その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

輿津要 編 『古典落語』(講談社学術文庫、2002)

2016-12-31 08:00:00 | 


 落語とはこれまで何の縁もなかったが、立川談春の「赤とんぼ」を読んで、ちょっと興味を持って、隙間時間にYouTubeで落語をちょくちょく見ている。世の中便利になったものだ。次から次へと楽しめる。

 確かに「芸」だなあと思う。同じネタでも落語家によって印象が全然違ってくる。こりゃあ、のめりこむと深そうだ。

 落語を見たり、聞くのも面白いが、読んでみてもいいかなと思い。古典落語の本を読んでみた。ちょっと面倒くさい今の世の中から見ると、ずいぶんのんきで、楽しそうな世界に見える。こんな余裕があっても良いよねと思う。

 落語鑑賞を嗜む人にとって、本で落語を読むなんて、邪道中の邪道なのかもしれないけど、隙間時間の息抜きにはもってこいである。



目次

明烏/三人旅/厩火事/千早振る/そこつ長屋/三方一両損/たがや/居残り佐平次/目黒のさんま/小言幸兵衛/道具屋/時そば/芝浜/寿限無/三枚起請/崇徳院/野ざらし/青菜/らくだ/がまの油/子別れ
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菅野完  『日本会議の研究』(扶桑社新書、2016)

2016-12-29 08:00:00 | 


 安倍首相本人を初め現在の政権に大きな影響力を持政治家たちと、強い結びつきを持っているとされる日本会議について知りたく読んでみた。Wikiによると、特別顧問の肩書の安倍首相、麻生財務大臣を初め、平沼、石破、菅、下村、高市、甘利、岸田、稲田・・・とそうそうたるメンバーが、日本会議国会議員懇談会という「日本会議を支援する超党派の議員によって構成される議員連盟」(Wiki)に所属して活動している。

 日本会議そのものは、「美しい日本の再建と誇りある国づくりのために政策提言と国民運動を推進する民間団体である」(同団体ホームページ)。歴史と伝統に基づいた新憲法制定、自虐歴史教育の是正、総理大臣の靖国神社公式参拝の実現など、いわゆる「伝統的」価値観を持つ団体だ。以前、英エコノミスト誌が「ナショナリスト」団体としているのを読んだことがある。

 日本会議については、Webにいろいろな情報がアップされているので、そちらを見ていただければと思うが、本書はその日本会議について、その起源・歴史、主張、活動、中心・周縁となる人々を、丹念な取材により描き出した佳作だ。過去の1次資料にも根気強く当たっている。そのおかげで、日本会議自体は巨大な政治団体などではなく草の根の市民活動に基づいた組織であることや、伊藤哲夫、百地章、高橋史朗(敬称略)ら運動推進者の考えや、影の実力者であったとされる安東巖の影響力などを知ることができた。

 本書の愁眉は、巻末の「むすびにかえて」にある筆者からの警告である。反民主的ともとれる主張を持つ日本会議は、草の根の極めて地道で継続的な「民主的な市民運動」によりその政策提言を実現してきた。「このままいけば、『民主的な市民運動』は日本の民主主義を殺すだろう」(p298)。まさに、麻生さんが言うように「ナチスの手法」が着々と積み重ねられているのだ。

【目次】
第1章 日本会議とは何か
第2章 歴史
第3章 憲法
第4章 草の根
第5章 「一群の人々」
第6章 淵源
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絢子姫に魅了される: 新国立バレエ 「シンデレラ」 @新国立劇場

2016-12-25 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 年末の第九ぼったくり商法については、かねてより批判的であるので、ささやかな個人的不買活動を継続中である。加えて、年末は第九よりもバレエの方がぴったりくると思っており、ここ数年、新国立バレエの公演を楽しみにしている。この季節は1年交代で「シンデレラ」と「くるみ」を上演してくれており、今年は「シンデレラ」の年。過去2回、米沢唯さんのシンデレラを観てきたので、今年は小野絢子さんのシンデレラを選んだ。

 この日はチケット完売。着飾ったお子様たちが大勢交じり、ホワイエは実に華やかな雰囲気に包まれる。入口手前のクリスマスマーケット風のテントやホワイエの大きなクリスマスツリー、ピエロが風船人形を子供たちに配ったり、舞台だけでなく劇場そのものが夢の中のようだ。



 公演は、絢子シンデレラの素晴らしい踊りに魅了され続けた。均整が取れ、かつ優美な動きに加えて、表情が何とも可憐。私自身は、もう夢の世界に浸る歳ではないけど、現実からは確実に逃避させてくれ、別の世界に連れて行ってくれる。バレエって本当に不思議な力がある。

 絢子姫のほかには、仙女役の木村優里さんが柔らかな動きに目を奪われた。手足がとっても細くて長く、千手観音に見えたぐらい。秋の精を演じた新人の池田理理沙子さんは、公演後に知ったが、最近SNS上で賛否両論のホットな話題になっているようだ。私は、そんなことはつゆ知らずに観てたけど、バレエ観劇素人ながら、私自身は4名の精のなかで、表情豊かだし、踊りも個が浮きだつ感じで、好感度高かった。批判にめげずに頑張ってほしい。

 あと、良いなと思ったのは、昨年の「くるみ割り人形」公演では、あらすじすら配られず、プログラムを買わせようとする「年末ぼったくり商法、新国おまえもか!」と言いたくなっただけど、今年はしっかりしたプログラムを入口で配って頂き、とっても満足。初めてバレエを見に来る子供たちも沢山いるんだから、こういうことは大事だと思う。

 気持ちよく1年を締めくくるには、バレエが一番だと改めて確認した。


【12月23日(金・祝)18:00】
シンデレラ:小野絢子
王子:福岡雄大
姉娘:小口邦明
妹娘:宝満直也
仙女:木村優里
春の精:五月女 遥
夏の精:飯野萌子
秋の精:池田理沙子
冬の精:細田千晶

芸術監督:大原永子
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:フレデリック・アシュトン
監修・演出:ウェンディ・エリス・サムス/マリン・ソワーズ
装置・衣裳:デヴィッド・ウォーカー
照明:沢田祐二

指揮:マーティン・イェーツ
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団




《英国ロイヤルバレエで1987年アシュトン版初演時のポスター》

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映画 「この世界の片隅に」(監督:片渕須直、2016)

2016-12-23 13:59:01 | 映画


 SNSで評判になっていたので見に行ってきた。太平洋戦争時、広島から軍港・呉に嫁いだ少女すずの生活・成長が描かれるアニメ映画。

 評判通りの完成度の高い映画だった。特に印象的だったのは、主人公を声優として演じたのん。主人公は、のろまでぼうっとした性格だが、厳しい時代を精一杯に生き抜いていく。そのすずの内面を表現力豊かに演じていた。その飾り気のなく自然な演技は深く心に染み入る。「あまちゃん」以後、芸能界の中ではいろいろトラブルの渦中にあるようだが、俳優(声優)としては天性の才があるのは間違いない。

 ストーリーも各登場人物もごくごく自然体。原作が実話に基づいたものかどうかは不明だが、戦時中の一般市民の生活って、きっとこんな感じだったのだろうなあと思わせる。国家レベルでの意思決定に規定され、翻弄されざるえない庶民だが、そうした環境でも逞しい。当時の彼らと今の我々をを比較し、恵まれているなあと一瞬思ったが、すぐに、我々も形は違えど、上からの力に規定、制約されて毎日を生きていることにも気づかされ、時代を超えて同じ一庶民として共感できる。

 映像も美しく、音楽も物語にしっかりはまっている。強くお勧めしたい一本だ。


監督:片渕須直
脚本:片渕須直
原作:こうの史代
製作総指揮:丸山正雄、真木太郎(GENCO)

出演者
北條すず - のん
北條周作 - 細谷佳正
黒村晴美 - 稲葉菜月
黒村径子 - 尾身美詞
水原哲 - 小野大輔
浦野すみ - 潘めぐみ
北條円太郎 - 牛山茂
北條サン - 新谷真弓

音楽:コトリンゴ
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冲方丁 『光圀伝』 (角川書店、2012年)

2016-12-20 08:02:19 | 


 徳川御三家のひとつである水戸藩の第2代藩主、水戸光圀の一生を追った物語。破天荒な青年期、大義を貫く壮年期、藩政・修史事業に取り組む中年期、そして隠居の晩年。骨太な筆致で、文武に秀でた傑物が描かれる。

 700ページを超える大作で、中盤以降やや中だるみ感や冗長な印象もあったが、終盤に緊張の山場が設けられおり最後はしっかり締まった。水戸藩の将来の布石にもなっている。戦国の世から太平の世へ、時代の移り変わり期における武士階級の最上流の偉人の生き様は、静かな興奮を伴って読める。

 作者は奥さんへのDVで逮捕されたことでニュースになった(本人は否定しており、結局不起訴処分になっているらしい)が、高潔な歴史上の人物を描くことと、個人の人間性はどうも相関しないようだ。
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コンサート納めはラ・ヴァルスで: N響12月Cプロ ラヴェル/バレエ音楽「ラ・ヴァルス」 他

2016-12-17 21:19:40 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 私的に今年のコンサート納め。イギリス、ロシア、フランスものを組み合わせた、意図は良くわからないけど、デュトアさんならではのプログラムです。

 「ピーター・グライムズ」はオペラは陰鬱すぎて好きになれないのですが、音楽は嫌いではありません。今回のデュトアさん指揮の「4つの間奏曲」は今まで聴いた実演ではベストかも。コンサートの冒頭に取り上げられて、何となく始まって何となく終わってしまい欲求不満なことが多かったのですが、この日の演奏はデュトアさんらしいつくりが分かりやすく、見通しの良いもので、N響のアンサンブルの美しさもあって、情景が目に浮かぶ名演でした。

 続いてはヴァディム・レーピンさんヴァイオリン独奏による2曲でしたが、前夜の忘年会の疲れか、集中力を欠いて舟漕ぎ状態となってしまい、ここはノーコメントです。ごめんなさい。

 後半の一曲目のオネゲル交響曲第2番は初めて聴きました。弦のほかは、管はトランペット一人だけの編成でびっくり。曲は「作曲時期が第二次世界大戦と重なったことから、オネゲルの一連の交響曲の中でも特異な性格を備えることになった」(プログラムより)と書かれるだけあって、暗く緊張感あふれるものでした。その分、N響の精緻なアンサンブルが耳に響きます。

 そして、最後はラ・ヴァルス。デュトアさんの十八番でしょうね。大きなジェスチャーでオケを引っ張るデュトアさんにN響が食らいつき、華やかなで年末を飾るに相応しいきらびやかな音楽でした。オネゲルの暗鬱さが取り払われて、暖かい太陽が昇って来たような気分。まさに一年を明るく締めてくれました。

 今年もN響にはいろいろな音楽を聴かせてもらいました。パーヴォ・ヤルヴィさんを主任指揮者に迎えますます充実の1年だったかと思います。NHKホールのロビーでは「2016年心に残ったコンサート」のアンケート投票を行っていました。さて、自分のNo1は何だったろう。これからゆっくり反芻したいと思いますが、いずれにしても、N響の演奏会がこの1年も豊かなものにしてくれたもののひとつであることは間違いありません。大いに感謝です!


第1852回 定期公演 Cプログラム
2016年12月17日(土) 開場 2:00pm  開演 3:00pm
NHKホール

ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」─ 4つの海の間奏曲 作品33a
プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19*
ラヴェル/チガーヌ*
オネゲル/交響曲 第2番
ラヴェル/バレエ音楽「ラ・ヴァルス」

指揮:シャルル・デュトワ
ヴァイオリン*:ヴァディム・レーピン

No.1852 Subscription (Program C)
Saturday, December 17, 2016  3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall  

Britten / “Peter Grimes”, opera - Four Sea Interludes op.33a
Prokofiev / Violin Concerto No.1 D major op.19*
Ravel / Tzigane*
Honegger / Symphony No.2
Ravel / “La valse”, ballet

Charles Dutoit, conductor
Vadim Repin, violin*
 
 
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デュトアさま喜ばせ組に釘付け: N響12月Aプロ ビゼー/歌劇「カルメン」(演奏会形式)

2016-12-12 07:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 今日は夕刻の大事なイベントのため泣く泣く3幕途中で退室。なので、観たとは言えないのですが備忘のため。

 デュトアさん恒例の12月のオペラ演奏会方式。今年は人気オペラのカルメンとあって、久しぶりにNHKホールがチケット完売。満員の演奏会は熱気があっていいです。

 カルメン役のケイト・アルドリッチの存在感が抜群。肩丸出しの真っ赤なドレスが似合い、3階席からは胸元が気になります。魅惑的な演技を交え、めちゃセクシィ。ホセでなくとも、このカルメンに魅かれない男性がいるとは思えません。一方、王道清純派のミカエラ役のシルヴィア・シュヴァルツは、黒のドレスに身を包んだ正統派美人でこれまたはまり役。この二人のキャスティングがドンピシャでした。二人ともデュトアさんお気に入りなんでしょうね。

 男性陣も見栄えと実力を兼ね備えた充実の布陣。特に、胸元はだけた姿の闘牛士エスカミーリョ役のイルデブランド・ダルカンジェロは、ほんもの闘牛士風の色男で、歌も素晴らしい。私が、アルドリッチからオペラグラスが離れられなかった一方で、隣席のご婦人はダルカンジェロからオペラグラスが離れませんでした。気持ちわかります・・・。ホセ役のマルセロ・プエンテも揺れ動く青年を上手く演技。日本人男性陣もいい仕事してました。

 新国立劇場合唱団は安定感抜群。来年早々に新国立オペラでもカルメンやるんですよね。NHK東京児童合唱団の児童合唱も美しかった。N響の演奏はカルメンにしては端正すぎる印象もありましたが、贅沢な注文でしょう。

 ただ、今回、アルドリッチのカルメンが強烈で、正直、あまり音楽に集中できなかったのが本当のところ。煩悩だらけの自分に喝!


第1851回 定期公演 Aプログラム
2016年12月11日(日) 開場 2:00pm  開演 3:00pm
NHKホール 

~N響創立90周年記念~
ビゼー/歌劇「カルメン」(演奏会形式)
 
指揮:シャルル・デュトワ
 
カルメン:ケイト・アルドリッチ
ドン・ホセ:マルセロ・プエンテ
エスカミーリョ:イルデブランド・ダルカンジェロ
ミカエラ:シルヴィア・シュヴァルツ
スニーガ:長谷川 顯
モラーレス:与那城 敬
ダンカイロ:町 英和
レメンダード:高橋 淳
フラスキータ:平井香織
メルセデス:山下牧子
 
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団

No.1851 Subscription (Program A)
Sunday, December 11, 2016  3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall   Access   Seating chart

NHKSO 90th Anniversary Concert
Bizet / “Carmen”, opera (concert style)

Charles Dutoit, conductor

Kate Aldrich, Carmen
Marcelo Puente, Don José
Ildebrando D’Arcangelo, Escamillo
Sylvia Schwartz, Micaëla
Akira Hasegawa, Zuniga
Kei Yonashiro, Moralès
Hidekazu Machi, Le Dancaïro
Jun Takahashi, Le Remendado
Kaori Hirai, Frasquita
Makiko Yamashita, Mercédès
 
New National Theatre Chorus, chorus
NHK Tokyo Children Chorus, children chorus



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これは圧巻!: クラーナハ展 @国立西洋美術館

2016-12-11 10:06:35 | 美術展(2012.8~)


 クラーナハの絵に接すると、独特の繊細さ、非現実的な美しさに深く引き込まれる。欧州の美術館でクラーナハの絵にいくつか接し、すっかり魅了されたのだが、その個展が東京で開催されると聞いたときは狂喜した。

 今回、日本初という大回顧展で、クラーナハ父の作品だけで60近く展示されている。ウィーン美術史美術館、国立西洋美術館を初めて世界の美術館から集められた作品は圧巻だ。知らなかったが、同時代のデューラーと同様に、クラーナハは画家工房を営み、システマティックに大量創作していたということだ。

 もっとも印象的だったのはチラシにもなっている「ホロフェルネスの首を持つユディット」。改修作業を終えたまもないと入口のビデオで紹介されていたが、色がみずみずしく蘇り、輝くとともに、生首を手にするユディットの怜悧な表情やホロフェルネスの首のグロテスクさには足がすくむ。絵の前にから離れることができない強烈な磁力を放っていた。


《ホロフェルネスの首を持つユディト》1530年頃、油彩/板(菩提樹材)ウィーン美術史美術館(画像はクラーナハ展のツイッターから)

 クラーナハ以外にも、同時代のデューラーの版画(ディテールにおいてはデューラーに分がある)やクラーナハをならったピカソのリトグラフや影響を受けた岸田劉生の油彩なども展示されている。目を引いたのは、クラーナハ《正義の寓意》1537年の大模写コレクション。パズーキというイラン人アーティストが、2011年に中国の深圳(世界の複製画の半数以上が作られているという芸術家村があるとのこと)に100名の画家を集め、クラーナハ《正義の寓意》1537年の模写のコンペティションを行った作品群が一堂に展示してあるのである。似てるもの、全然似てないもの、いろいろあるがこれは、一見の価値あり。


(クラーナハ展のツイッターから)

 今回は、金曜日の夜間開館時間帯に出かけたので、余裕を持って見られた。ただ、いつも同じことを書いているのだが、夜間開館は何とか9時までお願いできないだろうか?8時閉館は仕事を定時に終えて駆けつけても、あまりにも忙しい。今回も後ろ髪ひかれる思いで、会場を後にした。

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西谷 大 「ニセモノ図鑑: 贋作と模倣からみた日本の文化史 」(河出書房新社、2016)

2016-12-06 08:00:00 | 


 千葉県佐倉市に国立歴史民俗博物館という博物館があることをご存知ですか(恥ずかしながら、私は初めて知りました)?本書は2015年に当地で開催された企画展「大ニセモノ博覧会」を書籍向きに書き下ろしたものです。

 「フェイク(偽文書、贋作、偽造、偽物)」「イミテーション(模倣、擬態、模造品)」、「コピー(複製、模作、模刻)」、「レプリカ(複合品、写し、模型)」。いずれもニセモノを指す言葉ですが、それぞれ違いがあることを初めて知りました。詳しい解説は本書を読んでいただくとして、ニセモノにはニセモノの存在理由があるのです。

 地方の素封家が自宅で開催する宴会で、家の威信を示すために飾られた雪舟ら有名日本画家の掛け軸、屏風絵の贋作、由緒を求めて近世の人が偽造した信玄や家康の偽文書など、偽物が求められる歴史的背景や真贋の区別となるポイントが端的に解説されていて実に興味深いです。

 個人的に特に興味深かったのは、この博物館が企画展のために制作した人魚のミイラの制作プロセス。実在しない生き物のミイラだから、当然ニセモノなわけだが、制作のためには本物のサルや鮭を利用して、毛をそり、皮をはぎ丹念に加工されます。これ自体が立派な作品であって、一体ニセモノとは何なのか分からなくなってきます。

 簡単に読めますが、歴史学、民俗学の面白さを垣間見る内容になっており、この手のトッピクが好きな人にはお勧めです。国立歴史民俗博物館に行きたくなることを請け合い。


目次
第1章 ニセモノとおもてなし(宴会風景の再現
おもてなしで活躍するニセモノ ほか)
第2章 なぜ偽文書は作られたのか?(偽文書の需要と供給
文書を偽造しても欲した、“由緒” ほか)
第3章 パクリかパロディか(コピー商品は時代を超えて
ものつくりを支えた中世の生産革命 ほか)
第4章 ニセモノを創造する(創造されたニセモノ人魚
平田篤胤、人魚を食す ほか)
第5章 ニセモノから学ぶ(博物館のレプリカから見える世界
小判製作工程の復元 ほか)
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デュトア月間の始まり~始まり~: N響 12月定期Bプロ/ 指揮:シャルル・デュトワ/ベートーヴェン交響曲 第5番ほか

2016-12-04 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 ここ数年12月のN響定期はデュトアさんの定位置。毎年、素晴らしい演奏を聴かせてくれるので、今年は頑張って一回券の争奪戦に参加し、何とかB定期のチケットをゲット。私にとっては、A,B,C揃い踏みの豪華な12月となりました。

 この日はプログラムが出色。前半2曲は物語がついた音楽という共通点はありますが、ロシアのプロコフィエフとフランスのラヴェルの曲。そして後半はベートーヴェン、それも交響曲第5番。これがデュトアのプログラムと聞けば、何か深慮深謀があるに違いないと思いますが、デュトアでなければ精神分裂症プログラムと取られても仕方がないような曲編成。蓋を開けてみると、やはりデュトアらしい多様性が活かされた、実に多彩でエキサイティングなものでした。

 前半はラヴェルの「マ・メール・ロワ」が特に秀逸でした。音がひたすら美しく輝いています。弦の美しさもさることながら、フルート、クラリネット、オーボエ、イングリッシュホルンなど木管のソロが絶妙。終曲の「妖精の園」はヴァイオリンとヴィオラの独奏など、天に昇るような気分。このままこの日の演奏会が終わっても何の文句も無いと感じた程です。むしろ、この心地よさを後半の「運命」で壊されてほしくないと思ったぐらい。このバレエを是非見てみたいです。

 休憩後の交響曲第5番は直球ど真ん中のストロングスタイル。太筆による楷書体文字のような堂々たる演奏でした。第1楽章、第2楽章は予想以上の正統派ぶりに驚くとともに、ちょっと教科書的すぎやしないかと拍子抜け感があったのですが、第3楽章以降は押し寄せる大波のような怒涛の演奏に完全に飲み込まれました。この日は特にコントラバスの響きが太く、厚かったのが印象的でした。サントリーホールの音響の中で聴く「運命」は格別です。

 さあ、次はAプロで「カルメン」。楽しみです。



第1850回 定期公演 Bプログラム
2016年12月1日
サントリーホール  

プロコフィエフ/組曲「3つのオレンジへの恋」作品33bis
ラヴェル/バレエ音楽「マ・メール・ロワ」
ベートーヴェン/交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

指揮:シャルル・デュトワ



No.1850 Subscription (Program B)
Thursday, December 1, 2016   7:00p.m.

Suntory Hall

Charles Dutoit, conductor

Prokofiev / “The Love for Three Oranges”, suite op.33bis
Ravel / “Ma mère l’Oye”, ballet
Beethoven / Symphony No.5 c minor op.67
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