セクハラ疑惑でN響から遠ざかっていたデュトワさんだが、7年ぶりに登場。多くのファンが待望した演奏会で、土曜日の定期演奏会に続いてチケットは完売。
定期公演ではないので、今回割り当てられた席は3階のセンター4列目のやや左側。定演での席のランクは同じだが、慣れないので落ち着かないのとステージが随分遠く見える。
いきなり冷や水を浴びせるようなコメントで恐縮なのだが、私自身は、疑惑報道以降N響がデュトワのポストは維持したまま起用をストップしていたのは事実なので、再起用にあたっては何らかの説明が要るんではないかと思っていたのだが、日本らしいというか、特にそうした説明は無かった。いわゆる大人の対応というのだろう。私は、疑惑発生当時は、氏のN響への貢献には大きく感謝しつつも、その疑惑とされた行為は批判をした記憶があるが、もうあの騒ぎから6年が経過し、勝手ながら「時効」と言って良いのだろうという私なりの折り合いをつけて演奏会に出かけた。当時はツイッター上ではN響に限らず世界のメジャーオーケストラの起用止めについては賛否両論だったが、今回、X上で特に「疑惑」との整理について言及される方を殆ど見かけなかった。メジャーオケではまだ復帰という話は聞いたことないものの、こんな話を今更持ち出す私がナイーブ過ぎて、皆さん大人ということなのだろうか。
まあ、そうしたことは少々頭の片隅にはあったのだが、久しぶりのデュトワとN響コンビである。しかも、プログラムもデュトワ色満載。期待しないわけがない。そして、その期待に見事にこたえ、聴衆を唸らせるパフォーマンスを見せてくれた演奏会で合った。
スタートはラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」。冒頭からその抑えながらも色彩感ある美しい響きが、おー、デュトアと唸らせる。ただ、その繊細なアンサンブルはちょっと3階センターからは味わうのには遠すぎたのと、夢見るような音楽が、着席間もない私の眠気を猛烈に刺激し3曲目あたりで撃沈。幸い、終曲には我に返ったが、ちょっと堪能したとは言い難く、自分が悪いのだが、とっても自己嫌悪。
気を取り直して、2曲目に。ニコライ・ルガンスキー独奏によるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。これは眠気から覚醒した後でもあり、集中力マックスで聴けたが、独奏・オケともに素晴らしい演奏だった。ルガンスキーのピアノは奇を衒うことのない演奏で、端正さと優美さを兼ね備えた絶妙の調和を感じた。安定感も抜群で、素直に楽曲に没頭できる。N響の演奏もピアノ独奏の支え役に徹することなく、ダイナミックかつロマンティックな合奏を聞かせてくれた。ピアノ独奏とオケの素晴らしいコラボでラフマニノフの世界を満喫。
そして、後半の「春の祭典」。デュトワの得意中の得意のレパートリーであり、デュトア、N響の力を見せつけてくれた演奏だった。リズム感、音の強弱、合奏、あらゆる面で唸らせられるハルサイだ。ただ、演奏の素晴らしさは堪能しつつも、個人的には、あまりにも整って、スマートすぎる印象があって、この曲の土臭さのようなものがあまり感じられなかった気がしたのは残念だった。会場や席の違いもあるかもしれないが、今年2月に聴いたチョン・ミョンフンと東フィル(オペラシティ、1階のA席だった)の方が衝撃を受けたのが正直なところ。
それにしても、デュトワは今年で88歳というが、ブロム翁の97歳に負けず劣らずの驚きの元気、溌溂さである。姿勢は良いし、堂々と雄然とした指揮姿はオーラ出まくりで、3階席迄まで感じられる。とても88歳には見えない。N響が必死に食らいつく様子も、ついこないだまでブロム翁との熱とはまた違うピリピリさが伝わった。定演とは客層の違いもこの日の特徴であったが、終演後は変わらない大拍手に包まれた。
N響でブロム翁、デュトワと続けざまに素晴らしい演奏会を堪能できるこの幸運の余韻を噛みしめて、帰路についた。
2024年10月30日(水) 19:00開演 (18:00開場)
指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:ニコライ・ルガンスキー
ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 ハ短調作品18
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
NHK Music Festival 2024
Wednesday, October 30, 2024 7:00p.m. [Doors Open 6:00p.m.]
NHK Hall
Program
Ravel / Ma mère l’Oye, suite (Mother Goose)
Rakhmaninov / Piano Concerto No. 2 C Minor Op. 18
Stravinsky / The Rite of Spring
Conductor:Charles Dutoit
Piano: Nikolai Lugansky