マンチェスター国際フェスティバル(MIF)が昨年委嘱した現代オペラDR DEEが、イングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)によってロンドンで初演されるということで見に行きました。デーモン・アルバーン(Damon Albarn)という1968年生まれのイギリス人シンガーソングライター、プロデューサーが作曲した作品で、ジョン・ディーという、16世紀の錬金術師、占星術師、数学者で、エリザベス女王にも交流のあったイギリス人の半生を描いています。
非常に興味深いオペラでした。形式、音楽等において色んなフュージョン(融合)が試みてあり、はたしてこれがオペラと言えるのかどうか疑問なくらいなのですが、高度に統合されたパフォーマンスでした。舞台には、主にオペラ歌手、舞台俳優が立ち、歌やセリフはマイクを通したもので地声ではありません。音楽はオーケストラピットに入ったオーケストラに加えて、舞台上にもギター、リード、リコーダー、ドラム、リュート(コラ)、キーボードなどのバンドが奏でます。音楽も、ポップなフォークソングのような音楽、バロックを感じるクラシック音楽などが融合したものです。作曲のデーモン・アルバーン自身もギターを弾き、歌を歌い、少しですが演技もします。(この人は随分有名な人らしく、隣に座った妙齢の女性は、完全に彼の歌だけを聴きに来ていた感じでした)。ダンスも入ります。生きたカラスが飛び交うシーンまで出てきます。
この形式、音楽上の融合に加えて、Rufus Norris監督による視覚的に美しく、いたるところに工夫が施された舞台演出に魅せられました。特に、感心したのはカーテン(スクリーン)を活用した演出です。演じている人の前に、畳2,3畳分くらいの大きさの屏風のようなカーテン(スクリーン)を舞台の端から移動させ、そのカーテンには影絵のようにカーテン後ろの出演者の輪郭が投影されるのですが、カーテンが横移動される間にカーテンに投影された像は砂時計の砂が崩れるように崩れて行きます。そしてその残像が目に残るうちに、移動したカーテンの後ろからは、新しくなった場面が現れるという仕掛けで、時間、場面の連続的変化を表現するのです。また、映像を駆使している点も印象的です。変な言い方ですが、映画「マトリックス」を生で見ているような気分になります。幻想的で、美しく、洗練された演出は、演出が売りのENOのプロダクションのなかでも、屈指のものでした。
歌はデーモン・アルバーンの弾き語りが耳に残ります。ハスキーでかすれたような歌声は、この舞台の雰囲気にこれ以上はないというぐらいぴったりで、独特の音楽空間を作っていました。
こんなオペラがあるのかと信じられない思いで見ながら、確かにこんな方向ならまだオペラ(?)と言う舞台芸術は未来に向かって進化しているのかもしれないと思いました。いわゆるオペラでもないし、ミュージカルでもないし、芝居でも映画でもないこの作品には、感動の仕方も今まで経験のない新鮮なものでした。
(ガーディアンのWebから)
(2012年6月29日)
Damon Albarn's Dr Dee
Albarn
New Production
Mon 25 Jun 12 - Sat 07 Jul 12
Credits
Commissioned by Manchester International Festival,
London 2012 Festival and ENO
A co-production with Manchester International Festival and London 2012 Festival
Damon Albarn stars in every performance
Conductor Stephen Higgins
Director Rufus Norris
Set Designer Paul Atkinson
Costume Designer Katrina Lindsay
Associate Costume Designer Jonathan Lipman
Lighting Designer Paule Constable
Movement Directors Scott Graham and Steven Hoggett for Frantic Assembly
Video Designer Lysander Ashton for 59 Productions
Sound Designer Paul Arditti
Orchestration Consultant André de Ridder
Cast includes
Old Katherine Anna Dennis
Kelley & Bishop Christopher Robson
Elizabeth & Spirit Melanie Pappenheim
Walsingham Steven Page
John Dee Paul Hilton
Ensemble & Young Katherine Victoria Couper
Ensemble & Jane Clemmie Sveaas
Ensemble Nuno Silva
Ensemble Chris Akrill
Ensemble & Young Dee Rebecca Sutherland
Ensemble Benny Maslov
Ensemble Hendrick January
Ensemble Naomi Said
Ensemble Vicki Manderson
Ensemble Matthew Trevannion
Ensemble James Hayward