春祭の目玉公演の一つ。N響によるワーグナー・シリーズ。毎年楽しみにしているプログラムです。昨年に続きヤノフスキさんをお迎えして、演目は<ニュルンベルクのマイスタージンガー>。
前奏曲からドキドキの演奏でした。快速テンポに、音の迫力がいつもの相当パワーアップしているように聴こえます。このスタイルは5時間半通して貫かれました。
コンサートマスターのキュッヒルさんのキレキレの音が私の5階席にもバンバン飛んできます。その影響か、ヴァイオリンをはじめとして弦チームの音がとっても筋肉質に引き締まってます。武骨とも感じるほどで、痺れました。
管陣も良かったですね。第3幕にオーボエがいつの間にか吉村さんから吉井さんに代わって、「吉村さん、体調不良?」と勘違いして動揺しました。遅まきながら、ホルンも福川さんに代わっているのを終盤になってやっと認識し、N響の働き方改革なのだろうと勝手に納得。代わった吉井さんのオーボエの柔らかくて通る音色が出色でした。まるで、WBCでのダルビッシュから大谷へのスーパーリレーのようでしたね。
このN響のスーパー演奏は、歌手陣を覆い隠す勢いでしたが、歌手陣も実力発揮してくれました。柱のザックスを歌ったエギルス・シリンスとポークナーのアンドレアス・バウアー・カナバスは安定の低音で、舞台がしっかり支えてくれました。
ヴァルターを演じたデイヴィッド・バット・フィリップはリッキー・ジャーヴェイス(私が好きなイギリスのコメディアン)をスリムに格好良くした感じ。前半、声量的にオケに負けていた印象は拭えませんでしたが、第3幕の「夢解きの歌」は柔らかく美しいテノールでした。
私の5階右サイドの席が残念だったのは、ベックメッサー役のアドリアン・エレートの演技が見切れて殆ど楽しめなかったこと。公演後のツイッターでは彼の芸達者ぶりが一番の評判だったので、そこを見逃したのは痛かった。
女性歌手陣と東京オペラシンガーズの合唱も文句無しの素晴らしいものでした。
今回は特に映像演出も無く、時折、舞台の照明の色が変わる程度。中途半端な映像演出は、却って興を削ぐ時もあったので、むしろこれで十分と思いました。
「マイスタージンガー」は好きなワーグナー楽劇の1つですが、丁度、最近NHKのドキュメンタリー「映像の世紀」<戦争の中の芸術家>を見たばかり。ナチス・ドイツ下で指揮活動をつづけたフルトベングラーの映像と併せて、ドイツ精神を賛美する「マイスタージンガー」の音楽が目と耳に残っていて、音楽を聴きながら、音楽とは多少異なる思いが頭をよぎりました。
例えば、1939年ワルシャワ生まれでドイツ育ち、お父さんがポーランド人、お母さんがドイツ人のヤノフスキさんにとっては、この楽曲を演奏することは何か特別な意味を持つのか、とか。一度、伺ってみたいトピックです。
なにはともあれ、「マイスタージンガー」の持つ強力な磁力とオケ・歌手陣・合唱団に引きつけられっぱしの5時間半でした
東京・春・音楽祭
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.14
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(演奏会形式/字幕付)
日時・会場
2023年4月6日 [木]
東京文化会館 大ホール
出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ハンス・ザックス(バス・バリトン):エギルス・シリンス
ファイト・ポークナー(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
クンツ・フォーゲルゲザング(テノール):木下紀章
コンラート・ナハティガル(バリトン):小林啓倫
ジクストゥス・ベックメッサー(バリトン):アドリアン・エレート
フリッツ・コートナー(バス・バリトン):ヨーゼフ・ワーグナー
バルタザール・ツォルン(テノール):大槻孝志
ウルリヒ・アイスリンガー(テノール):下村将太
アウグスティン・モーザー(テノール):髙梨英次郎
ヘルマン・オルテル(バス・バリトン):山田大智
ハンス・シュヴァルツ(バス):金子慧一
ハンス・フォルツ(バス・バリトン):後藤春馬
ヴァルター・フォン・シュトルツィング(テノール):デイヴィッド・バット・フィリップ
ダフィト(テノール):ダニエル・ベーレ
エファ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム
マグダレーネ(メゾ・ソプラノ):カトリン・ヴンドザム
夜警(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
曲目
ワーグナー:楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(全3幕)[試聴]
上演時間:約5時間30分(休憩2回含む)
Spring Festival in Tokyo
Tokyo-HARUSAI Wagner Series vol.14
"Die Meistersinger von Nürnberg"(Concert Style/With Subtitles)
Date / Place
April 6 [Thu.], 2023 at 15:00(Door Open at 14:00)
Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Cast
Conductor:Marek Janowski
Hans Sachs(Bass-Baritone):Egils Silins
Veit Pogner(Bass):Andreas Bauer Kanabas
Kunz Vogelgesang(Tenor):Noriaki Kinoshita
Konrad Nachtigal(Baritone):Hiromichi Kobayashi
Sixtus Beckmesser(Baritone):Adrian Eröd
Fritz Kothner(Bass-Baritone):Josef Wagner
Balthasar Zorn(Tenor):Takashi Otsuki
Ulrich Eisslinger(Tenor):Shota Shimomura
Augustin Moser(Tenor):Eijiro Takanashi
Hermann Ortel(Bass-Baritone):Taichi Yamada
Hans Schwarz(Bass):Keiichi Kaneko
Hans Foltz(Bass-Baritone):Kazuma Goto
Walther von Stolzing(Tenor):David Butt Philip
David(Tenor):Daniel Behle
Eva(Soprano):Johanni Van Oostrum
Magdalene(Mezzo-Soprano):Katrin Wundsam
Ein Nachtwächter(Bass):Andreas Bauer Kanabas
Orchestra:NHK Symphony Orchestra, Tokyo
Chorus:Tokyo Opera Singers
Chorus Master:Eberhard Friedrich, Akihiro Nishiguchi Musical Preparation:Thomas Lausmann
Program
Wagner(1813-83):”Die Meistersinger von Nürnberg”