その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

小川 和久 『フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由』(文藝春秋、2020)

2020-08-29 07:30:00 | 

 20年以上前に著者の小川和久氏の講演を聞いたことがある。日本の安全保障がテーマだったが、シャープな語り口と徹底した現実主義に立脚した考えがとっても印象的で、自分にとって他人事感があった安全保障の問題が非常に身近なものとして捉えられるようになった。

 本書は、その筆者がライフワークとも言える沖縄の米軍普天間基地の移転問題について、筆者の関わりや考えを時系列に振り返った記録である。時に民間アナリストとして、時に公式な政府のアドバイザーとして、本件に長く携わってきた筆者ならではの生の裏事情を知ることができ、貴重な記録であるとともに沖縄基地問題の複雑さ、難しさが良く分かる。

 政治、外交、軍事、社会等様々な要素が絡み合う基地問題に関して、日本の政権、政治家、官僚たちがどう考え、動いてきたかを知ることができるのが、何よりの本書の面白さだ。新聞紙面を読んでいるだけでは、夫々のステークホルダーたちが何を目指して、どう行動しているかは点としての記事としては読めても、連続した線としてはなかなか読み取れない。小川氏のレンズを通した見方であるものの、複雑系の本課題の構造や時系列での推移が分かるのが嬉しい。

 また、(筆者の本意ではないかもしれないが、)筆者の関係者の人物評も舌鋒鋭く、テレビ3面記事的な面白さがある。例えば、現役外交官を辞めて外交コンサルタントとして独立した岡本行男氏についてここまでボロクソに書かれた読み物は私には初めてだった。本人は今年他界されて、反論を聞くことができず残念だ。岡本氏以外にも、自民党の実力者野中氏、鳩山首相、作家の佐藤優氏など、著者との個人的交流も含んだコメントはリアリティ満載だ。

 致し方ないことであるが、筆者の個人の記録であるため、あくまでも一関係者の視座からの見方であり、フテンマ問題の全体像にはたどり着けないところはある。それぞれのステークホルダーから本件がどう見えていたのかが興味深い。きっと映画「羅生門」のような世界が展開していたに違いない。

 ただそれでも、記録の重要さに改めて深く気づかされる。今回、著者がこのような記録を遺してくれたのは、日米安全保障史においても貴重な史料になりうると思う。筆者のプロ意識に深く敬意を表したい。

 今、ここにある現実の政治課題であるため、なかなかまだ言えないこと、書けないことがあるだろう。ただ、中国等の軍事圧力が高まっている現在、安全保障問題は避けて通れない政治問題であり、最終的には経済につながる問題である。今につながった現代史の面白さが満喫できる1冊だ。

【目次】
はじめに なぜ普天間返還は進まないのか?
序章 チャンスは4回あった
第1章 迷走への序曲 自民党本部1996
第2章 小渕官邸1998~2000
第3章  小泉・安倍・福田・麻生官邸2001~2009
第4章  鳩山官邸2009~2010「トラスト・ミー」の陰で
第5章  沖縄クエスチョン1999~2011
第6章  鳩山だけが普天間を迷走させたのか? 2010~2019
あとがき  信頼を回復する道

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夏の東京史跡巡り(3) @滝山城址

2020-08-26 07:00:00 | 日記 (2012.8~)

八王子城址散策が期待以上に楽しめたので、1日おいて、同じ八王子市にある滝山城址なるところに行ってきました。滝山城は北条氏照(小田原北条氏四代氏政の弟)が居住し、1569年には武田信玄が攻めたともされるお城です。「続日本100名城」にも選ばれています。

 

八王子城が山の上に建つ山城だったのに対して、滝山城は北に多摩川を見下ろす丘陵に建ちます。場所は中央高速道の八王子インターから滝山街道なる街道に出てキロほど行ったところ。無料の公園駐車場に車を止めて、敷地内に入ります。先が真っ暗な入口の竹林には一瞬ひるみますが、中はとっても歩きやすい散策コースになっています。

 


〈入口の竹林。写真で見るより、もっと暗くて怖い〉

 

コースがよく整備されて、遺構説明板も分かりやすく適切な場所に設置され、解説文を読みながら当時の様子を想像し散策するのが楽しいです。小宮曲輪、三の丸、馬出等を通って、この城の「集中防御ライン」である二の丸へ。更に奥に中ノ丸、本丸と歩きました。


〈確か写真上部が三の丸。ここに上ってきた兵士には上から矢の雨が降ってきたに違いない〉

 


〈二の丸を囲む空堀〉

 

本丸からは多摩川、そしてその奥に当時は武蔵野国の平原が広がっていたであろう西多摩、北多摩の風景が見渡せます。こうした風景を当時の戦国武士たちは何をどう思い眺めていたのでしょうか?

 

 
〈本丸跡に建つ石碑〉

 


〈中の丸から多摩川を見下ろす〉

 

 

どこかの資料に、滝山城は東西に長く守るには不向きとして、北条氏は八王子城に移ったとありましたが、歩いているとよく分かります。侵入口がいくつも取れそうで、備えるためには兵力を分散せざる得ず、守る方はさぞ大変だったでしょう。

 

横田基地との行き来でしょうが?近い上空を飛行機が何度が通り過ぎます。飛行機の音以外に聞こえるのはひたすら蝉の声。すべての散策コースをくまなく回れば優に2時間以上かかると思いますが、私は中心部分と民衆の避難場所と推定されている「山の神曲輪」まで足を延ばすにとどめたので、2時間弱程度の散策でした。

 


〈奥に来ると散策路はこんな感じ〉

 


〈山の神曲輪からの多摩川〉

 

木の陰の中とは言え、汗が浮き出す暑さ。コロナ下のお盆ならではの、東京史跡散策を楽しみました。春には山桜が咲く名所でもあるようです。史跡好きにも、東京近郊の散策路としても良い場所でお勧めできます。

 

2020年8月14日 

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夏の東京史跡巡り(2) @武蔵陵墓地

2020-08-23 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

八王子城址を訪れる前に、近くにある(車で10分ほどの距離)武蔵野御陵に立ち寄った。大正天皇ご夫妻、昭和天皇ご夫妻が、眠られる(祀られている)御陵である。 子供の時に父と来たことがあるが、その時はまだ昭和天皇はお元気だったので、多摩御陵と言って大正天皇夫妻の御陵であったことをおぼろげながら覚えている。

お盆時だからと言ってお参りに来る人がいるのかどうかは分からないが、暑さもあってか、訪れている人は私のほかには、中年男性一人をお見かけした程度である。 入り口からの鳥居をくぐり、杉林の中に砂利を引き詰めた道を歩く。木の陰はあるが、既にかなりの温度に暖まった空気は避けられない。油蝉の鳴き声に囲まれながら、汗を拭いながら5分程度歩く。

大正天皇の墳墓の手前に昭和天皇の墳墓が新しく造られていた。 見上げるように作られた円墳の墳墓を拝む。驚くべきことだが、私には32年前に亡くなった昭和天皇のお墓は、1500年程前に造設された古墳と変わらないように見える(これでもサイズは小型化されてると言えるのかな?)。古代と現代の連続性、「神」としての日本の天皇の位置づけを目の当たりにして、ただただ驚く。 一方で、終戦の日を数日後に控え、昭和という日本史にとってこれ以上の激動期はなかったのではないかと思う時代の「主人公」として生きた昭和天皇の心身のストレスや責任にも想いが及ぶ。

〈昭和天皇の陵墓〉

〈鳥居をくぐって近づくと〉

政治的に取られるのは不本意だが、一度は訪れる価値がある。人によって感じ方は夫々だろう。私にはただただ不思議な気持ちにさせられる場所であった。


〈こちらは大正天皇の陵墓〉

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夏の東京史跡巡り(その1) @八王子城址

2020-08-21 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

今年の夏休み旅行は涙のキャンセルで、仕方なく都内をぶらつくことに。初日は、一度行ってみたかった東京の郊外八王子市にある八王子城址を訪れました。

戦国時代の関東の雄、後北条氏の北条氏輝(氏政の三男)が築城したと言われている深沢山(城山)に築かれた山城です。残念ながら、秀吉の小田原攻めの一環で、前田利家、上杉景勝に攻められ、城兵の奮戦むなしく落城したとのこと。日本100名城にも選ばれています。城そのものは残っていませんが、現在整備が進み、遺構等が発掘され、当時を偲ぶことができます。

ベースとなる案内所に隣接した駐車場に車を停めて、散策開始。山のふもとにある領主の居住エリアと、戦闘の拠点となった要害エリアに分かれています。まずは居住エリアで当時の石垣、復刻された館門、ご主殿跡らを見学。


〈当時の石垣が再現されています>


〈御主殿の入口にある冠木門〉


〈御主殿跡〉

一通り見た後は、要害エリアに移動します。要害エリアはまさに山城に相応しく、本丸に向かっては山登りそのものです。深沢山は標高400メートルちょっとなのですが、久しぶりにちょっとした登山の感覚。これを攻めあがるのは大変だろうなあ。木に覆われていますから、陽ざしを直接浴びることは無いものの、地上35℃の中、高台とは言いつつも、もわっとしたねっとりする空気は避けがたく、山の爽やかな空気には程遠いものでした。


〈本丸への入口〉


〈完全な登山道。ここを攻め上がる豊臣側も大変だ〉

途中には八王子神社があります。殆ど朽ち果てていますが、「現社殿は江戸末期の造営である。またこの社が八王子の市名の起源ともいわれる。」(東京都神社名鑑)だそうです。社殿の向かいにはこれまた朽ち果てた神楽殿が残っています。木の建造物は放っておくとこうなってしまうのでしょうね。まだ明るいから良いものの、蝉の鳴き声しか聞こえない人気のない山の神社の境内は、ちょっと不気味でもあります。


〈八王子神社社殿〉


〈神楽殿。ここでどんな踊りが舞われたのだろうか?〉

暑さの中、フーフー言いながらさらに登ります。兵士たちはこの中、鎧を着て戦ったのかと思うと、それはお気の毒としか言いようがない。ただ、本丸近くになると、広大な関東平野を見下ろす素晴らしい景観が望めます。確かに関東の縁で、南と北を抑える地理的に重要な拠点にあることが良く分かります。なんとか40分ちょっとかけて、本丸跡のある頂上までたどり着きました。


〈方向的には横浜方面〉

山頂部はさほど広くないので、きっと本丸もさほどの収容能力は無かったと思われます。ただ、それでも北条VS前田・上杉の戦いで1000名を超える兵士が命を落としたということですから、その激戦ぶりは容易に想像がつきます。


〈本丸跡〉

帰りは下り道を一気に降りました。すれ違った人は2組のみ。暑さを考えればそんなものと思いますが、この八王子城址、ちょっとした運動も兼ねた歴史と想像の旅としてはもってこいの史跡です。涼しくなったら、史跡好きの方には強くお勧めします。


〈北条氏輝と北条氏家臣の墓〉

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吉野次郎 『サイバーアンダーグランド ネットの闇に巣喰う人々』(2020、日経BP)

2020-08-17 07:30:00 | 

 ハッカーによる不正アクセス、アマゾンらへのフェイクレビュー、組織的な振込詐欺、ITアダルト産業、北朝鮮・ロシア・米国ら国家間でのサイバー謀略等、個人から国家に至る様々なレベルで行われるサイバー犯罪やその攻防を関係者からの取材によって明らかにする一冊。

 

 トピックが興味深く誘われたが、内容は期待レベルに達せず肩透かし感が満載だった。まず新しい情報が少ない。Web記事やマスコミで報道されていたような内容が多く、「そうだったのか!」と驚くような記述は殆ど見当たらなかった。

 

 また、内容的な深みも感じられないのも残念。週刊誌に掲載される事件レポートを集めたような編集で、構造的な分析があるわけでない。当事者への直撃インタービューが本書の売りのようだが、会話も想定内の内容でサプライズは無い。書籍ならではの深い情報と分析により、テーマについて理解が深まるという状況に遠かったのが歯がゆかった。

 

 テーマの性格上、内容的に書けるところと書けないところがある故かもしれないが、一読者としては残念な一冊となったと言わざる得ない。

 

<目次>
Prologue

第一部   欲望に突き動かされし人々 
chapter 1   未成年ハッカーと捜査官/攻防の全記録 
chapter 2   アマゾンの五つ星は嘘まみれ/中国の黒幕が手口大公開 
chapter 3   16歳が老人を食い物に/解明、詐欺のエコシステム 
chapter 4   ネットで女性とお色気話/200億円産業に育てた男の野望

 第二部   大義を背負いし人々 
chapter 5   金正恩のサイバー強盗団/脱北者が決死の爆弾証言 
chapter 6   恐喝、見殺し、爆殺……/英国人スパイの非情な戦争 
chapter 7   信じたいからだまされる/世論操るクレムリンの謀略 
chapter 8   超監視国家、IT乱用で出現/ウイグルから響く悲鳴

 証言集   警官とスパイからの警告 
 警官の証言   「本物のワルはあなたの隣にいる」 
スパイの証言   「この世界は汚れている」

Epilogue   生存の選択

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真夏のプチ東京観光 @増上寺、芝公園、東京タワー

2020-08-14 07:30:00 | 旅行 日本

夏休み前の最後の仕事としてお客様訪問を浜松町近くで終え、昼下がりに放免。せっかくなので、時間休を頂き業務終了とし、摂氏30度を優に超える暑さの中、あまりうろつかないこのエリアのプチ東京観光を試みました。

まずは、徳川家と所縁が深い増上寺へ。入口正面の重要文化財指定されている三解脱門(三門)をくぐって、中へ。正面にそびえるように立つ大殿は威厳ありますが、建物自身はコンクリっぽくって、歴史的な重みを感じることは無いかな。大殿の中では法要が行われていたので、本尊の木造阿弥陀如来坐像(都指定文化財)は遠目で拝むに留めました。宝物殿も行きたかったのですが、残念ながら火曜日は休館で涙・・・。


〈増上寺 三解脱門(三門)〉


〈増上寺 大殿〉


〈本堂は法要中 中央がきっと本尊の木造阿弥陀如来坐像〉

増上寺周辺にも色んな史跡・見どころがあります。隣には旧台徳院霊廟惣門(重要文化財)が壮麗に建っています。台徳院とは二代将軍徳川秀忠のことですが、昔はその霊廟の建物が増上寺にあったそうです(戦災でほとんどが焼失)。左右で門を守る阿形・吽形の金剛力士がなんとも可愛い。


〈旧台徳院霊廟惣門(重要文化財)〉


〈阿形〉


〈吽形〉

更に隣接する芝公園内には、芝東照宮、前方後円墳の跡を遺す芝丸山古墳、伊能忠敬の測地遺功表、戦争の惨禍と平和の尊さを伝えることを目的に港区が設置した「平和の灯」など見どころがいくつもあります。芝丸山古墳の辺りはちょっとした林になっていて、セミの鳴き声がうるさいほどに響いていました。暑さが倍増・・・


「平和の灯」と東京タワー。8月中旬のこの時期にはひとしお重みが増す感じがします。


〈芝東照宮〉


〈芝丸山古墳:Wikiによると「前方部を南南西に向ける前方後円墳である。築造は5世紀中頃過ぎ(4世紀後半との説もある)都内では最大級の規模である」とのことです〉


〈丸山古墳の頂上に伊能忠敬の記念碑。

そして、フィナーレは東京タワー!最後に上ったのは大学生の時のはずだからあれから数十年。当時は周囲に肩を並べるような建物はありませんでしたが、今やメインデッキからでは更に高そうなビルがたくさん。ただ、それでも、好天の中、東京を見下ろす気持ちよさは格別です。流石に、観光客もまばらで勝手気ままに展望を満喫しました。


〈さっき訪れた増上寺を見下ろし、東京湾が見えます〉


〈東京ベイブリッジと先には房総半島が〉


〈薄く富士山も見えました〉

トータルの所要時間2時間弱。程よい東京観光が楽しめます。

2020年8月11日

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4ヵ月半ぶりの美術展 ピーター・ドイグ展 @東京国立近代美術館

2020-08-10 07:30:00 | 美術展(2012.8~)

3月に府中美術館を訪れて4カ月半ぶりに美術展に足を運びました。長い今年の梅雨が明けて、水草で水面が一杯に覆われた緑のお濠、夏の雲、夏の青空の組み合わせが、本格的な夏の訪れを感じさせてくれます。

東京の美術館は、どこも感染防止に注意しながら開館しているようですが、事前予約のみのところが多く、当日飛び込み可能で、ポスターの絵に魅かれた東京国立近代美術館のピーター・ドイグ展に足をはこびました。

ピーター・ドイグは現代の画家で、スコットランド生まれですが、トリニダード・トバゴとカナダで育ち、今もトリニダード・トバゴを活動の拠点としているとのことです。ホームページでは「画家の中の画家」と評されていることや、「現代アートのフロントランナー」として紹介されています。恥ずかしながら私には名前からして全く初めてです。

会場は人も少なくとってもゆっくりと落ちていて鑑賞できました。時期により作風は大きく違っています。中でも初期の風景画は、広い展示空間に大型の絵が並び、魅惑的で不思議な幻想的世界に連れられている気にさせられ、とても好みでした。

また、第3章のコーナーでは彼が仲間と企画した映画の上映会のポスターが展示されており、これらも個性に富み楽しめます。日本映画では「東京物語」「羅生門」「座と一」などがありました。

美術館での美術鑑賞は、普段とは違う脳が刺激されるのがよくわかります。リラックスして、思い思いに絵を眺める。久しく忘れていたこの感覚が蘇り、幸せ気分一杯で解消を後にしました。

本展は会期が10月11迄延長されています。是非、足を運ばれてはいかがでしょうか。写真撮影も可です。

 

Chapter1森の奥へ 1986年〜2002
Chapter2海辺で 2002年〜
Chapter3スタジオフィルムクラブ 
─コミュニティとしてのスタジオフィルムクラブ 2003年〜

 

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上野 敏彦『新版 闘う純米酒』 (平凡社ライブラリー、2012)

2020-08-07 07:30:00 | 

埼玉県蓮田市にある神亀酒造は、昔ながらの日本酒の製造過程を大切にし、「純米酒」のみを生産する。本書はその蔵元、小川原良征の日本酒に向き合う姿勢、考え、人生を追ったノン・フィクション。

日本酒は好きで、旅に出ると極力その地の酒蔵を見学する。だけど、蔵元やブランドにはこだわってないので、神亀酒造なるところは初耳だったし、それが社会人駆け出しのころの私の営業エリア内の蓮田にあるなんてびっくり仰天だった。

本書からは小川良の日本酒への愛、情熱、こだわり、誇りが痛いほど伝わってくる。また小川良の周りにいる人たちも「類は友を呼ぶ」に相応しい特徴ある人たちだ。日本酒の魅力がいろんな角度で語られ、読んでいるだけで呑みたくなってくる。

日本酒が気候、歴史、生活、農業らと密接に結びついた日本文化そのものであることも良く分かる。大切にすべき無形資産であることを再認識した。

(目次)

第1章 白ワインに負けぬ酒
第2章 女の細腕で守った蔵
第3章 トトロの森で醸す
第4章 農への心意気
第5章 万華鏡の酒
第6章 酒蔵再生

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布施 祐仁, 三浦 英之『日報隠蔽 自衛隊が最も「戦場」に近づいた日』 (集英社文庫, 2020)

2020-08-01 07:30:00 | 

がっかりすることばかりで完全に劣化・恐竜化・衰退しているとしか思えない日本のマスメディアの現状の中で、ジャーナリズムへの希望と価値を感じる一冊である。

南スーダンへの自衛隊の平和維持軍(PKO)の活動において、2017年7月の派遣地での戦闘が報告された日報を政府が隠蔽したスキャンダルを軸に、日本と現地で活動した二人のジャーナリストの取材報告である。情報公開制度を使って政府の嘘を鋭く追及した布施氏とアフリカ駐在で南スーダンに何度も足を運んで現地の状況をリポートした三浦氏の活動は、結果として稲田防衛大臣の辞任、自衛隊の撤収に繋がった。

在野のジャーナリストである布施氏の、情報公開制度を活用した地道な調査、追及は敬意を表したいし、高い危険の中で南スーダンの現状を取材してきた三浦氏の取材の迫力はすさまじい。二人の記述からは、現地・現物に基づいた圧倒的な事実の強さを感じる。

二人のレポートを章ごとに夫々交互に記載する形式は、日本における日報を巡るスキャンダルと現地南スーダンの状況が立体的に浮かび上がり効果的だ。前半・中盤読んでいて、日報スキャンダルの事件性に焦点が当たりすぎていて、PKO、自衛隊、日本の安全保障と憲法の問題といった事件の背景・構造への記述が弱いのではないかと感じるところはあったが、エピローグや最後の二人の対談の中で触れられていたので得心したのと同時に、書籍としてのメッセージはこうしたアプローチが明確に伝わるのだろう。

また、本書を読んで改めて感じるのは公文書管理・公開の重要さだ。現安倍政権では、現在の新型コロナ感染症についての情報、先般の「桜を見る会」の参加者名簿、森本・加計学園問題等で、公文書管理やその情報公開について、権力に寄った信じられない対応が続いている。戦前のような、政府の情報操作に踊らされ、最後には馬鹿を見る国民にはなりたくない。

強く一読を勧めたい一冊である。

 

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