その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

今季初フェスタサマーミューザ! 都響、指揮 大野和士、北欧プログラム

2023-07-29 11:35:14 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

私にとって今季初フェスタサマーミューザです。この日は、都響と音楽監督である大野和士の指揮によるニールセン、グリーグ、シベリウスの北欧プログラム。

このフェスタは席ランクによる価格差が小さいのが有難く、今回は頑張ってS席を購入。席に着いたら1階席センタの最後列でしたが、ステージがとっても近い上に、最後列は後ろを壁に囲まれ、大ホールというよりも閉じられた特別空間に居るような感覚で驚きました。

冒頭のニールセンの狂詩曲風序曲『フェロー諸島への幻想旅行』は初めて聴く曲。短い小品ですが、変化があって楽しめました。出だしは、海の情景が浮かぶ音楽で、ステージに近い分、弦楽器の微妙なニュアンスも感じ取れ、嬉しかった。

続いての、グリーグのピアノ協奏曲。有名な曲ですが、実演に接すのは久しぶり。ピアノのソロは久末航さん。初めて聴く人です。曲自体は華やかな曲ですが、久末さんのピアノは派手さなく、丁寧で端正な演奏。席が良いので、ピアノの音の一粒一粒が良く聴こえます。楽曲自体の良さを味あわせてくれました。好感度高いです。

アンコールはリストから。優しく、繊細な演奏で、こうした曲のほうがあっている気もしました。

後半はシベリウス交響曲2番。私自身好きな曲です。大野さんは暗譜で振り、オケも熱く答えていたのですが、今回の演奏はどうも私のスイートスポットから外れていました。出だしから管がチグハグに聴こえます。その後も弦陣の重厚な響きは素晴らしいのですが、全曲通じて終始力が入って、平板に聴こえてしまいました。音がダイレクトに響く1階席がかえって裏目に出たのかもしれません。

それでも、ミューザは音の響きが良いですね。後半は必ずしも好みでは無かったものの、今年の異常な暑さを忘れさせてくれる北欧の香り高い演奏会を楽しました。

 

2023年7月28日(金) 19:00開演
ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:大野和士(東京都交響楽団 音楽監督)
ピアノ:久末 航 *

ニールセン:狂詩曲風序曲『フェロー諸島への幻想旅行』
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 Op. 16 *
シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 Op. 43

Friday 28 July 2023 Start at 19:00
MUZA Kawasaki Symphony Hall

Kazushi Ono (Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra Music Director), Conductor
Wataru Hisasue, Piano *

Nielsen: Rhapsody Overture “A fantasy voyage to the Faeroes”
Grieg: Piano Concerto in a minor, Op. 16 *
Sibelius: Symphony No. 2 in D major, Op. 43


(久しぶりのビックマック@ミューザ川崎1階。滅多に食べないが、たまに食べるととっても美味しい)

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人間は個であることをやめ、どろどろに溶け合う? 上田岳弘『ニムロッド』講談社文庫、2019

2023-07-26 07:30:42 | 

仮想通貨を題材に、同一化していく社会や人間における個性や夢を描いた小説。2019年の芥川賞を受賞作品。

上田岳弘氏の作品を読むのは初めてだが、とっても村上春樹っぽいと感じた。一人称の「僕」が話の軸になって進んでいく。「ダメな飛行機」「(自然に出てくる)涙」「塔」「ファンド」などなど隠喩的に扱われるいくつかの思想、テーマ。空想世界と現実世界の境界のあいまいさなど、村上さんの作品を読んでいるような錯覚もする。

ストーリーは、会社で仮想通貨の採掘を命じられた「僕」と外資証券会社勤務の「彼女」と小説家を目指す「僕の先輩(ニムロッド)」の3名を軸に淡々と進むが、語られる内容はそのまま読者の考えを迫る。

 

議論は「人間は生産性を最大化するために個であることをやめ、どろどろに溶け合う。そして全能であるあのファンドと人類は一体化していく。」という点に集結していく。ディストピアSF小説のようでもある。情報が増え、処理スピードが加速度的に速くなる世の中で、人間は個性を発揮するどころか、ますます同一化していくことを暗示している。

読むのは難しくないが、読み応え、考え応えがある1冊だ。

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一期一会! アランギルバート指揮、東京都交響楽団、R.シュトラウス〈アルプス交響曲〉ほか

2023-07-21 07:21:37 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

夕刻の予定がお相手様の都合でキャンセルとなり予定がぽっかり空いた。さて、どうするかと思いネット検索したところ、なんと都響とアラン・ギルバートの演奏会があるではないか!この時季ぴったりの「夏」プログラム。ということで、当日券で東京文化会館へ突撃。

一期一会という言葉がぴったりの、素晴らしい演奏会だった。

冒頭のウェーベルン<夏風の中で―大管弦楽のための牧歌>は初めて聴く曲だが、とっても優しくデリケートな楽曲。13分程度の音楽の中に、様々な変化が織り込まれていて魅力的だった。この日は前列3列目という座席も、微妙な弱音がしっかり聴こえてきたのも幸運。1曲目からかなり満足度高い。

続いて、モーツァルトのホルン協奏曲第4番。今回のホルン独奏のシュテファン・ドールはベルリンフィルの首席ホルン奏者ということで、大物ならではの横綱演奏。悠々自在のホルンの音色が実に伸びやかだった。アランと都響の演奏は、伴奏というよりも一緒に音楽を楽しむ仲間という風情。近くに座ると、楽員さんの表情まで楽しめるのは良いですね。

しかし、何といっても圧巻は後半のアルプス交響曲。今年4月にパーヴォ/N響で聴いたばかりの楽曲で記憶もまだ新しいのだが、アランと都響ってこんな演奏をするんだと舌を巻いた。デフォルトがNHKホールの3階席なので、楽団の違いか、座席の違いか、(もちろん指揮者の違いか)の区分けなど私にはできないのだが、音量・音圧の凄まじさ、管・弦・打の夫々の楽器の主張が際立っていた。

中でもアルプスならではのホルンの響きが凄まじく。文化会館を突き抜けるほど。こんな凄い金管陣が都響には居るのだと感嘆した。が、これは演奏終了後に、前半のソロ奏者シュテファン・ドールが後半もホルン隊を引っ張っていたということを知り、あとからさもあらんと感じた次第。

前列3列目、それも右端からだと、メンバーを視認できるのは弦部隊の前から数列。管・打楽器隊はまったく見えないので、ただただ音が前から横から飛び込んでくる感じ。だが、この雨あられのように降り注ぐ、音色にただただ驚嘆するばかり。

あとから考えると、ドール効果がかなりあったに違いない。あれだけ突き抜けた音がホルンから出てくれば、他のセクションも負けるわけにはいかないと思うはず。矢部コンマスの気合もひしひしと伝わって来た。

パーヴォの機能的で理知的なアプローチよりも、アランの指揮はより抒情的というか聴き手の五感に訴えるところが大きい気がした。アルプス登山のプロセス、山の様子が目に浮かぶ解像度がより高い。山頂のクライマックスなどはエクスタシーそのものだった。見た目で判断してはいけないだろうが、堂々とした体躯とプレイヤーに向き合う姿勢がとっても安心感と信頼感を誘うのだ。

あっという間の50分で曲が終了した時には、もう心身ともにへとへと。登った経験も無いのだが、アルプス登山をやり切った感が、単に座って聴いているだけなのに生まれる。充実感一杯の気持ちに満たされた。

カーテンコールでは私も大きな拍手を寄せたが、中でも驚いたのは、ステージに現れたバンダ隊。なんと、総勢20名ぐらいいる大部隊。座席が近いので、一人ひとり良く見えるのだが、若い(それも女性)奏者が多い。こんなに多くのバンダ隊もあの名演奏を後ろから支えていたのねと思うと、拍手も1.5倍強となった。

相当年の記憶に残ることが想定される、ヤバい演奏会であった。もともとの約束がキャンセルになって大感謝。

第979回定期演奏会Aシリーズ

日時:2023年7月19日(水) 19:00開演(18:00開場)
場所:東京文化会館

出 演
指揮/アラン・ギルバート
ホルン/シュテファン・ドール

曲 目
ウェーベルン:夏風の中で―大管弦楽のための牧歌   
モーツァルト:ホルン協奏曲第4番 変ホ長調 K.495
R.シュトラウス:アルプス交響曲 op.64

Subscription Concert No.979 A Series
Date: Wed. 19. July 2023 19:00 (18:00)
Venue: Tokyo Bunka Kaikan

Artists
Alan GILBERT, Conductor
Stefan DOHR, Horn

Program
Webern: Im Sommerwind
Mozart: Horn Concerto No. 4 in E-flat major, K.495
R.Strauss: Eine Alpensinfonie, op.64

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これはお勧め: 映画「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」

2023-07-19 07:30:35 | 映画

職場の同僚2人が劇場で見て激賛していたのを昼飯時に聞いていた。

久しぶりにPrime Videoを覗いたらもう上がっていて、早速視聴。

ワールドベースボールクラッシックにおける日本チームの選手選びから優勝までの舞台裏を追ったドキュメント。改めて軌跡を追うとこの大会、筋書きのないドラマそのものだ。また、映像がベンチ目線なので、TVカメラのアングルとも異なり、リアルな臨場感が凄まじい。これは劇場で見るべきだったと思う。

大谷翔平をはじめとして、プロフェッショナル中のプロフェッショナルの、野球に向き合うスタンスや生き様が伝わってくる。緊張と期待を背負って、自分の記録よりもなにしろチームの勝利を優先して戦うプロフェッショナルたち。チームスポーツの最高レベルの世界がある。

個人的に印象的だったのは、栗山監督のリーダーシップ。熱い思いはもちろんのこと、あえてキャプテンを置かないチーム創り、各球団から預かった選手たちへの気遣い、正直で謙虚なコメント。ワールドカップサッカーの森保監督にも感じたが、時代とともに求められるリーダーシップが大きく変わってきているのを実感する。マッチョでカリスマなリーダーから、選手をリスペクト、信頼し、その力を引き出すリーダー。もちろん、こうしたリーダーが機能するのは、自律したプロのフォロワー(選手)が必要だと思うが、リーダーとフォロワーのあるべき関係性を見る気がした。

 

監督:三木慎太郎
撮影:三木慎太郎
主題歌:あいみょん
ナレーション:窪田等

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ビンゴ! 自噴の源泉かけ流し 深雪温泉 @石和温泉郷

2023-07-17 07:26:49 | 旅行 日本

所用で山梨県の石和温泉郷近くに出かけたので、温泉でも浴びて帰ろうということで、日帰り温泉施設を検索。ここが良さそうということで、深雪温泉という旅館の日帰り入浴サービスを利用しました。旅館のHPによると「1分間に1,415㍑(ドラム缶7本分)の豊富な湧出量の新鮮な自噴源泉を各浴槽に直接配管し、循環・加熱・加水・塩素滅菌を一切しない極上の100%源泉かけ流しが堪能できます。」

「(この日の)殿方は柿の湯へ」とご案内された、お風呂は大きな内風呂と同じくらい大きい露天風呂。2つの湯口があって、それぞれ源泉温度50.8度の熱い「完の湯」と源泉温度36度のぬるめの「熟の湯」がとうとうと流れ出て、湯船で混ざり合って適温になっているという仕組み。2つ合わせて「完熟の湯」と呼んでいるとか。内湯ではもったいないほど湯船からお湯があふれ出していて、源泉かけ流し感満載です。

お湯は無色透明、アルカリ性のしっとりやわらかいお湯で、肌にも優しそう。飲用にも天然のミネラルウォーターとして最適とのことで、温泉口から流れ出るお湯を掌で受け止め、熱いお湯、ぬるいお湯の双方を頂きました。

3連休中であるにもかかわらず、お昼時だったこともあってか、湯船には常時私一人か、多くて3人。湯船をほぼ独占し、お湯が湯船に注がれる音に耳を傾け、ゆったりしました。露天風呂も壁に囲まれているので眺望を楽しむということはできませんが、お湯をじっくり楽しむ、味わい、静かに気持ちを落ち着けさせるには最高の環境です。

石和温泉と聞くと、昭和サラリーマンの残党としては、鬼怒川、熱海と合わせての職場温泉旅行のイメージが強いし、最近はお湯もあまりでなくなったみたいな話も耳にしたのですが、しっかりした良い温泉はあるものですね。日帰り入浴は1時間半で1300円(最近、値上がったらしい)。この値段で、これだけのお湯と環境が楽しめるのは有難いです。

残念ながら、館内にはお休み処的なところは無いので、ロビーにソファーが何セットかありますので、そこで上がった後はちょっと一休み。

初訪問の温泉は期待以上に素晴らしいものでした。受付のおねえさんの対応も感じいいです。また、近くに来たら寄ってみたいです。

2023年7月15日 訪問

(深雪温泉の後、300mほど行ったところのそば処幟(のぼり)へ)

山梨のお蕎麦なので、勝手に黒くて太い蕎麦と勝手に想像してたら、東京のそば屋さんのような白くてそうめん並の細い麺でした。味はしっかり美味しかったです。

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日本の漂泊民について知ってますか?:筒井 功 『漂泊民の居場所』 (河出書房新社、2023)

2023-07-15 07:39:22 | 

半世紀余り前までは日本の至る所に存在していたという近代日本のアジール(漂泊民が集まって暮らす一角)を訪ね、そうした区域や漂白民の実像について探求したノンフィクション。『日本のアジールを訪ねて』(2016年刊)に1章を加え、増補改題したものとのことだ。偶然、図書館の新刊本にあったのを手に取った。

筆者の並々ならぬテーマに対する熱意が、関係者への聞き取りを含むフィールドワークや文献調査によって示される事例や考察から感じられる。読み易いが、内容は重い。

日本におけるえた・ひにん等の被差別民については、日本史としての学習と、現代における人権問題として社会人研修の中で、基礎知識は持っているつもりであった。ただ、漂泊民という切り口でテーマについて触れたことは無かった(小説や映画「砂の器」で描かれるように、昔はハンセン病患者さんが土地を追われ漂泊生活を送っていた程度の知識)。ましてや、リアルな生活等については全く知ることは無かったので、本書は私にとって新しい情報多く、驚きの大きい書物だった。

筆者は、「サンカ」(日常用語では「ミナオシ」「テンバ」「ヒニン」等まで広がる)と呼ばれる漂泊民を「箕、筬、川漁などにかかわる無籍・非定住の職能民」と定義し、その歴史や実像を淡々と追いかける。山里、川沿いの小屋や洞穴に住み、職能を頼りに、国家の枠組みの外で生きていく人々だ。様々な差別も受けてきた。筆致は極めて客観的で、個人的な感情は排されている文体は、逆に読者にその受けとめ、スタンスを問われる。

以前読んだ松岡正剛氏の『日本文化の核心』では、本書でも使われる「漂泊」「流民」という用語を、中世以降、日本文化の中心となる価値観につながっているコンセプトとして紹介していた。「漂泊民」にも様々な類型があるであろうから、一概に一緒にはできないであろうが、明と暗の大きな違いに戸惑う。

読者として本書をどう受け止めるたら良いのか?は正直、戸惑う。とりあえず、本書でも引用されている宮本常一の著作にも手を伸ばしてみよう。

 

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大雄山最乗寺でいっぱいのパワーをもらう @南足柄市

2023-07-12 07:10:43 | 旅行 日本

以前、小田原で購入した大雄山天狗饅頭という一口サイズの饅頭が随分と美味だった。大雄山とはどこにあるかを調べたら、小田原から北方向の南足柄にある。そして、その山には最乗寺という「曹洞宗に属し全国に4000余りの門流をもつ寺」があることを知った。広大な境内と、天狗やパワースポット、そしてこの季節は紫陽花の名所としても名が売れているということで、梅雨の合間の日曜日に訪ねてみた。

公共交通機関だと、小田原駅から大雄山線に乗って終点の大雄山駅から更にバスに乗るのだが、今回は車でGo。

本堂の手前3キロほどのところに仁王門がある。安政元年(1854)建立で、最乗寺最古の建物とのことだ。紫陽花の紫と仁王門の鮮やかな赤のコントラストが美しい。仁王門からは、天狗の小路という路が参道的に境内に向かって伸びている。杉並木の中、紫陽花が咲き、絶好の散策道だ。幸か不幸か、参拝者用の駐車場が境内に隣接して用意されているため、私は車を止めてこのあたりの雰囲気だけ味わって、境内に向かった。



小田原から離れた山の中に良くこんな大きな敷地の寺を建てたものだ(比叡山などもっと山中の寺はたくさんあるが・・・)と感心しながら、巨木の杉並木を通って、境内に入る。


(立派な杉並木)

本堂に入る。建物としては昭和29年再建。とのことなので、歴史的建物というほどではないが、畳を引き締めた広間に座ると暑さも和らぎ、心身が落ち着く。御本尊は 釈迦牟尼仏、脇侍仏として文殊、普賢の両菩薩が祭られているが、離れているし、さほど大きな仏像ではないので、暗闇の先に確かにいらっしゃる程度にしか見えない。


(本堂)

本堂を出て、奥の院を目指す。途中で、天狗の里らしい、高下駄が置いてある。奥の院へは350段あまりの急こう配な階段が控えている。階段の入り口には天狗さんが守護侍として立っている。階段を一気に上る。踊り場無いので、ひたすら上った。奥の院の祠はこじんまりとしていて、数人入れる程度。御本地十一面観世音菩薩が祀られている。お堂横の売店から流れるラジオ放送が興覚めだった。


(天狗さんの高下駄)


(奥の院へ続く階段、入り口に天狗さま)


(奥の院)


(紫陽花が美しい)

復路は350段の階段を降りる。下りはあっという間だが膝に来た。御真殿(妙覚宝殿)に立ち寄り、当山守護妙覚道了大薩埵をご本尊に大天狗・小天狗が両脇侍として祀られている。


(御真殿(妙覚宝殿))

この寺は奈良とは違って、お堂や仏様を鑑賞するというよりも山全体に広がる境内の神聖さを体いっぱいに受け止める場だ。パワースポットというよりも体が清められる感じがした。

なんだかんだで1時間半以上滞在したので、お腹もすいたことだし、山を下りる。昼食は仁王門の横にある例の饅頭屋さんで懐石料理を提供しているとのことだったので、お土産買いがてら、食事しようかと思いきや、13時半も廻っていたこともあり、すでに当日分は売り切れとのこと、あきらめて、大雄山駅隣接の駅ビル1階に入る蕎麦屋さんはつねへ。あの箱根湯本にある有名店の姉妹店がこちらにも出店しているのだ。おいしい野菜天せいろを頂き、大満足であった。


(はつねさんの野菜天そば)

東京からここを目指して単発で来るのも良し、小田原観光や箱根観光と組み合わせても良い。日本の観光産業の貧しさで、小田原では小田原、箱根では箱根の名所が観光パンフのメインになるので、南足柄に位置する大雄山最乗寺は意外と知られてない気がする。今度は紅葉の時期に来てみたい。

2023年6月25日訪問

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当たり前だがN響以外も素晴らしい!:日本フィル/指揮 広上淳一/レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》(演奏会形式)

2023-07-09 07:30:07 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

過去からのご縁もあり、今、定演の会員になっているのはN響だけになっているのですが、7月はN響定期のオフシーズンにあたるので、他のオーケストラを聴く良い機会にしています。今回は数年ぶりに日本フィルの演奏会に足を運びました。

プログラムはレオンカヴァッロの歌劇《道化師》(演奏会方式)の一本勝負。有名な「衣装をつけろ」は知っていますが、通して聴くのは初めてです。

広上さんの指揮の下、歌手陣、合唱、オケが高いレベルでまとまっていて、素晴らしい公演でした。

特に印象的だったのは、カニオ役の笛田博昭による「衣装をつけろ」の入魂の歌唱。愛する妻の浮気を知りつつ、舞台の上では笑いを取る道化を演じる哀しさを、120%の投入感で情感豊かに歌ってくれました。終わるや否や、会場からはブラボーの大歓声。納得です。私は初めて聴く方でしたが、今後、要マークですね。

透明感あふれるベッペ役小堀勇介さんのテノールを初め、ネッダ役の竹多倫子さん、トニオ役の上江隼人さんなど、他の独唱陣もとっても充実していて、舞台がとっても引き締まっていました。

加えて、東京音楽大学と杉並児童合唱団のコーラスの美しさが出色。声が良く出ていて、ホール一杯に響きます。第1幕の前半部分の合唱に聞き惚れてしまい、こんな合唱を聴けただけでも来た価値あったと思った程でした。

広上さんの指揮は久しぶりですが、相変わらず音楽と一体化した指揮で、オケ、歌手、合唱をまとめ上げる職人芸は素晴らしいです。ステージ奥席ではないので表情は見えませんでしたが、杉並児童合唱団の子供たちが終始指揮者からじーっと目を離さずとっても嬉しそうな(笑い)顔でいるのを見て、きっと広上さんの顔芸を楽しんでいるのだろうと推察。

オケも的確に反応し、ダイナミックな愛憎劇を創り上げてくれました。演奏会方式なのでより楽曲の重層性、個々の演奏やアンサンブルの美しさが引き立ちます。

終演後、大きな感動に包まれたホールからは暖かく大きな拍手喝さい。客層も雰囲気もN響の定演とはかなり違いアウエイ感は満載でしたが、そうした違いも楽しいです。1週間がぴしっと締まった気持ち良い金曜の夕べとなりました。

※指揮台の高さにも注目ください。

2023年7月7日 (金)
19:00 開演( 18:20 開場 )

サントリーホール

指揮:広上淳一[フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)]

カニオ:笛田博昭 
シルヴィオ:池内響
ネッダ:竹多倫子 
ベッペ:小堀勇介
トニオ:上江隼人 

合唱:東京音楽大学 児童合唱:杉並児童合唱団

レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》(演奏会形式)

Fri, July 07, 2023
- Start 14:00 ( Doors Open 18:20 )

Suntory Hall

Conductor: HIROKAMI Junichi, Friend of JPO/Artistic Advisor

Canio: FUEDA Hiroaki 
Silvio: IKEUCHI Hibiki
Nedda: TAKEDA Michiko 
Beppe: KOBORI Yusuke
Tonio: KAMIE Hayato

Chorus: Tokyo College of Music
Children Chorus: Suginami Junior Chorus 

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ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』 (ハヤカワ文庫SF、2019)

2023-07-07 07:33:34 | 

数年前に、人類と地球外生命体との接触を描いた劉慈欣『三体』を読んで、そのスケールの大きさや、知的好奇心を刺激される様々な切り口がとっても印象的であった。(もっとも『三体』は三部作の第一部を読んだだけないので、読んだことにはならないかもしれない)そして、SF小説を通じて、現代中国の作家たちが思い描く世界観や技術観をもう少しのぞいてみたいという興味が湧いた。

なかなか実行に移せなかったのだが、ようやくこの1冊を読むことができた。手軽に複数の作家の作品を体験したく、短編集を選んでみた。中国人SF作家7名、計13作品を集めたこのアンソロジーは、それぞれの作品が、異なった作風で違った魅力を放っていて、SF小説好きには自信を持ってお勧めできる作品集だ。

遺伝子操作された鼠ロボットの駆除、ロボット・AIで管理された町、幽霊たちのコミュニティ、AIと老人の交流、言論・思想の自由を奪われた国に生きる人間、秦の始皇帝の命により三百万の兵士でコンピュータの原型を作り上げた学者、「三体」の元ネタとなった異星からの侵略などなど、実に多彩な世界やテーマが扱われる。

中国人作家によることがどれだけ作品に影響を与えているのかどうかは、私には判別不可能だが、唸らせられる奇想が一杯ある。自分自身の思考実験装置としても面白い。

現代中国版『1984』とも言える馬伯庸「沈黙都市」や、街が折り畳められることで時空を分割した並行社会が併存する郝景芳「折りたたみ北京」などは、ハードタッチなSF王道的な作品で良かったが、個人的好みとしては、「ゲゲゲの鬼太郎」の世界観にかなり似通った印象を持った夏笳「百鬼夜行街」のほのぼのとした作風が魅力的だった。

巻末には本書にも作品が掲載されている3名の作家による、現代中国SF論とも言えるエッセイが寄稿されており、中国SFの立ち位置が理解できる。

図書館で借りて読み始めた本だが、手元に置いておきたく、読後すぐにアマゾンでぽちった。

 

【収録作品】

序文 中国の夢/ケン・リュウ

鼠年/陳楸帆

麗江の魚/陳楸帆

沙嘴の花/陳楸帆

百鬼夜行街/夏笳

童童の夏/夏笳

龍馬夜行/夏笳

沈黙都市/馬伯庸

見えない惑星/郝景芳

折りたたみ北京/郝景芳

コールガール/糖匪

蛍火の墓/程婧波

円/劉慈欣

神様の介護係/劉慈欣

エッセイ/劉慈欣、陳楸帆、夏笳

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ビル・パーキンス (著), 児島 修 (翻訳) 『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ダイヤモンド社、2020)

2023-07-05 07:19:39 | 

無駄遣いをする必要はないが、ただ無駄に貯蓄することも人生にとって望ましくないということを気づかせてくれる一冊。

私自身、若い時からモノ消費には殆ど関心が無くて、今でいうコト消費主義だったので、本書の主張は首肯できることばかり。漠然と感じていたことを言語化されていたり、新しい気づきも得られた。

以下、いくつか、激しく同意した点(★)、新しく気づかされた点(☆)を抜粋。

☆経験から得る価値は、時間の経過とともに高まっていく。これを「記憶の配当」と呼ぶ。(お金を払って得られるのはその経験だけではなく、その経験が残りの人生でもたらす喜び、つまり記憶の配当も含まれている。)
★最大限に人生を楽しむ方法は(経験)を最大化すること。 人生は経験の合計である。
★莫大な時間を費やして働いても、稼いだ金を全て使わずに済んで死んでしまえば、人生の貴重な時間を無駄に働いて過ごしたことになる。その時間を取り戻す術は無い。 ( 今の生活の質を犠牲にしてまで、老後に備えすぎるのは、大きな間違い)
☆どんな経験でも、いつか自分にとって人生、最後のタイミングがやってくる。私たちは皆、人生のある段階から次の段階へと前進し続けるが、ある段階が終わる事で、小さな死を迎え、次の段階に移る
☆タイムバスケット(時間軸付きのバケットリスト)は、人生に対して積極的なアプローチが取れる。残りの数、10年の人生を5年、80年の単位で分け、期間内にやりたいことを実現させていく。 
☆寄付も財産贈与も生きているうちにやるべき
★経験を楽しむには、金だけではなく、時間と健康も必要だ。老後資金を必要以上に増やそうと働き続けると、金は得られても、それ以上に貴重な時間と健康を逃してしまうことになる

具体的にはキャッシュフローをマイナスに持って行く手法(0で死ぬためにお金を減らす方法)も解説されているが、まあここにこだわる必要はないだろう。

「仕事こそ人生の経験値として大きな意味がある」と考える、ある意味とっても幸せな人にも、その考えの盲点が指摘されている。最後は人それぞれの価値観なので、良い・悪いは無いと思うが、違った角度で自分の価値観を見直すのも意味がある。

ある一定の年齢(50ぐらい?)を超えた人にはとっても有効なアドバイスだと思う一方で、若い人への受け止められ方は微妙な気がした。

「仕事もしたいし、家族も大事にしたい、そんな自分のことばかり考えてられないよ。」「ゼロで死ぬどころか、今の生活と多少の老後の備えで手一杯だよ。」そんな声は聞こえてきそうだ。ただ最近の投資ブームや老後資金2000万円問題などの背景も考えると、本書は共感できる人と必ずしもそうではないと感じる人に分かれるかもしれない。

いずれにせよ、自分の人生について過去・現在・未来を考えさせられる主張であり、一読をお勧めできる一冊だ。

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イギリス音楽をイギリスの楽団、日本人の指揮で聴く:山田和樹 指揮、バーミンガム市響、エルガー交響曲第1番ほか

2023-07-02 07:30:25 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

私にとっては年1度あるかないかの、外オケの来日公演体験。今回のバーミンガム市響には、私がロンドン駐在時にブログを通じて知り合ったお友達の息子さんがヴィオラのメンバーとして参加しています。これは行かねばなりません。

また、私にとっても、このバーミンガム市響はサイモン・ラトル指揮でバッハ「マタイ受難曲」を聴きに行き(2010年3月)、一生の宝となる演奏会体験があった思い出の楽団です(帰りのロンドン行終電を逃した上に市街で宿が見つからず、満員だったホテルのフロントのお兄さんの協力で郊外のホテルを見つけタクシーで辿り着くというおまけつき)。現在、山田和樹さんが首席指揮者としてリーダーシップをとっていることも加わって、色んな意味で大きな楽しみの「凱旋」公演でした。

前半はショパンのピアノ協奏曲 第2番。私には実演で聴くのも、ソリストのチョ・ソンジンさんも初体験です。チョさんの演奏は、これぞショッパンと言わんばかり。その端正かつ優美なピアノの音色に痺れました。ピュアでとっても優しいのです。

この日は1階最後方に近い席だったのですが、ピアノの音が体に染み込むように飛んできます。普段、N響B定期でステージ奥P席からピアノを聴くことが多く、音を追いかけるような鑑賞に慣れきれない私には、前方から飛んで来る音はとっても心地良いものでした。

遠目なのですが、チョさんの落ち着いたステージマナーも好感持てます。韓国の方と思われる女性ファンも多数集い、終演後は熱烈な拍手が寄せられます。アンコールのラヴェルはショパンとは打って変わった切れ味鋭い音楽で、技巧をこらします。ショッパンとは違った、チョさんのピアノ演奏が楽しめました。

後半はエルガーの交響曲第1番。イギリス人作曲家の作品をイギリスの楽団に向かって、日本人指揮者が振るって、相当、勇気がいることではと想像します。が、ヤマカズさんには全くそんなことないようで、演奏前のプレトークでは、「今回のツアーでは何が何でもエルガーをやりたいと企画サイドにねじ込んだ」との紹介がありました。まさに、その心意気通りの、ヤマカズとオケの気持ちが入った素晴らしい演奏でした。

私自身はこの曲も初めてで、事前にYoutubeで1度聴いてはみたものの、どこかつかみどころがない印象でした。今回の演奏で分かったとはとても言えないものの、ロマンティックで変化に富んだ音楽を堪能することができました。

全曲を通じて現れる雄大なモットー主題や、ヤマカズ曰く「スターウォーズ」というスケルツオなど、変化に富み聴きごたえあります。更に、第3楽章アダージョの優しい美しさは格別で涙が出てきました。イギリス音楽という先入観なのか、聴いていて不思議にイギリスを感じました。

バーミンガム市響は外オケらしい迫力ある重厚なサウンド。アンサンブルの緻密さなどは普段聴いているN響の方が一枚上手なような気もしなくもありませんが、プレイヤー一人一人の個のぶつかり合いをリアルに感じる興奮は、N響とは違った楽しさでした。

終演後の大きな拍手を受けてのアンコールはウォルトンの映画「スピットファイア」より前奏曲。ノリノリの大爆音でのお祭り演奏で、演奏も良かったし、会場も大盛り上がりだったのですが、私はエルガーの余韻に浸っていたかったので、ちょっと蛇足的に感じてしまいました。

バーミンガム市響は、団員のみなさんから気取りが無くリラックスした雰囲気が感じられ、好感持てます。ヤマカズさんもオケと良い関係を築いている様子が伺われ、嬉しいです。私にとっては、プレミアリーグの中位にいるチーム(失礼しました)の監督を日本人がやっているということと同じです。海外でリーダーシップを発揮する日本人であるヤマカズさんを大いに応援しましょう。

とっても満足度高く、幸せな気持ちで会場を後にしました。

 

日時:2023年6月29日(木) 19:00
会場:サントリーホール Suntory Hall
出演
山田和樹 Kazuki Yamada (首席指揮者兼アーティスティックアドバイザー, Chief Conductor & Artistic Advisor
チョ・ソンジン Seong-Jin Cho (ピアノ, Piano)
バーミンガム市交響楽団 City of Birmingham Symphony Orchestra

ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op. 21 [ピアノ] チョ・ソンジン
エルガー:交響曲 第1番 変イ長調 Op. 55

(アンコール)
ラヴェル:道化師の朝の歌 ※チョ・ソンジン ソリスト・アンコール
ウォルトン:映画「スピットファイア」より前奏曲 ※オーケストラ

Kazuki Yamada, City of Birmingham Symphony Orchestra
Seong-Jin Cho, Piano

Date: 2023/6/29(Thu) 19:00
Venue: Suntory Hall

Artists
Kazuki Yamada, Chief Conductor & Artistic Advisor
Seong-Jin Cho, Piano
City of Birmingham Symphony Orchestra

Chopin: Piano Concerto No.2 in F minor, Op. 21 [Piano] Seong-Jin Cho
Elgar: Symphony No.1 in A-flat major, Op. 55

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