14:00に開演し、終演は19:40過ぎ。35分の休憩が2度入るとはいえ、まさに日曜日の午後半日かけての壮絶な宗教体験だった。
メシアンは一度だけ「トゥーランガリラ交響曲」を聴いたことがあるけど、正直私の理解の範疇を超えていた。そのメシアン唯一の歌劇で、全曲演奏は日本初演。しかも指揮はこの曲を世界で一番数多く振っているカンブルランということで、話題性に魅かれてやって来た。正直長かったけど、感動の観点からも、希少性と言う意味でも、来てよかったと思わせてくれた演奏会だった。
演奏、独唱、合唱どれも良かったけど、印象に残ったのはまずは独唱。聖フランチェスコ役のヴァンサン・ル・テクシエは終始出ずっぱりだが、落ち着きがありながらも起伏に富んでドラマティックなバリトンは全幕を通じて、揺るぎない軸となって、劇そのものが非常に安定感のあるものに感じられた。また、天使役のエメーケ・バラートが実に透明感に溢れ、かつ静謐なソプラノで、彼女の声がホールに反響するとまるで天上から天使の声が響いてくるかのよう。また、皮膚病患者のペーター・ブロンダーの美しいテノールも良く響く。
演奏も、一体何人の奏者が出ているのか数えるのも難しいほどステージに一杯のフルオーケストラが、カンブルランの統率の元、一糸乱れね素晴らしいものだった。特に、パーカッション部隊が大活躍。緊張感一杯に舞台を盛り上げてくれた。
正直、前半は曲の雰囲気に慣れるのに精一杯なのと、どうも冗長に聴こえるところもあり辛いところがあった。が、2幕以降、どんどん緊迫感が増し、第2幕の鳥の合唱は様々な音の組み合わせが実に雄弁だったし、第3幕はクリスチャンではない自分が、これが法悦と言うものではなかろうかと思うほどの、圧倒的な演奏・合唱・独唱の迫力に覆われ、言葉を失う。
音楽以外で思ったのは、やはりこのキリスト教という宗教の持つ力はとてつもないということ。ユダヤ教にしても、イスラム教にしても、これが宗教というものなのかもしれないが、神の万能さ、イエスの偉大さ、人間の罪深さという基本思想をこういう音楽にして植え付ける。もちろんメシアンが凄いのだろうけど、そこにネタを与えてるのはキリスト教。なんちゃって仏教徒の私なんぞには、ちょっと世界が違いすぎる。
こんな曲を、この高いレベルで、日本で聴けるというのも驚きだ。しかもホールは満員である(少なくとも開演時は)。終演後の拍手ももちろん大きなもので、カンブルランさんには一般参賀付き。カンブルランさんも満足そうであった。何人かの人がツイートしていたけど、日本のクラシック史上に残る演奏会であったことは間違いない。
《カンブルランさんはお辞儀中》
《一般参賀》
読売日本交響楽団 第606回名曲シリーズ
2017 11.26〈日〉 14:00 サントリーホール
指揮=シルヴァン・カンブルラン
天使=エメーケ・バラート(ソプラノ)
聖フランチェスコ=ヴァンサン・ル・テクシエ(バリトン)
重い皮膚病を患う人=ペーター・ブロンダー(テノール)
兄弟レオーネ=フィリップ・アディス(バリトン)
兄弟マッセオ=エド・ライオン(テノール)
兄弟エリア=ジャン=ノエル・ブリアン(テノール)
兄弟ベルナルド=妻屋秀和(バス)
兄弟シルヴェストロ=ジョン・ハオ(バス)
兄弟ルフィーノ=畠山茂(バス)
合唱=新国立劇場合唱団
びわ湖ホール声楽アンサンブル
(合唱指揮=冨平恭平)
メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」(演奏会形式/全曲日本初演)
Popular Series No. 606
Sunday, 26 November 2017, 14:00 Suntory Hall
Conductor=Sylvain Cambreling
L' Ange=Emőke Baráth
Saint François=Vincent le Texier
Le lépreux=Peter Bronder
Frère Léon=Philippe Sly
Frère Massée=Ed Lyon
Frère Élie=Jean-Noël Briend
Frère Bernard=Hidekazu Tsumaya
Frère Sylvestre=Zhong Hao
Frère Rufin=Shigeru Hatakeyama
Chorus=New National Theatre Chorus & Biwako Hall Vocal Ensemble
Chorusmaster=Kyohei Tomihira
Messiaen: Saint François d'Assise (concert style, Japan premiere)