その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

都響 「作曲家の肖像」シリーズVol.102《北欧》/ 指揮 アイヴィン・オードラン @東京芸術劇場

2015-04-30 08:19:25 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 今回の「作曲家の肖像」シリーズは北欧の作曲家の曲を集めたプログラムです。指揮もノルウェイ人のアイヴィン・オードランさん。私は初めての方です。かなりの早歩きでステージ上を歩いたり、指揮台に飛び乗ったりする姿は、後期シニア指揮者が中心のN響を見慣れた私には新鮮です。

 オーランドさんはオーソドックスながら非常にクリアで見通しの良い音楽作りで、都響も概ね安定した演奏で楽しめました。一番印象的だったのは、やっぱり後半の「ペール・ギュント」でしょうか。今回は劇音楽版と組曲を組み合わせ、筋立てを踏まえた抜粋版の演奏でした。私は組曲しか聞いたことが無かったですので抜粋版とは言え新鮮でしたし、ソルヴェイグを歌った小林沙羅さんの歌唱がとっても良かったです。純白のドレスを着た小林さんのソプラノは、派手なところや奇をてらったところが無く、自然で透明感ある清らかな美声で、しみじみ聞き惚れました。一度、劇音楽として合唱等も入れた全編を聞いてみたいものです。

 前半も《フィンランディア》は重厚かつパンチの効いた演奏で、この曲の良さを堪能。都響は管と弦のバランスが良く、ハーモニーがとても美しかったです。冒頭のアルヴェーンの《祝典序曲》は祝典音楽らしい賑やかな曲。ニールセンの序曲《ヘリオス》はちょっと集中力を失い、ウトウトしてしまったのですが、最後に音が鳴りやもうとする間での超フライング・ブラボーがあり、これにはかなり興を削がれました。都響の聴衆マナーは良いと聞いていますが、これほどのフライングは私も経験が無いぐらいでがっかり。

 全体としては、肩ひじ張らず、リラックスしながらもハイレベルな演奏が楽しめた満足度の高いコンサートでした。



「作曲家の肖像」シリーズVol.102〈北欧〉

日時:2015年4月29日(水)14:00開演(13:20開場)
場所:東京芸術劇場コンサートホール

指揮/アイヴィン・オードラン
ソプラノ/小林沙羅 *

アルヴェーン:祝典序曲 op.25
ニールセン:序曲《ヘリオス》 op.17
シベリウス:交響詩《フィンランディア》 op.26
グリーグ:劇音楽《ペール・ギュント》 op.23 * (全曲版より抜粋)


"Portrait of Composers" Series Vol.102

Date: Wed. 29. April 2015, 14:00 (13:20)
Hall: Tokyo Metropolitan Theatreseat

Eivind AADLAND, Conductor
KOBAYASHI Sara, Soprano *

Alfvén: Festspel, op.25
Nielsen: Helios Overture, op.17
Sibelius: Finlandia, op.26
Grieg: Peer Gynt, op.23 * [excerpts]
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大英博物館展 ー100のモノが語る世界の歴史 @東京都美術館

2015-04-27 22:55:43 | 美術展(2012.8~)


この企画が日本にやってくると知った時は狂喜した。ロンドン滞在時に、あの広い大英博物館の所々に散っている「100 Objects」の全件鑑賞のために、週末の空き時間を見つけては何度も通い、館内をうろついたからだ(100 Objectsの展示箇所には、通常の解説のほかに目につきやすいように専用の解説ボードが設置してあったのだが、それでもなかなか分かりにくい場所にあるものもあった)。丁度、部屋ごと長期改修中(当時Room2や90は閉鎖中だった)で鑑賞不能な展示物や他の博物館へ貸出し中の物もあったから、結局100件中鑑賞できたのは85件だった。それが、こちらから探す必要なしに、イギリスからやって来て一堂に会する。なんて素晴らしい企画なのだろう。

 なので、この展覧会を知ってすぐに、割安なペア前売り券を買っておひとり様の2回訪問を計画。そして、さっそく会期開始早々に出かけたわけである。開催間もないことと、夜間開館時間帯だったこともあり、人と押しあったり、ぶつかったりすることもなく余裕を持って見られた。

 200万年前から現代に至るまでの人類の歴史を100個の品で語ってしまうという凄い企画であるから、一つ一つがとても見応えがある。「オルドヴァイ渓谷の握り斧」、「ウルのスタンダード」、「イフェの頭像」など、当地で食い入るように眺めた品々との再会は、自己満足であることは承知しながらも何とも感動的だった。


「オルドヴァイ渓谷の握り斧」・・・紀元前140万~前120万年。タンザニア。


「ウルのスタンダード」・・・紀元前2600~前2400。イラク。モザイクで飾られた木製の箱。


「イフェの頭像」・・・西暦1400~1500年。ナイジェリアの真鍮の像。
 
 現地で見られなかった15点のうち、「鳥をかたどった乳棒」、「ムガル王子の細密画」、「ハワイの兜」、「ホックニー作『退屈な村で』」などが見られたのも嬉しかった。


「鳥をかたどった乳棒」・・・紀元前6000~前2000年。パプアニューギニアから出土の石の乳棒。


「ムガル王子の細密画」・・・西暦1610年ごろ。インドの紙に描かれた絵。


「ハワイの兜」・・・西暦1700年~1800年。ハワイ。羽根で作った兜。


「ホックニー作『退屈な村で』・・・1966年。イギリス。銅版画。

 一方で、「まさかあの100点が全部来るわけでは無いだろうなあ〜」とは想定していたものの、やはり来ていないものも多くあった。特に、「サットン・フーの兜」、「ウォレンカップ」、「双頭の蛇」が無かったのは、期待していただけにちょっとがっかり。アウグストゥス帝の胸像も大理石版が展示してあったが、100点に指定されていたのはブロンズ像だったし、ターラー菩薩像も私が見た金ぴかの像とは違っていた。まあ、あの100点を全部外に出しちゃったら、大英博物館を訪問した人が怒り出すだろうからしょうがないか。期待がちょっと大きすぎたな。それでも、今回展示のうち3分の2近くは、大英博物館の100 Objectsと同じものだった。


「サットン・フーの兜」・・・西暦600~650年。イングランドで出土したアングロサクソンの兜。


「ウォレンカップ」・・・西暦5~15年。エルサレム近くで出土した器。同性愛を描いている。


「双頭の蛇」・・・西暦1400~1600年。メキシコ。モザイク装飾された像。

 その分、「ミトラス神像」、「カナダ先住民のフロックコート」など、新しく見たもので気に入ったものもあったので、合い打ちといったところか。もっとも、100点に指定されているされていないに関わらず、大英博物館の品々はどれも貴重なものが多いので、私のように変に凝りさえしなければ、一点、一点、見応え満載のホンモノが堪能できる。

 是非、一人でも多くの人に見てもらいたいと思う。

 東京都美術館にて6月28日まで。
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池田信夫 『日本人のためのピケティ入門』 (東洋経済新報社)

2015-04-25 05:57:38 | 


ようやくブームも落ち着いてきた感があるフランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』についての解説本。副題に「60分でわかる『21世紀の資本』のポイント」とあるように、英訳で700ページにわたる専門書を約十分の一の77ページにまとめている。著者は、ネット上の言論界で頻繁に物議を醸すお騒がせ者の池田信夫氏。彼の言説はなるほどと思わせるところも多いのだが、ネット上での彼の頻繁な個人攻撃の文体を読んでいると、人格的には崩壊しているように見受けられる。

著者の人格は差し置いても、本書は『21世紀の資本』をわかりやすくまとめてくれている(ように見える)。資本主義の根本的矛盾はr(資本収益率)>g(国民所得成長率)で表され、すなわち「資本家のもうけが一般国民の所得の伸びより大きく増えるので格差が拡大する」というのがそのエッセンス。本書の前半はその意味するところの解説、後半には3つの論点(①格債は拡大してきたのか、②何が格差の原因か、③格差をいかに防ぐか)について解説している。

私自身、まだ原本をまったく目を通していないので、本書が的確な解説本なのかどうかは判断できないが、流行りの経済理論のさわりを手早く知っておきたい私のような人には良いと思う。アベノミクスへの批判など筆者の我田引水的な記述もあるが、毒はかなり抑えられている。



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映画 『パレードへようこそ』 (監督マシュー・ウォーカス)

2015-04-22 00:33:04 | 映画


 私のツボにぴったりと嵌った映画。1980年代のサッチャー改革を背景にした、登場人物それぞれの成長ドラマであり、家族愛のドラマであり、友情・団結のドラマであり、社会派ドラマである。

 シネマトゥデイから作品紹介の冒頭を引用すると「ストライキ中の炭鉱労働者支援に立ち上がったロンドンのLGSM(ゲイとレズビアンの活動家たち)の若者たちと、ウェールズの炭鉱労働者の交流をつづる感動作」。

 原題は「Pride」だが、「パレードへようこそ」という邦題は、この映画の印象的シーンを的確に捉えていて良い。

 実話をもとにしたストーリーが、リアリティ一杯かつドラマティック。そして何よりも、個々の登場人物が何とも個性的。社会のメインストリームからは外れている(外れつつある)人たちが、自信と誇りを持って「闘う」。笑い一杯だし、涙もある。そして観終わった時には元気が出る。

 イギリスが一杯詰まってる。ゲイ・レズビアン(前職のロンドンの職場にでもカミングアウトしている人が何人もいた)、チャリティー文化(イギリス人の生活に根付いてる)、サッチャー改革(この時代は良くも悪くもイギリスを変えた)、ウエールズの自然・誇り(職場でもウエリッシュのプライドは何度も聞かされた)、パブ(1パイントのグラスに焦げ茶色のエール)・・・。

 これは是非、皆に見てほしい。東京では今のところシネスイッチ銀座だけでの上映。




スタッフ
監督マシュー・ウォーカス
製作デビッド・リビングストン
制作総指揮キャメロン・マクラッケン/ クリスティーン・ランガン/ ジェームズ・クレイトン

キャスト
ビル・ナイ: クリフ
イメルダ・スタウントン: ヘフィーナ
ドミニク・ウェスト: ジョナサン
パディ・コンシダイン: ダイ
ジョージ・マッケイ: ジョー

作品データ

原題: Pride
製作年: 2014年
製作国: イギリス
配給: セテラ・インターナショナル
上映時間: 121分

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N響 4月定期Cプロ/ 指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ/ 交響組曲「シェエラザード」 ほか

2015-04-19 20:18:18 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

《若葉が少しづつ芽を出しているNHKホール前》

 ラフマニノフのヴォカリーズにピアノ協奏曲2番、そしてリムスキー・コルサコフの交響組曲「シェエラザード」と人気曲プログラムのためか、大NHKホールが完売のコンサートとなりました。指揮のウラディーミル・フェドセーエフさんは、私は初めてですが、以前、東フィルの首席客演指揮者も務めるなど日本ではなじみの方のようです。既に80歳を超えられ(1932年生まれ)、一時体調を崩されていたこともあったらしいですが、この日の姿は元気に見受けられました。ステージに現れたフェドセーエフさんを迎える会場からの拍手も大きく暖かいものでした。

 一曲目のヴォカリーズを生で聴くのはきっと初めて。N響らしい弦のアンサンブルと所々で入る木管の調べが何とも美しかったです。

 二曲目は、金色っぽい下地にラインの入った艶やかなドレスで現れたアンナ・ヴィニツカヤさんの剛と柔を兼ね備えたピアノ独奏が印象的でした。感傷的に寄ることなく、力強くしっかり音楽に音楽を語らせる。そんな演奏です。バックで支えるN響の演奏は重厚で大きくピアノを包み込みますが、ピアノは決してオーケストラに負けません。そのコラボが何とも心地よい。協奏曲の妙を楽しみました。演奏後の大拍手に笑顔で応えるヴィニツカヤさんは、プロフィール写真の鋭い表情とは真反対のチャーミングな笑顔。ファンになりそう。

 休憩後はシェエラザード。この曲をN響で聴くのは確か2度目。間違いなく10年以上前ですが、堀正文さんのヴァイオリンが記憶に残っています。今回のフェドセーエフさんの指揮によるN響による演奏も、マロさんの繊細なヴァイオリンを初め、各パートパートの演奏やアンサンブルを楽しみました。が全体としては、私には、前半部分が随分スローテンポで、抑揚を抑えてあるように聴こえ、もう一つ「千一夜物語」の絵巻的ダイナミックさを感じ取れず、乗り切れませんでした。危うく舟を漕ぎそうになったぐらい。

 ただ、これは単なる個人の好みの問題でしょう。終演後の満員の会場からの拍手は止むことなく、フェドセーエフさんは何度も呼び出されていました。N響メンバーからもリスペクトに満ちた賞賛に加え、花束も贈呈されて、双方の良い関係も伺われます。フェドセーエフさんの指揮は今年11月の定演でも予定されているので、また次回を楽しみにしたいです。


《アンナ・ヴィニツカヤさんのアンコール曲》


第1806回 定期公演 Cプログラム
2015年4月18日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール

ラフマニノフ/ヴォカリーズ
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
リムスキー・コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」作品35

指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ
ピアノ:アンナ・ヴィニツカヤ


No.1806 Subscription (Program C)

Saturday, April 18, 2015 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Rakhmaninov / Vocalise
Rakhmaninov / Piano Concerto No.2 c minor op.18
Rimsky-Korsakov / “Schéhérazade”, sym. suite op.35

Vladimir Fedoseyev, conductor
Anna Vinnitskaya, piano
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小林雅一 『クラウドからAIへ アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』 (朝日新書)

2015-04-16 19:43:41 | 


 人工知能研究、開発の最前線を非常にわかりやすくレポートした本。こうした科学技術ネタを、このように誰にでも分かるように書ける人はなかなかいないと思う。

 興味深かったところをいくつか。

・AI研究は1960年代からいくつかの冬の時代を経て、今、ビッグデータと結びついて大きく飛躍しようとしている。

・現代のAI研究は統計・確率的な考え方をベースとした「技術」を主流として成果を出しているが、自然科学の原理の根本的解明を経ていないの「技術」は邪道で将来的な発展はないとするチョムスキー氏(世界的言語学者)のようなルールベースの古典的AI研究の立場からの批判もある。

・第3のアプローチとして、ニューロンとシナプスから構成される人間の脳の学習プロセスをコンピュータ上に再現しようとする「ニューラル・ネットワーク」があり、最近はディープ・ラーニングとして成果を上げている。

・AIの本質はインターフェイス革命であり、機械と人間の関係を新たな局面へと導く技術である。現代は、人間が機械に合わせる関係から、機械が人間にあわせる関係に転換を遂げようとしている。巨大なビジネスチャンスが開ける可能性と同時に、機械やソフトウエアが人間の手に余る進化や振る舞いをするかもしれない危険性もある。

・AIの発展がもたらす問題点は(1)人間が機械(システム)に依存しすぎることで生じる危険性、(2)人間が機械(システム)に雇用や存在価値を奪われることへの不安に大別される。特に、前者については、ブラックボックス化することでコンピュータが人間を超える能力を得る可能性もある。

 こうまとめて書いてしまうと面白くないが、グーグルの自動運転車、アップルのSir・I 、アイロボット社の家庭用ロボットなどなど、様々な事例もあるので興味深く読めるし、一般化と具体例のバランスが取れているので理解が深まる。

 記述は平易であるが、内容は濃く、テーマは重い。特にこの世の中、グーグル、アップルなどの「技術」がもてはやされる昨今だけに、自分たちが利用している「技術」、これからの「技術」について、本書を読んで客観的に考えてみることは非常に大切。おススメしたい一冊だ。
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N響 4月定期Aプロ/ 指揮:セバスティアン・ヴァイグレ/ ベートーヴェン交響曲第6番 ほか

2015-04-12 22:26:36 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 先週末に東京・春・音楽祭でワーグナー《ワルキューレ》のスーパーパフォーマンスを見せてくれたN響。まだ1週間も経たないうちに、3月はお休みだった定期演奏会が再開。あれだけの長時間でエネルギーを要する演奏会のあと、すぐに気持ちを切り替えてリハーサルとか準備できるものなのだろうか?今日は、消化演奏会になりはしないだろうか。と素人なりに心配しながら臨んだ演奏会。でも、やっぱり余計な心配で、しっかりプロの仕事をしてくれた。

 指揮はドイツ出身のセバスティアン・ヴァイグレ。私は全くの初めてだが、ベルリン国立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを皮切りに、欧州でも名門のリセウ歌劇場やフランクフルト歌劇場の音楽監督(フランクフルトは音楽総監督)を歴任しており、歌劇場でしっかり着実にキャリアを積んでいる。プログラムもベートーヴェンの交響曲第6番と、抜粋版であるが先週に引き続きワーグナー楽劇から2つという、なかなか聴きごたえがある構成。

 歌劇場バックグラウンドという先入観があるからだろうか。冒頭の「田園」では、前半は歌のように音楽が穏やかに優しく流れ、第3楽章以降はダイナミックに動き、まるで物語を読んでもらっているような感覚になる。特に奇をてらったころはないのだが、音楽が自然と体に染み込んでいくような演奏だった。弦と木管の音色の良さが秀逸で、この曲の持つ良さが無理なく表現されていたと思う。

 後半のワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」と「ニュルンベルグのマイスタージンガー」から抜粋版。ここでは、「それはほんとうか」とボーグナーのことば「明日は聖ヨハネ祭」を歌ったヨン・グァンチョルのバスが秀逸だった。太く、威厳ある歌声は広いNHKホールでも響きわたる。この2曲で終わってしまうのが何とももったいなく、続けて聴きたくなる。(昔から不思議なのだが、どうして韓国からはワールドクラスの男性歌手が多く出るのだろう。先週もシム・インスンが素晴らしかったし、ロイヤルオペラでも韓国系の歌手がよく活躍していた。)

 オケも先週の「ワレキューレ」を思い出させる好演だったが、金管陣はもう一つに聞こえた。金管が大活躍するはずの「マイスタージンガー」の前奏曲でももう一つ突き抜け感がなかったし、何より音が雑っぽかった。

 この日は、午前中からの山手線の支柱倒れによる運行止めの影響か、はたまたN響のほかにも4つのオケがバッティングしていた為か、2,3階席には空席が目立った。それでも、会場はそれを感じさせない大きな拍手だったし、それに相応しい演奏だったと思う。セバスティアン・ヴァイグレの指揮はこのプログラムだけのようなのが何とも残念だが、また是非、来日してほしい。


第1805回 定期公演 Aプログラム

2015年4月12日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール

ベートーヴェン/交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」― 前奏曲、「それはほんとうか」*、イゾルデの愛の死
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」― 「親方たちの入場」、ポーグナーのことば「あすは聖ヨハネ祭」*、(第1幕への)前奏曲

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
バス*:ヨン・グァンチョル


No.1805 Subscription (Program A)

Sunday, April 12, 2015 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)

NHK Hall

Beethoven / Symphony No.6 F major op.68 “Pastorale”
Wagner / “Tristan und Isolde” - Vorspiel, ‘Tatest du’s wirklich?’*, Isoldes Libestod
Wagner / “Die Meistersinger von Nürnberg” - Aufzug der Meistersinger, Ansprache des Pogner: ‘Das schöne Fest, Johannistag’*, Vorspiel (I. Aufzug)

Sebastian Weigle, conductor
Kwangchul Youn, bass
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オペラ 《運命の力》/ ヴェルディ @新国立劇場オペラパレス

2015-04-09 22:47:23 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


ヴェルディの主要オペラは殆ど観ているのですが、《運命の力》はこれまで機会がなく初めてです。事前にあらすじをチェックしたら、ある女性を巡って、恋人が偶然にその父親を殺してしまい、仇討ちに来たお兄さんを返り打ちにし、更にその恋人までがお兄さんに殺されてしまうという、とっても暗いストーリー。怯み気味に初台へ。

歌手陣はまずまずといったところでした。ヒロインであるレオノーラ役のイアーノ・タマーとその恋人アルヴァーロ役のゾラン・トドロヴィッチは、もう少し歌声に奥行きや深みがあると良いと思いましたが、声量たっぷりの重量級。お兄さんドン・カルロ役のマルコ・ディ・フェリーチェはいかにもイタリア・オペラ向きの明るいテノールです。個人的に一番好みだったのは、居酒屋の娘プレツィオジッラ役のケテワン・ケモクリーゼ。以前、新国立劇場でカルメン役で出たことがあるらしいのですが、非常にはつらつとした演技と歌唱で暗い舞台を活気づけてくれました。《ラ・ボエーム》のムゼッタ役とかも似合いそう。

ヴェルディ節満載の音楽は、ホセ・ルイス・ゴメス指揮による東フィルの演奏が良くまとまっていました。有名な「序曲」を初め、ドラマチックな音楽を楽しみました。

演出は赤を基調にした比較的シンプルなものです。現代風と言えば現代風なのですが(少なくとも原作が想定した18世紀半ばではない)、今一つ時代設定は良くわかりません。現代風とはいえ、ストーリーや音楽とはマッチしたもので、違和感はありませんでした。

特にこれと言った不満は無い公演だったのですが、不思議に自分自身の舞台への投入度は今一つでした。ググッと舞台に引き込まれるような磁力を感じることが少なかった気がします。「何故だろう・・・?」と首をかしげながらの家路となりました。




2014/2015シーズン
オペラ「運命の力」/ジュゼッペ・ヴェルディ
La Forza del Destino/Giuseppe Verdi
全4幕〈イタリア語上演/字幕付〉

2015年4月5日
オペラパレス

スタッフ
【指揮】ホセ・ルイス・ゴメス
【演出】エミリオ・サージ
【美術・衣裳】ローレンス・コルベッラ
【照明】磯野 睦

キャスト
【レオノーラ】イアーノ・タマー
【ドン・アルヴァーロ】ゾラン・トドロヴィッチ
【ドン・カルロ】マルコ・ディ・フェリーチェ
【プレツィオジッラ】ケテワン・ケモクリーゼ
【グァルディアーノ神父】松位 浩
【フラ・メリトーネ】マルコ・カマストラ
【カラトラーヴァ侯爵】久保田真澄
【マストロ・トラブーコ】松浦 健

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団


La Forza del Destino

2014/2015 Season

Music by Giuseppe VERDI
Opera in 4 acts
Sung in Italian with Japanese surtitles
Opera Palace

Staff
Conductor José Luis GOMEZ
Production Emilio SAGI
Scenery & Costume Design Llorens CORBELLA
Lighting Design ISONO Mutsumi

Cast
Donna Leonora Iano TAMAR
Don Alvaro Zoran TODOROVICH
Don Carlo Marco di FELICE
Preziosilla Ketevan KEMOKLIDZE
Padre Guardiano MATSUI Hiroshi
Fra Melitone Marco CAMASTRA
Il Marchese di Calatrava KUBOTA Masumi
Mastro Trabuco MATSUURA Ken

Chorus New National Theatre Chorus
Orchestra Tokyo Philharmonic Orchestra
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東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.6 『ニーベルングの指環』 第1日 《ワルキューレ》

2015-04-07 23:20:33 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


間違いなくワールドクラスのパフォーマンスだった。終演後は疲労でクタクタ。

歌手陣が文句なく素晴らしい。個性的キャラクターが揃う《ワレキューレ》で、どの歌手も声量だけでなく、表現の幅、深みが豊かで、「この人はちょっと」と首を傾げることが全くない。私の欧州観劇経験でもこれだけ充実した歌唱が揃う機会はなかなかない。個々の歌だけなく、そんな歌い手たちの歌いあいから生まれる緊張感にも痺れまくった。1幕のジークムント(ロバート・ディーン・スミス)とジークリンデ(ワルトラウト・マイヤー)の兄妹であり恋人である二人の掛け合い、2幕のヴォ―タン(エギルス・シリンス)とフリッカ(エリーザベト・クールマン)の夫婦の応酬、3幕のブリュンヒルデ(キャサリン・フォスター)とヴォ―タンの親子間の葛藤などは、其々背筋が寒くなる戦慄を覚える名演。

アジア系歌手陣も活躍した。フンディングを歌った韓国のシム・インスンは、太く安定した声が特徴的で、ジークムント(ロバート・ディーン・スミス)に引けを取っていなかった。また、日本人歌手陣が歌ったワレキューレ達も美しく、その美声は脳内でリフレインする。

マレク・ヤノフスキが指揮するN響の演奏も素晴らしい。東京文化会館でN響を聴くのは初めてだが、普段のNHKホールとは違う響きの良さも加わり、冷静ではあるけども、決して冷たくはなく、熱い情感も伴ったバランスの良いワーグナー・ワールドを彩ってくれた。コンサートマスターのキュッヒルの捌きが目を引く。

演奏会方式であるが、ステージ後ろに大きなスクリーンが置かれ、そこに、フンディング家の中、剣が刺さった巨木、岩山といった場に応じたイメージ映像が映し出される。舞台付の《ワレキューレ》は初経験だったので比較はできないが、これで十分だと思った。演出家には申し訳ないが、演出は無い分、音楽に集中できる。

観衆の熱狂も凄かった。開演前からロビーには、定期演奏会や通常のオペラ公演とは異なった高揚した「祭」の雰囲気が漂っていたし、幕間も舞台の興奮をそのまま持ち込んだような空気が流れていた。皆、ワーグナーの催眠術と言うか、覚せい剤にラリっていたよう。

休憩含めて5時間も過ごしたとは思えない程、あっという間に終わってしまった感があったのだが、宙に浮いたような身体を無理やり動かして帰路についた。当分、「ワレキューレの騎行」が当分、頭から離れそうにない。


<席が3階の屋根下だったのはやや残念>



東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.6
『ニーベルングの指環』第1日《ワルキューレ》
(演奏会形式/字幕・映像付)

2015年4月4日、7日
東京文化会館大ホール

■出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ジークムント:ロバート・ディーン・スミス
フンディング:シム・インスン
ヴォ―タン:エギルス・シリンス
ジークリンデ:ワルトラウト・マイヤー*
ブリュンヒルデ:キャサリン・フォスター
フリッカ:エリーザベト・クールマン
ヘルムヴィーゲ:佐藤路子
ゲルヒルデ:小川里美
オルトリンデ:藤谷佳奈枝
ヴァルトラウテ:秋本悠希
ジークルーネ:小林紗季子
ロスヴァイセ:山下未紗
グリムゲルデ:塩崎めぐみ
シュヴェルトライテ:金子美香
管弦楽:NHK交響楽団 (ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
映像:田尾下 哲


■曲目
ワーグナー:舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』第1日《ワルキューレ》
(全3幕/ドイツ語上演/字幕・映像付)
※ 上演時間:約4時間50分(休憩2回含む)


Spring Festival in Tokyo -Tokyo Opera Nomori 2015-


Tokyo-HARUSAI Wagner Series vol.6
'Der Ring des Nibelungen' - "Die Walküre"
(Concert Style / With projected images and subtitles)

Tokyo Bunka Kaikan Main Hall

  Conductor:Marek Janowski
  Siegmund:Robert Dean Smith
  Hunding:In-sung Sim
  Wotan:Egils Silins
  Sieglinde:Waltraud Meier
  Brünnhilde:Catherine Foster
  Fricka:Elisabeth Kulman
  Helmwige:Michiko Sato
  Gerhilde:Satomi Ogawa
  Ortlinde:Kanae Fujitani
  Waltraute:Yuki Akimoto
  Siegrune:Sakiko Kobayashi
  Rossweisse:Misa Yamashita
  Grimgerde:Megumi Shiozaki
  Schwertleite:Mika Kaneko
  Orchestra:NHK Symphony Orchestra, Tokyo
          (Guest Concertmaster: Rainer Küchl)
  Musical Preparation:Thomas Lausmann
  Video:Tetsu Taoshita
  
【Program】
Wagner:'Der Ring des Nibelungen' Vorabend "Walküre"
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METライブビューイング チャイコフスキー《イオランタ》/ バルトーク《青ひげ公の城》

2015-04-04 12:29:52 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 METライヴビューイングの2本立て企画《イオランタ》/《青ひげ公の城》に行ってきました。この2014-2015シーズンはオープニングの《マクベス》を初め、観たい演目がいくつもあったのですが、なかなか時間が取れず、今作品が初めてです。

 今回の2本立てのプログラミングは、METがチャイコフスキーの《イオランタ》(MET初演)の演出をマリウシュ・トレリンスキに依頼したところ、演出家の方からバルトークの《青ひげ公の城》とのカップリング提案があったとのこと。双方とも童話に基づく話であること、囚われのヒロインがメインである共通点はありますが、《イオランタ》がハッピーエンドで王女が救われる話である一方に、《青ひげ公の城》がおどろおどろしいサイコサスペンスでかなり趣は異なります。明暗の対比を楽しむのか、その差異に違和感を覚えるか、観る人によって印象は分かれるでしょう。トレリンスキ氏は「この2本を一つの作品の一部と二部として構成させた」と幕間のインタビューで答えていましたが、現代風にアレンジされたプロダクションは全編を通じて、演出家の強い意図を感じる個性的な舞台でした。

 私としては、《青ひげ公の城》のすさまじい緊張感に圧倒されました。ユディット役のナディア・ミカエルの取り憑かれたような迫真の演技と歌唱、張り詰めた雰囲気を盛り上げるゲルギー指揮のオーケストラ演奏、そして映像を多用し謎めいた城の空間を築きあげる演出が、絶妙な組み合わせ。観ていて、場面、場面で強力に引きつけられ、心理的にも追い込まれ、下手なサスペンス映画よりよっぽど怖かった。オペラとして見るのは初めてでしたが、これは相当な名演であることは間違いないです。

 《イオランタ》は美しい音楽と題名役のアンナ・ネトレプコとヴォデモン伯爵のピョートル・ベチャワの圧倒的歌唱を初めとした歌手陣が特に秀逸でした。ただ、私は一週間の仕事の疲れが抜けず、前半の侍女たちが歌う子守唄(?)〈花の歌〉を聴いている間に、自分が寝入ってしまう始末。自分として投入感がもう一つだったのが残念。

 このMETライブビューングはホスト役の解説や出演者達へのインタビューがあるのが大きな楽しみの一つです。今回はディナートがホストのもと、ゲルギーやネト嬢へのインタビューが作品の位置づけや見どころを楽しく紹介してくれました。


《イオランタ》/《青ひげ公の城》
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
演出:マリウシュ・トレリンスキ


《イオランタ》
出演:アンナ・ネトレプコ(イオランタ)、ピョートル・ベチャワ(ヴォデモン伯爵)、アレクセイ・マルコフ(ロベルト)、イルヒン・アズィゾフ (エブン=ハキヤ)、イリヤ・バーニク(レネ王)
言語:ロシア語.

《青ひげ公の城》
出演:ナディア・ミカエル(ユディット)、 ミハイル・ペトレンコ(青ひげ公)
言語:ハンガリー語.

Met Opera Live Double bill: Tchaikovsky's Iolanta / Bartók's Duke Bluebeard's Castle

Iolanta cast:
Anna Netrebko, Piotr Beczala, Alexey Markov

Duke Bluebeard''s Castle cast:
Nadja Michael, Mikhail Petrenko

Conductor:Valery Gergiev
Production:Mariusz Treliński
Choreographer: Tomasz Wygoda
A co-production with Teatr Wielki-Polish National Opera.
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映画 『ジャージー・ボーイズ』  (監督 クリント・イーストウッド)

2015-04-01 19:25:38 | 映画


 アメリカで70年代に一世を風靡した4人組のグループ「フォー・シーズンズ」の成功と挫折を描く映画。ニュー・ジャージー州出身の4名組なので、ジャージー・ボーイズである。クリント・イーストウッドが監督。

 個人的体験だが、学生時代、アメリカに少々滞在していた時に、アメリカ人の友人とニュージャージーについての話になった。「ニュー・ジャージーってニュー・ヨークの隣にあるという以外は何の特徴もないつまならい田舎だよ。訪ねるようなところはまるでないしね。連中のアクセントがまた田舎っぽい。ブルース・スプリングスティーンがニュー・ジャージ訛りの典型。ボソボソしゃべって、何だか良く分からないだろ」。今ではニューヨークやフィラデルフィアの近隣エリアとして全米でも高所得者の集まる州のようなので当時とは全く違うようだが、この映画を見て、当時の会話が鮮明に思い出された。

 そのつまらないニュー・ジャージーを抜け出して成功を掴む。しかし成功は長くは続かず、破たん。それでも、ニュー・ジャージーで培われた友情は特別。アメリカ映画っぽい、テーマ設定・展開は何となく予定調和的なものを感じるが、まあ逆に安心して見ていられるというところもある。

 全編を通して、耳に覚えのあるフォーシーズンズのナンバーが流れるのは楽しい。が、宣伝にあった「ミュージカル」というジャンル分けには疑問符がつく。ミュージカルという程、音楽に溢れているわけではなく、ドラマとして観た方が良いだろう。

 クリント・イーストウッド監督と言えば、「硫黄島からの手紙」「父親たちの星条旗」といった社会派の硬派作品が思い浮かぶので、この映画には少々驚いた。決して軟派な映画ではないが、彼がこの作品に込めたメッセージはなんなのだろうか?というのは私には最後までピンとこなかった。


スタッフ
監督 クリント・イーストウッド
脚本 マーシャル・ブリックマン 、 リック・エリス
製作総指揮 フランキー・ヴァリ 、 ボブ・ゴーディオ 、 ティム・ムーア 、 ティム・ヘディントン 、 ブレット・ラトナー 、 ジェームズ・パッカー
製作 グレアム・キング 、 ロバート・ロレンツ 、 クリント・イーストウッド
撮影 トム・スターン
美術 ジェームズ・J・ムラカミ
編集 ジョエル・コックス 、 ゲイリー・D・ローチ
衣裳デザイン デボラ・ホッパー

キャスト
フランキー・ヴァリ ジョン・ロイド・ヤング
ボブ・ゴーディオ エリック・バーゲン
ニック・マッシ マイケル・ロメンダ
トミー・デヴィート ヴィンセント・ピアッツァ
ジップ・デカルロ クリストファー・ウォーケン
ボブ・クルー マイク・ドイル
コメント (2)
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