昨年、ここ数年続けてきた「ぼったくり年末第九ボイコット運動」に挫折したばかりだが、今年もノット、東響の第九という誘惑に抗しきれず、ボイコット運動は休止を続けることとなった。ノット・東響のコンビは今年も日本のクラシック界を大いに盛り上げてくれたようだが、残念ながら私は日程が合わず、一度も足を運ぶことが出来なかったので、今回の第九が今年最初で最後のノット・東響となる。どんな第九を聴かせてくれるのか、期待感一杯で席に着いた。
第一楽章の冒頭からエンジン全開の演奏に驚かされる。準備運動無しでいきなり100m走を全速力で走りぬくような強い推進力を感じる演奏だ。第二楽章に進んでもスタイルは変わらず、12型のこじんまりとした編成だが、そこから紡がれる音は太く、厚い。7人制ラグビーのチームが、15人制ラグビーのような試合を展開している、そんな演奏なのだが、楽団員たちの方が1.5人分ぐらい力を出しているのだろう。「う~ん、こんな第九演奏は初めてだなあ」と唸りながら聴き続けた。私が大好きな第三楽章は、第一楽章、第二楽章から一転して、ペースは緩み、天上から舞い降りたてきたような美しい調べだった。
正直、前半「?」と思うようなところはあったし、アンサンブルの美しさは聴き慣れているN響の方が優れているかなと思うところもあるのだが、そんことは些細なことで、指揮者・楽団員が一団となって音楽を創造していく「気」に押される。西田氏のプログラムノートにある、当時のベートーヴェンの社会状況への「憤り」、「愛国的感情」がスピード感一杯に展開される。
第四楽章は東響コーラスの美しいハーモニーに心奪われた。好きなサイモン・オニールを始め独唱陣は外国勢で固めたが、私の席(2階席右側)のせいだろうが、正直、いかにも外国勢というような目立ち方はなく、コーラスと溶け合い、むしろコーラスの美しさの方を際立たせているように聞こえた。これまでも十分すぎるほど全力投球を続けてきたオケは、フィナーレが近づくにしたがって、さらにパワーアップしてドライブがかかる。オケ、合唱、独奏が一体となってベートーヴェンの「自由を勝ち取る意思表示」(プログラムノートより)が堂々と提示される。聴き手もどんどん前のめりになる。曲が終わった時には、拍手とともに、すーっと脱力していく自分がいた。
東響では恒例のようだが、そうとは知らなかった私はアンコールで「蛍の光」が始まり驚いた。演出が一瞬、紅白歌合戦のフィナーレと被ったが、私自身この1年、お世話になった人との別れ、家族メンバーの新しい門出など、本当にいろんなことがあったので、それらが自然に思い起こされ、自分なりの一つの締めとなった。ノットによる素晴らしい結び(Knot)に感謝一杯でホールを出た。
2019年12月28日(土)18:30
サントリーホール
出演
指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:ルイーズ・オルダー
メゾソプラノ:ステファニー・イラーニ
テノール:サイモン・オニール
バスバリトン:シェンヤン
合唱:東響コーラス
曲目
ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125 「合唱付」
Title
Tokyo Symphony Special Concert
Date
Sat. 28th December 2019, 18:30p.m.
Hall
Suntory Hall
Artist
Conductor = Jonathan Nott
Soprano = Louise Alder
Mezzo-soprano = Stefanie Irányi
Tenor = Simon O'Neill
Bass-baritone = Shenyang
Chorus = Tokyo Symphony Chorus
Program
L.v.Beethoven : Symphony No.9 in D minor, op.125 "Choral"