本」と比べて、特に新しい情報や視点があまり感じられなかったのは残念です。何冊か類書を当った人やこの話題について調べたことのある人には、新たな刺激や考えさせられるところはあまりないかもしれません。

 私が面白いと思ったのも、「何故かアメリカでは、データ関連の話に野球を例えに出して語ることが多い」とか、「プライバシーに対しての感覚が国によって違う」(例えば、プライバシーにうるさい日本人が、政府にプライバシーを提供する(戸籍、住民票とか)のは寛容。逆に、アメリカ人は個人のプライバシー公開には鷹揚だが、政府の個人情報管理は信用しない)といったことで、いずれもビッグデータそのもののとは関係しない余談の部類の小話でした。

 技術者でないけどもこのトピックについてかじってみたい人に良いと思います。
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ブロムシュテット/ N響/ ブラームス交響曲第一番 ほか

2013-09-14 09:57:54 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 指揮者とオーケストラの間に深い尊敬の念が存在する中で、指揮者はオーケストラの能力の120%を引き出そうと煽り、オーケストラは指揮者に食らいつき、指揮者の指示を超えた領域にまで達しようと我を忘れたように演奏に没入する。聴衆はその緊張感と、緊張感を超えた信頼感が織りなす不思議な「気」を感じとる。コンサートに足を運ぶ最大の楽しみは、CDでは味わえないこの「気」であると思う。

 そして、この日のブロムシュテットとN響の演奏会はホール一杯にこの「気」に満ちていた。特に後半のブラームスの交響曲第1番。2階の最後方の席に陣取った私にも、N響メンバーの集中力と86歳とはとても思えないブロムシュテットの気迫がガンガンに伝わってきた。

 極めて端正で、重すぎず軽すぎもせず、良く言えばバランスがとれ、悪く言えば強いインパクトに欠けるとも言えるようなこの日の演奏は、私は好みだったが人により好き嫌いがあるかもしれない。でも、そんなことは問題ではなかった。その日、そこで、この音楽を耳で、肌で、目で聴いて、感じたということが大切だった。音楽を聴く喜びに満ちた演奏会だったと思ったのは、決して私だけでないことは、途切れのない大拍手からも良く分かった。


《休憩時間の風景》



第1760回 定期公演 Bプログラム
2013年9月12日

サントリーホール

ブラームス/大学祝典序曲 作品80
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲 作品56a
ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

Suntory Hall
No.1760 Subscription (Program B)
Thursday, September 12, 2013 7:00p.m. (doors open at 6:20p.m.)

Suntory Hall

Brahms / “Akademische Festouvertüre” op.80
Brahms / “Variationen über ein Thema von Haydn” op.56a
Brahms / Symphony No.1 c minor op.68

Herbert Blomstedt, conductor
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飯森範親 指揮/ 東京交響楽団/  組曲「展覧会の絵」ほか

2013-09-10 00:09:15 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 6月に調布音楽祭でバッハを聞きに行った際に、調布市の主催で年に何回かプロのオーケストラを招いてクラシック音楽のコンサートが開催されていることを知りました。今回の東響は新国立のピットで何回か聴いてますし、飯森さんの指揮は初体験ですがツイッターでフォローさせて頂いているので、こちらで勝手な親近感も持っていました。プログラムもロシア音楽を並べた私好みの選曲で、しかも価格もお手頃(私のB席は1500円)。ということであれば、行かないわけにはいきません。

 ただこの日は、自分の心身の集中力がイマイチ。前日の日フィルのワーグナーから受けた衝撃からまだ立ち直らず、しかもオリンピック招致国決定待機での寝不足が重なり、眠りに落ちることはなかったけど、コンサートへの投入度が気持ちとは裏腹に最低レベル。やっぱ、私には連戦は無理だなあ~。飯森さん、独奏の山根さん、オケの皆さん、ごめんなさい。

 まだ高校生(!)の山根一樹くんのプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番はちょっと硬かったかな。見た目が細身の体格に先入観を持ってしまったのか、音が全体的に細く、しなやかさももう一歩に聴こえてしまいました。私の体調のせいかもしれませんが、プロコフィエフらしい躍動感を感じ取ることができず、ちょっと残念。次回に期待したいと思います。

 後半の「展覧会の絵」は奇をてらったところのない王道のスマートな演奏でした。金管楽器が各々持ち味を発揮したスケールの大きな演奏でこの曲の魅力が引き出されていました。アンコールもハチャトリアンの曲(???・・・飯森さんから曲名を紹介して頂きましたが良く聞き取れませんでした)で盛り上がりました。

 残念だったのは、聴衆の少なさ。私の2階席はパッと見3割ぐらいしか埋まっていませんでした。おかげで、最奥部のB席から前方移動してお得感がますます高まりましたが、こんな集客ではオケもやる気が出ないのではと心配してしまうぐらいです。「地元で気軽にクラシックの名曲に親しんでいただけるコンサート」(調布市のHPより)という趣旨の企画のようですが、調布の皆さんはこんな素晴らしい機会ですからもっと活用しましょう!残響ほぼ0の市民会館ですが、都心のホールより小さい分良く聞こえますし、楽団員の方々は皆さん真剣勝負で手抜きなしですよ。もったいない・・・


≪グリーンホール内≫


フレッシュ名曲コンサート ロシアの妙なる調べ
公演日   2013年 9月8日(日)
開演    14:00
会場    グリーンホール 大ホール 
出演者   飯森範親(指揮)
      山根一仁(ヴァイオリン)
      東京交響楽団(管弦楽)
【曲目】
♪歌劇『イーゴリ公』より「だったん人の踊り」/ボロディン
♪ヴァイオリン協奏曲第1番二長調/プロコフィエフ
♪組曲「展覧会の絵」/ムソルグスキー(ラヴェル編曲)
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インキネン/ 日フィル/ ワーグナー ワレキューレ第一幕ほか

2013-09-08 07:18:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 私としては2か月の夏休みを置いていよいよ秋のコンサートシーズン開幕。そのオープニングコンサートはインキネンと日本フィルによるワーグナープログラム。鳥肌が立ちっぱなしの2時間となりました。

 特に圧巻は後半のワルキューレ第1幕。エディス・ハーラー、サイモン・オニール、マーティン・スネル の圧倒的な歌唱と迫真の演技が出色でした。ハーラーはサントリーホールが狭く感じるほどの声量とただ大きいだけでない感情細やかな表現が抜群。サイモン・オニールはロンドンでも何度か聴きましたが、甘いというよりは芯のあるテノール。ジ-クムントはまさにはまり役。第1場で彼が歌いはじめると、ホール内の空気ががらっと変わりました。ハーラーとの演技のコンビネーションもはまっていて、コンサート形式ですが舞台の迫力十分です。バスのマーティン・スネルは、私は初めてでしたが、重量感のあるバスは安定していて舞台を土台で支えるような存在感がたっぷり。三者三様の持ち味でこれぞ「本場もん」と聴衆を唸らせるのに十分なパフォーマンスです。

 インキネンと日フィルも頑張っていました。インキネンは若かりし頃のサロネンを思い出させる北欧っぽい金髪と端正な顔立ち。ワーグナーの重厚感、うねり、感情の爆発を日フィルから引き出します。日フィルも前半部の独奏含むチェロ隊のがんばりやホルンの美しい響きが印象的です。良い意味で、歌手陣についていこう、負けまいという思いの集積が「気」となって舞台上に漂っていました。

 終演後は、凄まじい拍手とブラボー。連勝中の横綱に土が着いたような狂騒ぶり。座布団があったらみんな投げていたに違いありません。それが不思議でない、会場が一体となって酔いしれたワーグナーワールドでした。

 前半は、ここでも『トリスタンとイゾルデ』の「愛の死」のエディス・ハーラーのソプラノが素晴らしかったです。力強さと清らかさの双方を持ち合わせた彼女の歌声は、ちょっと日本人歌手には難しいでしょう。聞き惚れるとはこのことで、一音たりとも聞き漏らすまいと前のめりで聴きました。

 唯一残念だったのは、会場が8割程の入りで結構空席もあったこと。こんな素晴らしい機会がもったいない・・・。会場入り口配られたチラシセットの中には、5万、4万する海外オペラハウスの引っ越し公演の案内が入ってましたが、「本場の良さはもっと近くに手の届く範囲にありますよ」と言いたかったです。


日時2013年9月7日(土) 16:00 開演 (15:10~プレトーク)

曲目
ワーグナー:ジークフリート牧歌
 :楽劇『トリスタンとイゾルデ』から前奏曲と愛の死
 :楽劇『ワルキューレ』から第1幕 (演奏会形式)
指揮
ピエタリ・インキネン/ Pietari Inkinen
出演
ソプラノ:エディス・ハーラー/ Edith Haller
テノール:サイモン・オニール/ Simon O'neill
バリトン:マーティン・スネル/ Martin Snell
日本フィルハーモニー交響楽団
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震災復興ボランティアをやってみた

2013-09-07 00:30:15 | 日記 (2012.8~)
 天災ですのでどうしようもないのですが、2年前の3月11日の地震の時日本に居なかったことが、喉に引っかかった魚の小骨のように私の中に残っていました。ロンドンでも募金活動のチャリティに参加するなどできることはやってきたつもりなのですが、日本で直接体験をしていないためか、あの震災に対しては私は日本人としての当事者意識に欠けているではないかと思うことがあります。そこでナイーブですが、現場で何らかのことをすることで、当事者の端くれには加わえるのではないかと思ったのです。ですので、昨年夏に帰国以来、少しでも何か具体的アクションを取りたいなあとぼんやり考えていました。そんなところ、とある企画で宮城県中部の海岸沿いの町での復興ボランティアのツアーの募集があり、良い機会だと思い参加してみました。

 バスで土曜の夜に東京を出発し、日曜の朝から夕方まで作業を行い帰京する0泊2日の強行日程のツアーです。現地ではボランティアセンターのリーダーの指示に従い作業を行います。今回は、震災前は市民緑地公園であった所の再生のための草取りや耕地作業です。海岸線からは500メートル程離れた公園の受付センタは、建物こそ残ってはいるものの、壁には当時2メートルほどの高さに到達した泥波の跡がまだ残ってますし、周囲にあった水飲み場が内部の鉄筋も含めてひしゃげたまま残っていたりして、いまだ地震の爪痕は残っています。除草作業を行っていても、ちょっと土を掘り起こすと瓦礫がごろごろ出土します。こういったものを一つ一つ完全に取り除くのは機械では難しいだろうし、かといって人手をかけても気の遠くなるような作業であることが分かります。


≪作業風景≫

 ただ、この地域を初めて訪れた私には、町の風景そのものは復興を十分に感じるものでした。というよりも、津波に見舞われたこと自体が信じられないほどでした。海岸沿いの松の木を超える高さ(5メートル強)の津波があり、1キロ近く離れた国道まで波が押し寄せたとのことですが、この日の喉かな田園と綺麗な住宅が広がる様は、津波の面影は殆ど写りません。そんな感想を一緒に作業をしていたボランティアのかたに話をしたら、こんなことを話して頂けました。「2年前とは大違いだよ。2年前に来たときは、このあたりは泥と瓦礫で一帯が埋まってたんですよ。(指を指して)あの辺りの瓦礫撤去を私はやったんだけど、今朝、その田んぼに稲穂が垂れているのを見て、ホント胸が熱くなったよ。ボランティアやってよかったと心底思った。」毎年、定期的にボランティアに来られている人ならではの味わい深い話でした。この方の他にも、ボランティアの中には毎年この時期に愛知県から来られ、一週間泊まり込みで作業をして帰られるというような方もいらして、参加にも色んな形があることも知りました。

 一体、こんな1日の自分の作業がどれほど役に立つのか正直甚だ疑問なところがあるし、32℃を超える直射日光の中、慣れない土仕事で都会人の無能さを露わにした形だったのですが、夕方になり、朝に雑草が生い茂り刈った土地が実に綺麗になっているのを見ると、少しは仕事の成果はあったようです。

 なかなか帰国以来行行動が取れなかったのですが、ボランティアってあんまり大層なことを考えず、まずは参加してみるのが大切なようです。自己満足と言ってしまえばおしまいなのですが、仕事でも趣味でも味わえない不思議な満足感が残ります。現地のお役に立てているということを前提にすれば、難しくいろいろ理屈を考えるよりもまずはやってみることが大切なことであることが分かりました。喉の小骨が取れたとは言いませんが、気持ちとして一つ前に出たような気がします。
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