ユニークで興味深い企画展が多く、ちょくちょく足を運んでいる府中市美術館を訪れました。今回のテーマは、「日本は動物の絵の宝庫」として、「かわいい、面白い、美しい……理屈抜きに楽しめる作品が山ほど」ある動物の絵を「西洋の絵とも比べることで、この土壌を育んだ背景や歴史を探ります」(美術展HPより)という内容です。府中市美術館の開館20周年記念の位置づけですが、それにふさわしい見応え満点の展示でした。
仏教の教えの影響で、動物も人間も同じ命を営む仲間として捉えた日本とキリスト教の教えで神があらゆる動物の頂点に人間を創ったと考えた西洋の発想の違いが、絵画に如実に表れているが良く分かります。涅槃図で描かれた釈迦の臨終を悲しむ動物たちや鳥獣戯画などの日本の絵画に描かれた動物たちには、時代を超えて、親近感がわくし、共感します。動物たちは常に私たち人間は、様々な違いがあるのは自明なのですが、同じ線上の立ち位置の違いにしか過ぎません。
涅槃図の一つ一つの動物を見ていると時間が経つのを忘れるほどですし、幼児の時の絵本にあったような気もする桂ゆきの動物たち、丸山応挙の文句なしの可愛い犬、徳川家光のミミズクなどなど、動物好きとは決して言えない私でも、ほんわか和む気持ちになりました。
西洋の動物の絵が全てとは言いませんが、象徴としての意味あいであったり、従うものであったり、愛玩ではあっても人間とは明確な一線が引かれているように見えます。なので、むしろ描かれた動物を見るというよりは、絵そのものを楽しむ感じでした。モローの一角獣やマリヌス・ファン・レイメルスワーレ派、デューラー、ティチィアーノらの絵・版画に描かれた聖ヒエロニムスの絵(ライオンがお供にいる)、フランソワ・ミレーのバターつくりの女(猫がじゃれついている)などが個人的にはお気に入りでしたが、ゴーギャン、ピカソ、シャガール、フジタなど動物も描かれた絵が展示されています。
そして、この美術館でいつも感心するのが作品解説。作品の見方や背景が分かりやすく、しかも興味を引くように記載されており、実に秀逸。ついつい読み込んでしまいます。実はそれ故に、絵を鑑賞するよりも解説に気が行き過ぎたり、見学時間が想定上に長引くと言ったことになるので、気を付けましょう(笑)。お勧めは、図版を購入して、解説は家でゆっくり読むことでしょうか(決して、美術館関係者ではありません)。
コロナ禍で美術展にも足が遠のいている今年の前半でしたが、それを挽回するに十分な量と質と満足度があった展示でした。後期に作品も相当数入れ替わるようですので、是非、今一度足を運びたいと思います。自信もってお勧めします。