その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

N響11月C定期/指揮 ヘルベルト・ブロムシュテット/モーツァルト〈ミサ曲〉ほか

2019-11-24 08:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

今月は土曜日公演を金曜日に振り替え。金曜夜の演奏会は一週間の疲れが一挙に噴き出すので、鬼門なのだがしょうがない。強い冷たい雨が降る中、NHKホールへ。

前半はモーツァルトの交響曲第36番リンツ。室内楽的な優しく繊細な音楽がホールに響く。そして、第2楽章からは想定通り、完全に意識喪失。ごめんなさい。 

後半はモーツァルトのミサ曲。〈レクイエム〉は何度か生で聴いたことがあるが、ミサ曲は初めて。終始、独唱・合唱・オケが絶妙に組み合わさった崇高な音楽空間だった。独唱は、昨年N響に初登場したアンナ・ルチア・リヒターが映える紫色のドレスでうれしい再登場。透明感と色彩が両立した歌唱が印象的だった。彼女が歌うと、宗教曲がオペラのような色合いと表情を持つ。60名ほどで構成された新国立劇場合唱団のコーラスも、天上の世界に導く至高の美しさ。オケは決して前に出ることはないが、かといって伴奏に徹しているわけではない。引き締まった、美しいアンサンブルを聞かせてくれた。NHKホールに居ながら、この曲が初演されたザルツブルグのセントペーター教会(2012年8月に訪れた)に居るような感覚となった。

今回にて今シーズンの私のブロム翁祭りはおしまい。翁が振るN響は、パーヴォのN響とも違った音あいになるので面白いし、毎回新しい発見と感動をもたらしてくれる。あんな風に年齢を重ねたいものだ。来年の来日時は93歳だと思うが、100歳までは毎シーズン来て欲しいなあ。元気にお願いします。

 

第1926回 NHK交響楽団定期演奏会 Cプログラム
NHKホール
11/22 金 7:00pm

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ソプラノ I:クリスティーナ・ランツハマー
ソプラノ II:アンナ・ルチア・リヒター
テノール:ティルマン・リヒディ
バリトン:甲斐栄次郎
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)
コンサートマスター:伊藤亮太郎 

モーツァルト 交響曲 第36番 ハ長調 K. 425「リンツ」[26 ′]
モーツァルト ミサ曲 ハ短調 K. 427[55′]

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N響11月A定期 ブロムシュテット指揮、ブラームス交響曲第3番ほか

2019-11-19 08:03:41 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

毎年、今年が最後になるんじゃないかと思いながら足を運ぶブロムシュテットさんとN響の演奏会。そして、毎年その若々しい指揮ぶりに驚嘆し、新鮮な感動がある。それは92歳となった今年も同様だった。

後半のブラームス交響曲第3番。何度も生で聴いているが、今までにない静かに、そして大きく胸動かされる演奏だだった。多くの人が書くように、ブロム翁の指揮は端正で、全く気どりや華美さはない。ただただ音楽をありのままに聴かせてくれる。純米大吟醸酒そのものである。削りに削った芯のみが残った音楽だ。かといって、たださっぱりしているというのとは違う。その音楽は滋味にあふれ、味わい深い。もう第1楽章からその奥深さにやられっぱなしだった。

N響のメンバーも翁が指揮台に上がるときは、いつもとは違う空気、感情が舞台の上に漂っているような気がする。集中度というような言葉だけでは表せない気持ちを感じる。爆演と呼ばれるような類の演奏ではない。でも何か憑かれたようとでもいうのだろうか。

オーボエ、クラリネット、ホルン等のソロ陣の妙技には耳がそばだった。そして、弦とのアンサンブルは室内楽のような響きと香りが漂う。弦と管のバランスも心地よい。なんと、美しい音楽なのだろう。

第3楽章ぐらいから、指揮するブロム翁の後姿を見、そこから紡がれる音楽を聴いていて、不意に涙がこぼれる。何に感動しているのかも良く分からない。でも、最上の時間・空間の中に自分が身を置いているのは確かだった。ブロム翁とN響の一つの完成形がここにあるのだろうと思った。

第4楽章が終わる。翁の腕はなかなか下がらない。完売のNHKホールの聴衆からは物音ひとつしない緊張感に満ちた静寂が続く。30秒ほどたって、腕が下りた。会場の方々からブラボーと一杯の拍手。それも、爆演後の熱狂的拍手とはちょっと違う。大きいが静かな拍手。この演奏に相応しい拍手だと思った。

 

2019年11月17日(日)NHKホール

指揮│ヘルベルト・ブロムシュテット
ピアノ│マルティン・ステュルフェルト
コンサートマスター│篠崎史紀 

ステンハンマル ピアノ協奏曲 第2番 ニ短調 作品23[30′]
ブラームス 交響曲 第3番 ヘ長調 作品90[40′]

 

 

 

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「建国300年 ヨーロッパの宝石箱 リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」 @Bunkamura ザ・ミュージアム

2019-11-17 08:00:00 | 美術展(2012.8~)

 スイスとオーストリアに挟まれた欧州の小国リヒテンシュタイン公国が持つコレクションの展覧会。5年ほど前にも同様の企画が新国立博物館で開催されていた記憶がある。持てる資源をフル活用して、外貨を稼いでいるのだろう。

文化村のザ・ミュージアムは決して大きくないが、丁度私の集中力が持つ程度のサイズなので、ゆっくりとマイペースで観ることができるのが好きだ。今回は、絵画と磁器のコレクションが中心に展示されていたが、前半の〈宗教画〉、〈神話画・歴史画〉のコーナーが私的には好みだった。 

印象に残った数点をご紹介すると・・・


ヨーゼフ・ノイゲバウアー 《リヒテンシュタイン侯フランツ1世、8歳の肖像》

8歳ながらにして強い意思と気品を感じる美少年。この視線は痺れる。吸い込まれるように見入ってしまった。


ジロラモ・フォラボスコ 《ゴリアテの首を持つダヴィデ》

こちらもダヴィデの美少年ぶりに魅かれる。


ルーカス・クラーナハ(父)《聖バルバラ》

無表情・無機質に人物が描かれるクラーナハの絵だが、細部に至るまでのきめ細やかな描写が素晴らしい。図版やデジタル画像ではなかなか分からない。


ペーテル・パウル・ルーベンスと工房《ペルセウスとアンドロメダ》

ペルセウスに救出されるアンドロメダだが、その困惑したようなアンドロメダの色っぽさが半端ない。

第7章「花の静物画」のコーナーは写真撮影も可です。上野の美術館のような大型展示に疲れた時に、落ち着いて、自分なりに西洋美術を楽しみたいときに最適だと思います。

 

第1章 リヒテンシュタイン侯爵家の歴史と貴族の生活
第2章 宗教画
第3章 神話画・歴史画
第4章 磁器―西洋と東洋の出会い
第5章 ウィーンの磁器工房
第6章 風景画
第7章 花の静物画

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外れ年だった紅葉 @山中湖、河口湖(2019年11月)

2019-11-16 23:07:43 | 旅行 日本

11月上旬に毎年恒例の山中湖に紅葉狩りにでかけたが、残念ながら今年は外れ年だった。11月に入っても気温が高く、色付きが遅かったというのもあるが、なによりも夏・秋の台風の影響で葉が既に落ちたり、傷んだりしていて、紅葉狩りとしては全くと言ってよいほど楽しめなかった。この時期、「紅葉祭り」が開催されて、夕刻から美しいライトアップが葉に彩を添えるのだが、今年は紅葉している木を探すような状況。観光客もがっかりだったが、地元の観光業に携わる人にとってのダメージは更に大きいものだっただろう。

今回は足を延ばして河口湖まで訪れたが、ここはむしろ木々の葉が青々さが印象に残るという皮肉な展開だった。ぽかぽか陽気の中、湖畔の散歩を楽しんだ。山中湖よりも早く人の手が入って観光地化が進んだ河口湖はがっかりさせられるエリアもあるのだが、場所を選べばゆっくりした時間が過ごせる。


<もみじ回廊のはずなのだが・・・>


(銀杏が紅葉より先に黄ばんでる?)

というわけで、やっぱり恒例の早朝山中湖畔ジョギングが、一番気持ちよかったということになった。(早起きはそれなりにつらいけども・・・)

(終わり)

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映画〈グリーン・ブック〉(監督:ピーター・ファレリー )

2019-11-09 08:43:17 | 映画

才能と名声を得た黒人ピアニストとその彼のコンサートツアーの運転手兼ボディガードとなったイタリア系アメリカ人の2人の交流を描くロードムービー。実話にヒントを得た作品で、タイトルは黒人専用の旅行ガイドの名前に由来しているとのこと。出張帰りの飛行機で視聴。

「とってもいい映画」という一言に尽きる。社会階層、教養、人種の違いを超えた友情、違いを認めることで生まれる個人としての成長、黒人差別が合法であった60年代アメリカ社会など、個人・人間関係・社会が美しい映像をベースに描写される。まあ、天邪鬼的に言えば出来過ぎ感はあるが、素直に楽しみたい。

映画自体は十分に楽しめるものだが、私はむしろ今のアメリカを思い、暗くなったところもある。この映画で描かれるように人種差別が当たり前だったアメリカは、その後、黒人大統領を持つまでにもなったにもかかわらず、今の大統領は差別、分断を煽るような発言を続け、それが一定の支持を受けている。時計の針が逆向きに動いているようにしか見えない。


監督:ピーター・ファレリー
脚本:ニック・ヴァレロンガピーター・ファレリーブライアン・クリー
出演者:
ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリー、ニドン・スタークほか

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見仏記 @シンガポール

2019-11-04 09:00:00 | 旅行 海外

 先月、シンガポールへ出張の機会があった。以前仕事で1度訪れたことがあるが、現地総滞在時間20時間未満の駆け足出張だったので、実質初めてである。今回は3日間の滞在だったが、毎度のことで日中は会議室に缶詰、夜はビジネスディナーで自由時間はほぼゼロ。街中をぶらつくことは殆ど不可能だ。

 そんな中で一日だけ、早朝ジョギングの時間を捻りだして、ホテルから3キロちょっと離れた中華街まで見仏目的で走った。

シンガポールの夜明け東京に比べるとずいぶん遅い。6:30頃にようやく明るくなってくる。iphoneのMap経路案内を頼りに走り始める。

最初に向かったのはシンガポール最古の中国寺院というシアン・ホッケン寺院。船乗りを守る天后が祀られていることだが、残念ながら開門は7:30からということで門は固く閉ざされたままだった。涙・・・。 


〈シアン・ホッケン寺院の前〉

 次なる目的地は、仏陀の歯が祭ってあるという新嘉坡佛牙寺龍華院。が、そこを目指す途中に仙祖宮なる小さなお寺に遭遇。ネットのブログ情報によると、マレー系の中国神≪大伯公≫を祀ったお寺とのこと。18世紀に福建省に実在した学者さんらしく、豊作・大漁・治病・家内安全・土地守護・商売繁盛など何でも来いの万能神らしい。


〈まだゲートは閉ざされたまま〉


<こちらの祠は開門済み>

 目的していた新嘉坡佛牙寺龍華院は4階建ての建物のかなり大きい寺院である。ここは7:00開門なので中に入れた。ただ、仏陀の歯は4階に安置されているとのことで、4階は9:00開場ということでここでも涙・・・。本堂の方は開いたばかりだが、もう何人も信者さんたちがお祈りをしていた。本堂には薬師如来と脇侍として日光・月光の両菩薩が。金ぴかの現代風の仏像だがとっても人間っぽい、色気ある姿に見とれてしまう。無理して走って来た甲斐があった!!!

 

 


<完璧な薬師如来と両脇侍のトリオ>

後ろ髪引かれる思いで寺を離れると、100メートルも行かないところにヒンドゥー教寺院があった(スリ・マリアマン寺院)。吸い込まれるようにここにも立ち寄る。入った瞬間、ここはまるでインド。お香の匂いが立ち込め、多くのインド系の信者さんたちが行き来している。多国籍国家シンガポールを垣間見た印象だった。

 

 想定外の寄り道に時間を食ったので、ホテルに急ぎ戻り始める。すると、また途中に、中国系とみられる小さなお寺があり、信者さんが出入りしていた。気になったので、ここにも立ち寄ってみると、金ぴかの達磨像(?)があった。更に奥には仏様が。前庭では、信者さんたちにお粥が賄われていた。食べてけばお誘いを受けた(きっと)が、時間も無いので、失礼した。


<いかにもご利益ありそうな達磨大師?>


<佛光普照> 

大急ぎでホテルに戻り、1時間弱の朝の見仏ジョギングは終了とした。まさに駆け足観光だったが、シンガポールの多様性と人の暮らしのごくごく一面を垣間見ることができ、とっても楽しめた。シンガポールは食事もおいしいし、一度プライベートでゆっくり来てみたいと思っている。

2019年10月16日

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閑古鳥のホールは熱気で一杯:指揮 クリスチャン・ヤルヴィ/MDRライプツィヒ放送交響楽団 @すみだトリフォニーホール

2019-11-01 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

 開演10分前に当日券を購入し慌ててホールに駆け込んだ瞬間、わが目を疑った。「あれ、なんか違うところに来た?」3階席なのだが、目に入るのは空席ばかりで、人がいない。もちろん全くいないわけではないのだが、ぱっと見、座席の2割も埋まってないように思われた。小学生の時に従兄と出かけた川崎球場の近鉄対ロッテの試合のようである。

 とりあえずチケットに印字された座席を確認だけして、移動して半信半疑で3階席の最前列から1階席を見てみた。やっぱり、いない。これまでクラシックの演奏会はここ10年できっと200は出かけていると思うが、この空席率は経験がない。当日券の購入時には残チケットは20ぐらいだったのに、一体どうなっているのだろう。なんか狐につままれたような感覚と、ドイツから出張演奏して来てくれるオケに対して、何か申し訳ない気持ちで一杯だった。

 しかし、救いはこの寂しい客席をものともしない、クリスチャン・ヤルヴィとオケは目茶熱い演奏だった。前半のブラームス交響曲第一番。始まるや否や、その重心低く、厚みのある音圧に圧倒された。アンサンブルは在京オケのような一糸乱れぬというわけではなく、繊細さは物足りないが、このパワー、推進力は日本のオケでは滅多に経験できない。思い出したのは、フィジカルを売りにぶつかってくる南アフリカのラグビー。押しまくられた。

 後半のベートーヴェンの交響曲第5番は私的にはここ数年でも稀有の「運命」だった。ブラームスでやや物足りなかったアンサンブルも5番ではぴしっと揃い、曲がコントロールされる。南アフリカのモールそのものだ。オケの音は重心低く重厚なのだが、クリスチャンが作る音楽は実に明るく軽快。この絶妙なミックスで、とってもエキサイティングな音楽が生まれていく。人が少ないせいかホールの反響も良く、3階席とは思えないほど一つ一つの音が良く聴こえた。第4楽章の躍動感は素晴らしく、終わりに近付くのが残念で仕方ない。いつまでもこの空間に身を委ねたかった。

 終演後はブラボーの嵐。数少ない聴衆ではあるが、拍手は決して満員のホールに負けない熱さ。勿体ないなあ~という思いでいっぱいだ。アンコールにはステンハンマルから。「運命」の後に相応しい、爽やかなデザート。

 10月はプライベートでいろいろあって、2つのN響定演も棒に振り、この日が初めての演奏会。心身ともに最低のコンディションが続いていたが、この日の「運命」から前向きのパワーを貰った。

 

★MDRライプツィヒ放送交響楽団
2019年10月29日(火)19:00開演 すみだトリフォニーホール 大ホール

指揮:クリスチャン・ヤルヴィ
曲目:ブラームス 交響曲第1番 ハ短調
ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調「運命」

 

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